今年の主役は、米ウィスコンシン州の退職者ビル・ハイゼルマンさんやフランス南東部の自営農家ルシアン・デュランさんのような人々だったと言えるだろう。

  ハイゼルマンさんやデュランさんらは今年、欧米諸国を席巻したポピュリズム(大衆迎合主義)のうねりをかき立て、政治体制の現状維持にいかに強い不満を抱いているかを世論調査専門家や投資家の意表を突く形で知らしめることとなった。

  選挙の専門家やエスタブリッシュメント(権力層)の政治家の一般通念では、グローバル化に取り残されたことへの広範な怒りが、英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択や、米大統領選でのドナルド・トランプ氏当選の原動力となったとされる。

  しかし、米中西部であろうと、反緊縮を唱えるポピュリスト政権が誕生して2年近くたつギリシャの場合であろうと、人々の不安のうちグローバル経済の中で見捨てられたとの感覚に根ざす部分はほんの一部にすぎない。そこには、いかに統治されるかについての一段と根深い不満があり、それは財政刺激策や輸入関税、株高でも容易になだめることはできない。

低失業率でも

  ハイゼルマンさんが住む地域の失業率は3.2%で、2000年以来の低水準に並ぶ。中小企業経営から引退したハイゼルマンさんは不法移民に反感を持ち、トランプ氏の支持者となった。一方、仏リヨンとアルプス山脈の中間にあるそこそこ繁栄した地域で農業を営むデュランさんは、「現実世界から隔絶された」ブリュッセルの官僚が原因で極右政党、国民戦線(FN)への自身の忠誠が強固なものになったと話す。こうしたムードは、来春の同国大統領選挙でマリーヌ・ルペン党首率いるFNの躍進を後押しする可能性がある。

イアン・ブレマー氏
イアン・ブレマー氏
Photographer: Nicky Loh/Bloomberg

  ニューヨークを本拠とするコンサルティング会社ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長は、「仮想現実であろうと現実であろうと、世界は一層多くの壁を目にすることになるのが実態だろう」と語った。

  この結果、広範な訴求力を持つグローバル化擁護論を巧みに訴えることのみならず、現状を突き動かしている経済力や政治力の重要性を政策立案者が吸収できるようになるまで、まだ何年もかかるかもしれない。

  一方、金融や貿易のグローバル化を示す指標からは、途上国の何億人もの人々を貧困から脱却させた統合が揺らぎつつあることを確認できる。国際決済銀行(BIS)の公表データによれば、銀行の国際的な与信水準は金融危機以降に落ち込んでいる。国際的な債券発行も停滞している。

  15年のモノと商業サービスの貿易量は05年の約2倍に膨らんだが、伸びはほぼゼロとなっている。世界の生産に対する貿易取引の比率は15年に急低下し、05年とほとんど同水準であることが世界貿易機関(WTO)のデータから分かる。

陰鬱な領域

  ING銀行の国際貿易分析責任者、ラオル・リーリング氏(アムステルダム在勤)は「世界の貿易は一段と陰鬱(いんうつ)な領域に滑り落ちつつある」とコメント。オランダ経済政策分析局を引用しつつ、数量ベースで見た世界の貿易は16年10月に「大きな痛手を被り」、通年では09年以来最悪の年となりそうだとの見通しを示した。

  米ブラウン大学のジェフ・コルガン教授(政治学)は、「グローバル化に必然性はない」と述べるとともに、「多くの国々のコスモポリタンのエリートはグローバル化のメリットをあまり上手に擁護してきておらず、それに対して深刻な挑戦を目の当たりにしているところだ」と説明した。

  世界の市場の開放性には近現代史を通じて盛衰があった。ドイツ銀行のエコノミストであるジョージ・サラベロス、ロビン・ウィンクラー両氏は最近のリポートで、今日のリスクは新たな「非グローバル化」の期間に突入することだと分析。そうなれば貿易の伸びはさらに鈍化し、資本の流れは阻まれ、多くの企業が採用する「多国籍のビジネスモデル」を損なう恐れがあると予想した。

原題:Outrage Over the Economy Doesn’t Explain Surging Global Populism(抜粋)

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