塩野義製薬は業容拡大に向け、場合により最大6000億円規模の合併・買収(M&A)を検討する。重点領域の感染症、疼痛(とうつう)、中枢神経の分野で高い相乗効果が見込める先を想定する。製薬業界では新薬開発費の高騰で生き残りをかけ数兆円規模の巨額買収が相次いでいるが、こうしたメガファーマの戦略から距離を置き、より小規模の買収や業務提携をてこに成長を目指す。

手代木功社長
手代木功社長
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  手代木功社長はブルームバーグとのインタビューで、激変する事業環境の中でも「売上高3兆円の企業と、われわれのように3000数億円の企業では成長戦略が自ずと異なる」と指摘。「当面は大きなものは持たない経営に軸足を置きたい」とし、基本的には販売網などインフラを広げすぎず、製品ごとに提携先と分担して開発・販売に当たる方針を示した。一方、相乗効果が高い相手先なら投資家や金融機関に買収後の戦略について支援を得やすいとして、手元資金の2~2.5倍に当たる「5000億~6000億円ぐらいまでであれば考えておくべきだと思う」と述べた。

  提携の例として、英グラクソ・スミスクライン(GSK)と共同開発、2013年に発売した抗HIV薬は、GSK子会社に販売権を譲渡する代わりに同子会社株式10%を取得。製造・販売コストから解放される一方、配当とロイヤルティー収入を得る身軽な収益モデルとなっている。手代木社長は「多くの会社といい提携をすることで、自分たちの特徴を出していきたい」と話す。19日には、17年に米で発売予定の便秘薬ナルデメジン販売について、米医療用麻薬最大手のパデューファーマと提携したと発表した。

  一方、革新的な科学の発見によって勢力図が一変する可能性がある業界だけに、手代木社長は「買収を否定しないし、これに関してかなりのネットワークを広げて持っているつもりだ」と述べた。手元資金に当たる9月末の現預金・相当物の総計は約2570億円。塩野義薬は11月、売却手続きに入っている米デポメッドについて「M&Aや提携の可能性について協議している企業に含まれる」と電子メールでコメントしている。同社の時価総額は約11.5億ドル(約1360億円)。

現在の価格相場「ちょっと高すぎる」

  製薬業界で巨額買収が増えている背景には、医薬品の特許切れで利益が大きく落ち込む特有の収益構造にある。画期的な新薬の開発が年々難しくなる中、多くの製造設備や人員を抱えるメガファーマが存続をかけて新薬候補を持つ企業を丸ごと買収する例が増えているからだ。手代木社長は、特許切れを「業界にとって未来永劫(えいごう)尽きない悩みだ」としつつ、同社にとって「現時点の価格相場はちょっと高すぎると思う」とも述べた。

  ブルームバーグのデータによると、年初来の製薬業界のM&A総額は50.4兆円とM&A総額(481.6兆円)の約10%を占める。独バイエルによる660億ドル(約6兆8000億円)規模の米モンサント買収計画やアイルランドのシャイアーによる320億ドル(約3兆7600億円)の米バクスアルタ買収などが含まれており、1件当たりの買収額は全業種平均(120億円)の2倍以上の277億円となっている。

  また、買収を仕掛けられる可能性もある。塩野義薬は開発力に定評がある。ベイン・アンド・カンパニーなどの分析によると、新薬候補の創出した価値を研究開発投資額で割った研究開発生産性は14年(4年累計)で、塩野義薬は3.1倍と国内大手7社平均(1.5倍)を大きく上回りトップ。16年9月現在の新薬候補に占める自社開発割合は72%と高水準になっている。

異業種参入が進む業界

  手代木社長は「製薬業界であれば、当社に興味を持ちそうな企業は大体想像がつく。そういう企業とは普段からコミュニケーションを取り、突然後ろからバッサリという形にならないようにしたい」とする一方、異業種の参入が進む業界だけに「極論すればIT(情報技術)関連、AI(人工知能)関連企業が創薬企業を、という可能性だってある」と指摘。「現段階で話はないが、買収提案があれば成長戦略を聞き、ステークホルダーにとって、メリットの方がデメリットより大きいようであれば検討する義務があると思う」とした。

  現在の新薬候補で、国内で少人数の患者を対象に臨床試験が進む抗肥満薬は同社が期待するものの一つだ。成功すれば、肥満が社会問題となっている米市場で巨大な需要が見込める。手代木社長は、先発品が副作用や効果が不十分などの理由で普及が進んでいないことから「年2000億円から3000億円の市場を取れる可能性がある」と期待する。多くの患者を対象とする最終の臨床試験に進めば米市場で提携先を探し、共同開発とする方針。国内治験は17年初頭に完了予定という。

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