日本銀行は金融政策決定会合で、9月に導入した長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みによる金融調節方針の維持を決定した。11月の米大統領選以降、長期金利が上昇、為替相場も円安に振れているが、黒田東彦総裁は記者会見で長短金利の操作目標引き上げを議論するのは時期尚早だと述べた。

  黒田総裁は会見で、2%物価目標の達成は「まだまだ遠い」と述べ、長期金利と短期金利の操作目標の引き上げについて「具体的に議論するのは時期尚早かなというふうに思っている」と言明。今は目標達成に向けたイールドカーブ形成を促すため強力な金融緩和を推進していくことが最も適切だと語った。18年4月までの総裁任期中に現在の金融緩和の出口が議論になる可能性についてはあるともないとも明言しなかった。

  黒田総裁は、現在の円相場について「円安と言うよりもドル高」だと指摘、金融政策の違いは何らかの影響を為替に与えるが、「今の時点で、何か円安が行き過ぎて問題になる、そういった見通しは持っていない」と述べた。同時に現在の水準は2月ごろと同じであり「別に驚くような水準とも思っていない」とも語った。総裁発言を受けて円は下落し、日本時間午後4時半すぎでは1ドル=117円90銭台で取引されている。

  同日の決定会合で、長期金利(10年物国債金利)を「0%程度」、短期金利(日銀当座預金の一部に適用する政策金利)を「マイナス0.1%」といずれも据え置いたほか、長期国債買い入れ(保有残高の年間増加額)のめどである「約80兆円」も維持した。指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)の買い入れ方針も据え置いた。

日銀本店
日銀本店
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  前会合に続き、木内登英、佐藤健裕両審議委員が長短金利操作等の金融調節方針に反対した。ブルームバーグがエコノミスト39人を対象に6-12日に実施した調査では、全員が現状維持を予想していた。円安の進行とともに追加緩和期待は大きく後退しており、黒田東彦総裁の任期の2018年4月まで追加緩和はないとの見方が25人(64%)と多数を占めた。 

  またブルームバーグ調査では、黒田総裁の任期中はマイナス0.1%の短期政策金利の引き上げはないとの予想が9割と圧倒的多数だった一方で、長期金利目標については26%が引き上げを予想した。

景気判断

  日銀は発表文で、足元の景気について「緩やかな回復基調を続けている」として判断を上方修正した。従来の「新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられる」との表現は削除。輸出は「持ち直している」、個人消費は「底堅く推移している」、鉱工業生産は「持ち直している」として、いずれも判断を引き上げた。

  大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストは「景気判断は幅広くいろいろなところで上方修正になっている」としながらも、「一番大事なのは実際に物価指数が上向き、それによってインフレ期待に働き掛けることだ。そうなるには時間がまだかかるだろう」としている。
 
  黒田総裁は会見で、不動産市場について現時点で過熱はないが金融機関にはリスク管理を促したいと述べた。またETFの買い入れついては物価目標早期実現に必要な施策として、株価の動きによって買い入れペースが左右されるものではないとの考えを示した。

  企業短期経済観測調査(短観、12月調査)は、大企業・製造業の業況判断指数(DI)が昨年6月調査以来6期ぶりに改善。同調査の「企業の物価見通し」では、1年後の上昇率の平均値が14年3月の統計開始後、初めて前回調査を上回った。

  信州大学の真壁昭夫経済学部教授はブルームバーグ調査で、新たな枠組みの導入によって、「日銀は金融政策の持続性を確保した」と指摘。「足元では米金利上昇を受けて国内金利にも上昇圧力がかかっているが、市場は安定を保っている。米国の財政・金融政策の不透明感はあるものの、当面、日銀は現状を維持するだろう」とみている。

長期金利引き上げ予想

  米大統領選でのトランプ氏勝利以降、大規模な財政出動への期待から米長期金利が急上昇しており、国内の長期金利にも上昇圧力が加わっている。急激な金利上昇を抑えるため、日銀は11月17日、中期ゾーンで指定した利回りで国債を金額無制限で買い入れる指し値オペを初めて通知。14日には超長期ゾーンの国債買い入れ額を増額した。

  一方、米連邦公開市場委員会(FOMC)は14日、フェデラルファンド (FF)金利の誘導目標を引き上げることを決定。さらに来年3回の利上げを見込んでいることが示され、ドル高円安も加速している。

過度の円安なら国民の反発も

  BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストはブルームバーグ調査で、「14年終盤には、ドル円レートが120円に近づいたころから国内で反発が起き始めた」ことから、「いずれ過度な円安の進展に対し政治的反発が強まる、という事態に直面する可能性が高い」と指摘する。

  河野氏はその上で、「円安が進むにつれ、来年後半には10年金利の許容範囲の上限と市場が解釈する0.1%を多少超えることを日銀が容認する」と予想。16日付のリポートでは、リスクシナリオとして来年前半あるいは早ければ1月末の展望リポートの公表に合わせて長期金利の誘導目標を引き上げる可能性にも言及した。

   一方、シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは同調査で、「安易に長期金利目標を引き上げれば、日銀の金利目標へのコミットメントに対する信認の低下を通じて、イールドカーブ・コントロールが一段と困難になることが避けられないだろう」と指摘。現在の目標を「当面、維持する選択肢しかないように思われる」としている。

  決定会合の「主な意見」は29日、「議事要旨」は来年2月3日に公表する。決定会合や金融経済月報などの予定は日銀がウェブサイトで公表している。

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