旧松下電器産業(現パナソニック)の企業城下町として発展した大阪・門真市。人口減に見舞われ、事業を続ける中小企業は働き手の不足に悩んでいる。宮本一孝市長が活路を見いだそうとしているのは、外国人労働者の受け入れではなくロボットの活用だ。 

  宮本市長は、労働力不足対策は「当然重要なことだと思っているが、移民に関してはハードルが高いというのが正直なところ」と話す。それに比べてロボットに対しては「恐怖感」はなく、それは「ドラえもんとアトムのおかげだと思います」と言う。

鉄腕アトムの人形
鉄腕アトムの人形
Photographer: Wang Gang/VCG via Getty Images

  欧米ではロボット導入は失業を招く懸念につながりやすいが、日本の失業率は約20年ぶりの低水準。むしろ問題は労働力の穴をいかに早く埋めるかだ。米国ではロボットと言えば映画「ターミネーター」のように人間を恐怖に陥れる存在なのに対し、日本では人とロボットの間に絆がある。
 
  こうした文化的な背景もあって、安倍晋三首相にとってはやっかいな移民問題に正面から立ち向かうよりも、いわゆるロボット革命を推進する方が取り組みすい状況になっている。

  製造業の未来の姿はすでに富士山麓で実現している。ファナックの本社工場では、人の姿がほとんどない中で、ロボットが次々にロボットを生産。16年3月期の営業利益率は35%に達している。同社の米国事業のウェブサイトは「Save Your Factory (工場を守ろう)」と訴えている。

ファナックの産業用ロボット
ファナックの産業用ロボット
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  ロボットは製造業の分野でいわゆる3Kの仕事の負担を軽減してきた。今後は介護などの分野での活用に期待が広がる。

  安倍政権は製造分野でロボット市場を2020年までに倍増し1.2兆円規模とすることを目指している。サービス分野などの非製造分野でも1.2兆円が目標で、これは現在の約20倍に当たる。世界最大のロボットの買い手である中国は昨年、ロボット事業を産業政策の柱の一つに据え、2020年までにはロボットの半数を国内で生産する方針を打ち出した。

  ボストンコンサルティンググループの試算によると、産業用ロボットの導入によって日本の製造業の人件費は2025年までに25%削減できる余地があるという。

  日本人のロボットに対する親近感は第二次世界大戦後に育まれた。同志社大学社会学部メディア学科の勝野宏史准教授は、鉄腕アトムが与えたイメージは、「高度成長期の時のある種の夢というか、将来日本がこういうふうになるというある種の明るい未来像だった」と語る。

  勝野氏は、高度成長期に労働力が圧倒的に不足していたことも背景として指摘する。また欧米の場合は機械導入に対して反対運動が起きたが、日本の場合は「終身雇用があったので、むしろブルカラーの労働者がホワイトカラーに変われた」という。工場労働者が解雇されるのではく「デスクワーク的な仕事に回されたので大きな問題も起きなかった」と現実的な一面もあったと語る。

  日本は今、少子高齢化による人口構造の変化に伴い新たな労働力不足に見舞われている。ロボットだけでは経済規模の縮小の根本的な問題は解決できないが、仕事の減少にブレーキをかける手段として活用が期待されている。

  経産省が4月にまとめた報告書によると、ロボットや人工知能(AI)などによる技術革新を生かした場合、労働市場は2030年度までの15年間で161万人縮小するが、そうした技術革新がない場合には縮小規模は735万人に拡大する見通しだという。AIやロボットは高スキルの仕事を増やし生産性を上げるが、レジ打ちや経理などの労働集約的な仕事は減ると指摘している。

広がるロボット

  新しい時代に対応しているサービス産業もある。エイチ・アイ・エス傘下のハウステンボスが長崎県で運営する「変なホテル」は、女性や恐竜のロボットがロビーの受け付けで客を多様な言語を駆使して出迎え、手荷物もロボットアームが保管する。顔認証システムが導入されているため、宿泊客はルームキーを持つ必要がない。

  人手不足の深刻化が確実なのは高齢者介護だ。2025年には37万7000人程度の介護労働者の不足が見込まれている。政府が2013年8月に行った世論調査では、高齢者介護にロボットを利用したいと答えた人が約6割に上った。

  サイバーダインの介護支援用のロボットスーツ「HAL」は、介護をする側とされる側をともに支援する。人が体を動かすときに脳から筋肉へ送られる信号を読みとって、その信号の通りに動くため、人の動作をサポートする仕組みだ。

  門真市で産業用ゴムを生産する「出雲」の大坪勤代表取締役は、パナソニックが生産拠点を海外に移し、中小企業も苦しくなっているという。門真市の人口は12万5000人程度で、1992年に比べると約13%減った。

ソフトバンクのロボット「ペッパー」
ソフトバンクのロボット「ペッパー」
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  門真市は「警察も学校も病院も役所も合併しないとやっていけない。大手企業もそうだが、われわれ中小企業も合併をしなければいけないとか、今はそういう時代」と大坪氏は語る。

  その上で「ロボットによる大量生産体制を作って海外市場に出てみたい」と考えており、「うちは中小企業ですがそういったことも考えていかなければいけない時代だ」と語った。

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE