世界で最も高価な食肉の一つである和牛。そんな和牛に目がないグルメは、脂肪がのって口の中でとろける繊細さを持ちながらも低カロリーの牛肉を求めていると、関村清幸氏は考えている。

関村清幸氏
関村清幸氏
Photographer:Noriko Hayashi/Bloomberg

  宮城県栗原市で畜産業を営む関村氏(64)が生産する「漢方和牛」の生肉小売価格は250グラムのステーキ用ロースで5000円。牧場近くで運営するレストランではランチタイムにロースステーキ膳として4000円で提供している。同氏が育てる牛の肉には霜降りがないわけではない。和牛独特の風味を醸し出すハチの巣状の結合組織を持ちながら、脂肪分は消化しやすい状態になっている。

  関村牧場が生産する「漢方和牛」は、牛肉が適切な種類の脂肪分を含むよう通常の穀物飼料にハーブを混ぜて与え、育てられている。こうすることで、よりヘルシーな食材を求める消費者にアピールすることができ、今後増加が予想される輸入牛肉と競合できると、関村氏は説明する。「高齢化が進む中で、脂っこくない肉を求める人が増えている」。

14種類のハーブ

  農畜産業振興機構によると、昨年度に国内で食肉処理された和牛は約47万3000頭、和牛肉の生産高は約3700億円に上る。関村グループは漢方和牛の唯一の生産者だ。漢方和牛は国内の和牛生産のほんの一部を占めるにすぎないが、関村氏は、低脂肪の和牛の開発に比較的小規模な投資を行うことで、和牛市場で差別化を図ることを望んでいる。

  日本ハムは関村グループが生産する牛肉の約80%を購入している。同社で漢方和牛の販売を担当する稲葉学氏は「漢方和牛は希少な牛肉として評価されている。国内で取り扱う店も増えており、海外での販売もこれからの検討課題と考えている」と話す。

  宮城県産業技術総合センターによれば、関村牧場で生産される漢方和牛は、脂肪を燃焼させることで知られるアミノ酸、アラニンの含有率が通常の和牛より50%高い。脂肪抑制効果があることで知られる別のアミノ酸、スレオニンの含有率も通常の3.5倍に上る。

関村牧場で使用されている14種類のハーブ
関村牧場で使用されている14種類のハーブ
Photographer:Noriko Hayashi/Bloomberg

  関村牧場産の牛肉の秘密は飼料にある。漢方和牛の飼料には14種類のハーブが含まれている。ハーブは和牛の筋肉に含まれる脂肪が溶ける温度を約21度に下げる働きがあり、肉質がより柔らかくジューシーになる。この温度は通常の牛肉より約10度低い。

  関村氏は「8年かけてうちの牛に一番合う漢方ハーブの配合を突き止めた。牛をもっと健康にする餌を作ろうとしていたら、人に優しい牛肉を作ることができた」と語る。

飼育数を拡張

  日本の畜産業界では、2001年に国内初の牛海綿状脳症(BSE)、10年には過去最多の牛と豚の殺処分を余儀なくされた口蹄疫(こうていえき)が発生。そして、11年には東日本大震災に見舞われた。この時は福島第一原子力発電所が炉心溶融(メルトダウン)を起こし、放射能に汚染された飼料を通じて牛が被害を受けた。

  こういった一連の出来事を背景に、関村氏はヘルシーな牛肉生産への情熱を高めていったという。「牛に何を食べさせたら消費者が安心して牛肉を食べられるかと考えた」と話した。

  大震災と原発事故が発生した11年には、東京都の食肉市場で放射能に汚染された牛肉が発見された。これを受け、和牛の平均価格は同年に11%下落し、過去10年で最大の落ち込みを示す。畜産業者の牛肉生産からの撤退が加速した。

  関村氏は、畜産業をやめようと思ったことはない。震災後の子牛の値下がりは、購入を増やして飼育数を拡張する好機になったと振り返る。今ではこれまでの取り組みが全て報われたと感じている。

原題:When Fat Equals Flavor, $260 Steaks Get a Diet Makeover in Japan(抜粋)

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