中国が産業用ロボットを含む製造業強化政策を打ち出す中、現地での成長期待が高まっている安川電機が買収リスクにさらされている。小笠原浩社長は2025年度までに最大10社程度の合併・買収(M&A)を検討するなど、企業価値を高めて対抗していく考えを示した。

  小笠原社長(61)は都内での11月28日のインタビューで、25年までの経営ビジョンで掲げる連結売上高8700億円以上(15年度は4113億円)の達成に通常の成長では「2000億円から3000億円ほど足りない」とし、不足分は買収などで補う考えを示した。巨額買収ではなく比較的小規模の会社を最大10社程度まで買いたいとした。買収対象はロボットのほか、電気自動車と風力・太陽光発電など環境関連分野で、技術や市場を持つ中国企業を買収する可能性もあると述べた。

小笠原浩社長
小笠原浩社長
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  業界では独クーカが今年、中国企業に買収されるなど勢力図に変化が生じている。小笠原社長は、安川電に対しても「協業や資本投入」をして「一緒にやりたいというのはいっぱいある」という。買収を防ぐ確実な方法はなく、収益性の向上や買収による技術と市場の取り込みなどを通じて「企業価値を上げ、そういうことをしかけられないようがんばるしかない」と話した。

  安川電は日本のファナック、スイスのABB、クーカと並ぶ世界4大ロボットメーカーの一角。今年7月に中国最大の家電メーカー、美的集団は約40億ユーロを投じる買収計画で、クーカの株式86%を取得したと発表。安川電の時価総額は約4700億円と美的の投資額とほぼ同規模で、高収益で知られるファナックと比べると8分の1以下の水準にとどまっている。

  CLSAのアナリスト、モーテン・ポールソン氏は「安川電は業界3位の企業であり、クーカより企業規模は大きく利益率も高い」と評価し、「同社を買収したいという関心は少なくない」と話した。

  中国政府は昨年5月に発表した中長期にわたる製造業強化へのロードマップ「中国製造 2025」で打ち出した10の重点分野の中で、先端デジタル制御工作機械とロボットを次世代情報通信技術に次いで2番手に挙げ、自国の技術基盤の底上げを進めていくとした。

  中国政府によると、現在労働者1万人当たり49台のロボットを導入しているのを20年までに約3倍の150台に増やす方針。国際ロボット連盟の試算によると、これは60万-65万台のロボットが新たに導入されることになり、毎年12-13万台の増加となる計算。中国は20年にはそのうちの半分を地場メーカーが生産する目標を設定している。15年の世界のロボット市場規模は25万3748台だった。

「玄洋社」と辛亥革命

  安川電は中国と歴史的に深い因縁がある。同社発行の創業100周年記念書籍によると、創業者の安川第五郎氏とその父親の実業家、敬一郎氏はともにアジア主義を掲げて明治から昭和初期にかけて活動した政治結社「玄洋社」のメンバーで、敬一郎氏は中国の辛亥革命を起こした孫文を資金援助したとしている。また、習近平国家主席が09年の副主席時代に北九州市の工場を視察に訪れてもいる。

  小笠原社長によると、これらのエピソードは取引がある中国企業関係者にはよく知られており、「会社の説明がいらず、中国から見たときに信用できる会社」とすぐに受け入れてもらえるという恩恵があるとした。 

安川電機のロボット
安川電機のロボット
Photographer: Krisztian Bocsi/Bloomberg

 

  その中国が世界最大かつ今後しばらくは最も成長率が高い市場となる。小笠原社長によると、足元の販売は好調で現状ではロボットを製造する会社と生産現場に導入する会社の双方に補助金が出ており、数百社ものロボットメーカーが乱立している。現地に生産工場を持ちロボット本体だけでなく部品も製造販売している安川電にとって「今のところ他社よりはハッピー」と恩恵を受けやすい立場にあるとの認識を示した。

  中国では人件費高騰と1人っ子政策による人手不足の問題が「日本で考えているよりものすごく逼迫(ひっぱく)しており、自動化は待ったなし」の状況で、中国がロボット関連の技術を「手に入れたいと思ってるのは間違いない」と述べた。資本提携を含む協業の提案は中国を含む世界中からあるとしたが、これ以上資金を得ても使い道がなく、「外からの資本を入れたほうがいいという理由は今はない」と述べ、現状では申し出を進んで受け入れることはないとした。

利益率の差

  安川電の営業利益率は15年度で8.9%とファナックの約35%と比べて大きく見劣り、時価総額で格差が広がる要因の一つになっている。バーンスタインのアナリスト、アルベルト・モエル氏はファナックと比べて工場の自動化が遅れていることや、製品の品ぞろえの幅が広く製品を顧客のためにカスタマイズする傾向があることなどが、利益率の差を生んでいると分析している。

  小笠原社長は企業価値向上へ収益性改善のための取り組みも進めるとしている。世界規模で経営管理システムを統一するなど経営の数値管理を徹底していくほか、一つのロボットをつくるために必要な部品点数も削減する方針を明らかにした。製品の品ぞろえについては顧客の要望もあり、単純な絞り込みは「うちの良さがなくなる」と当面は行わない考えを示した。

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