日本へようこそ!ビジネスですか?それとも観光ですか?もしあなたが東京の高級で特別な、そして予約の難しい人気レストランで食事を楽しみたいのなら、元ゴールドマン・サックスの日本人トレーダーに任せてみてはいかがだろうかー。

  米ゴールドマンに15年勤務しマネジングディレクターを務めた山田隆(38)は、「テーブルオール」というレストランサイト運営会社を設立、11月からサービスを開始した。西麻布の懐石「霞町すゑとみ」や、銀座のすし「青空(はるたか)」といった人気店をラインアップ、海外の富裕層などから予約を受ける。

  日本語の分からない外国人にとって、和食の名店の予約確保は難しい。「一見さんお断り」の店もあれば、路地裏にひっそり隠れ、口コミだけで知られる店もある。滞在するホテルのコンシェルジュを通して予約を試みても、1年先まで満席であることも珍しくない。

Takashi Yamada
Takashi Yamada
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  「トレーダー時代、海外の友人やクライアントから店の予約を頼まれたが、その時、滞在先ホテルのコンシェルジュ経由でないとなかなか店が取れないと知り、その問題を解決したかった」ー。山田は起業のきっかけをこう語る。「外国人に本当の日本食文化を楽しんでほしい。リアルでディープな日本を知ってほしい」という。

京都、金沢、札幌へ

  テーブルオールのビジネスモデルは、座席をあらかじめ買い取っておくという点でユニークだ。客は手数料の3000円とコースの料金をテーブルオールに支払えばいい。飲み物代は当日店に払う仕組みだ。予約日に近いキャンセルには費用が発生する。

  テーブルオールは現在、東京の11レストランと契約。料金は「霞町すゑとみ」なら一人3万4000円(手数料など込み)から、ミシュランに選ばれた南青山の「天ぷら元吉」は2万円(同)からとなる。英語のウェブサイトには料理や店の雰囲気から食器やシェフの経歴まで詳しく豊富な写真と独自取材により紹介されている。

  山田は現在、家族とシンガポールに在住しているが、月に1、2度東京を訪れ、契約店のシェフと対話を深める傍ら、新たな名店の開拓にも余念がない。テーブルオールは2017年中に京都や金沢のほか、札幌やスキーリゾートで有名なニセコなどの名店20店を追加、スケールを拡大する計画だ。ただ、会社を新規株式公開(IPO)する考えはないという。

海外セレブを追え

  顧客として狙うのは企業のトップや富裕層、ヘッジファンドのトレーダー、バンカーなど海外セレブにとどまらない。日本酒や日本食に興味のある一般観光客も大歓迎だ。契約店はミシュランに選ばれた有名店だけでなく、知る人ぞ知る名店まで幅広い。ラインアップをシンガポールや香港、ハワイに広げる構想も持つ。

  このビジネスの難しい点は、これ以上予約を取る必要のない人気店に、外国人観光客のために座席を2席、定期的に譲ってもらうことだ。山田はしばしば、「常連客が来れなくなる」などの理由で新規契約を断られている。

「こんばんは」「おやすみなさい」

  「霞町すゑとみ」の末冨康雄シェフ(42)は外国人客について、彼らはお店に温かい雰囲気をもたらすと歓迎している。たまたま隣り合わせた人に「こんばんは」「おやすみなさい」と声を掛ける姿や、箸や椀(わん)の扱いをはじめ食事中のマナーも時として日本人より優れていると感心している。

  ある土曜日の昼下がり、西麻布にあるその店は京都から届いたばかりの高級ガニであふれていた。夜には常連企業の貸し切りパーティーがある。末冨氏は「テーブルオール成功の鍵は、顧客会員のクオリティーに委ねられているのではないか」と指摘する。「優良な顧客が集まれば、さらにメンバーになりたいという人が増えるだろう。そうなれば店にとってもいい」と期待をのぞかせる。

  テーブルオールの会員は7日時点で550人。「メンバーシップコード」があり、事前にキャンセルを申し入れることなく予約日の当日に現れないと会員権が失効する。また、ドレスコードなどもあり、サンダルやショーツ、香りの強いフレグランスなどは身に付けないよう規約で定めている。

ユネスコの無形文化遺産

  現在テーブルオールの会員は500人。訪日する外国人観光客は増加しており、2016年は中国などアジア圏からのインバウンドが急増しているのに加え、アメリカ人やカナダ人も前年に比べ2割程度増えた。訪日外国人旅行者数は今年初めて2000万人を超えた。

  日本政府は東京でオリンピック・パラリンピックが開かれる2020年までにはインバウンドを倍増する方針で、観光立国として日本の存在感を高める支援策も打ち出している。日本の食文化である和食は、2013年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されている。

  農林水産省は和食・日本人の伝統的な食文化について、四季が明確で自然豊か、そこで生まれた食文化もそれに寄り添うように生まれてきたと紹介。国土は南北に長く海、山、田園などが広がり、各地域に根差した多様な食材やその味わいを生かす調理技術・器具も発達しているなどと説明する。

慶応からゴールドマン

  山田は01年に慶応大学商学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社、当初はデリバティブ営業部に配属された。10年には株式のエグゼキューションサービス部長に就任し、2年後にはマネジングディレクターに昇格した。

  ゴールドマンでは機関投資家向けに日本株などの売買を仲介。山田は「顧客の売りポジションに、買いを見付けてはめることはよくあった」と振り返った。「テーブルオールでも座席を事前に押さえるという『在庫リスク』を取る。これはゴールドマンでの金融の仕事、ブローカービジネスと共通する」と語った。

  テーブルオールでは予約チャージのほか、仮にキャンセルが発生しても別の会員に転売できれば、キャンセル料も新たな利益となる。山田は稼いだ蓄えの一部を起業に充てたが、実は「人が思うほどお金はかかっていない」という。「ゴールドマンではいかにコストをコントロールするかを教えられた。それは得意だ」と笑った。

スパイに間違われることも

  名店の新規開拓で東京を訪れる際には、口コミで聞いた店に一人で何度か足を運ぶ。おいしく、そしてホスピタリティー(おもてなし)の心を感じた店では契約を目指し店主を説得するという。「丸刈りの男が一人でカウンターに座って食事をしていると、同じ職人で、スパイではないかと思われることもある」と山田は苦笑する。

  山田はおいしいものが大好きだ。自分が好きなものは人にも広めたい。大学時代1年間留学したアムステルダムではサーモンなど手に入る食材を使ってすしパーティーを開き、世界中から集まったクラスメートに手巻きずしを振る舞った。子供のころの夢は「ケーキ屋さん」。今は時折、シンガポールの自宅で二人の息子とキッチンに立ち、ロールケーキをつくるのが山田にとって最も楽しい時間だ。

  ゴールドマンのMDという立場を捨て起業した山田。今年は英国の欧州連合(EU)離脱決定や米国大統領選でのトランプ氏の勝利などさまざまな経済イベントの中、日経平均株価は乱高下、先月には年初来高値を更新した。セールストレーダーとしてはこれほどのビジネスチャンスはなかったはずだ。しかし未練はない。今思うことは一つだけ。

  「日本の食文化を世界に広めたい」ー。

(敬称略)

英文記事: Trip to Tokyo? Ex-Goldman Trader Sells Secret Dining Access (1)

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