戦後4番目の長期政権となった安倍晋三首相の妻、昭恵さんは自ら居酒屋も経営し、フェイスブックのアカウントを通じて10万人以上のフォロワーに情報を発信する行動派のファーストレディーだ。安倍政権の方針にときには異論を挟む首相の家庭内野党的な存在でもある。

  東京・神田の細い路地に構える居酒屋「UZU(うず)」で11月29日、ブルームバーグのインタビューに応じた昭恵さん。黒のスーツ姿で現れ、夫には「いろんな意見の人たちがいるということを伝えたい」と穏やかな口調で話す。

安倍昭恵さん
安倍昭恵さん
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  第2次安倍政権の発足から間もなく4年。第1次安倍政権と合わせた在任日数は4日で1806日と中曽根康弘政権に並び、5日に戦後歴代4位となった。首相には一般の人は簡単に近づけないことから、昭恵夫人は自分が活動を通じて、「主人の周りには届かないような声を拾って、届けたい」といい、「そこが野党的なのかもしれない」と語った。

政治家の妻

  昭恵さんは、東京生まれの54歳。1987年に晋三氏と結婚した。政治家の妻として夫の選挙区を回り、「地元の人たちの意見を聞いてきたと思っていた」が、最近になって「それは安倍晋三を応援する後援者の意見だった」と気が付いたという。「自民党を応援する人だけのための総理大臣ではない」というのが今の思いだ。

  8月には、住民らの反対運動が続いている沖縄・高江の米軍ヘリパッド建設予定地周辺を訪れた。「反対されるかな」と思って首相には告げずに向かったものの、首相夫人の突然の来訪に現地は混乱、「10分くらいの滞在」でその場を後にした。「もう少し段取りをきちんと考えた方が良かった」と振り返るが、沖縄では「安倍政権には反対という人たち」と夜中まで話し込んだという。

  言動は国会で取り上げられたことも。2013年10月の参院予算委員会では社民党の吉田忠智氏が昭恵さんと小泉純一郎元首相が原発に反対していることを指摘。原発ゼロを決断するよう求めたが、首相は「2人とも私にとって極めて重要な人物」としながらも、「エネルギーの安定供給、これは経済活動にとって極めて重要」と答弁した。
          
  「毎日野党から批判されている中で、私が家に帰ってまた言うと、もうちょっと止めてくれよということもある」と夫婦のやりとりを明かす。そんな時は「民主的に選ばれているのは主人」であり、考え方を「無理やり私が変えるというのもそこは違うかな」と感じるという。

経営する居酒屋「UZU(うず)」にて
経営する居酒屋「UZU(うず)」にて
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

SNSでの発信

  首相夫人として、SNSを使った人々とのつながりにも力を入れている。日々更新しているフェイスブックを通じたつながりから「仲良くなった人たちもたくさんいる」が、批判する書き込みも少なくない。11月13日の投稿では「批判コメントやメッセージを読んでいるとめげることもある」と心情を吐露した。

  顔の見えないネット上の書き込みの中では、昭恵さんに期待する人から「何でもっとちゃんと言わないんだとすごく責められる」こともあるという。「何でそんなに意見が違うのに一緒にいられるんだ、離婚しろ」との声が寄せられることもあるが、こうした中傷は「余計なお世話です」と気に留めない。

日本の文化への思い

  居酒屋「UZU」の看板メニューは、山口県下関市で自ら生産に関わる無農薬の「昭恵米」だ。田植えにも稲刈りにも機械を使わず、土鍋で炊くこの米を「東京でも食べてほしい」と思ったことが店をオープンした理由のひとつ。

  開店したのは2012年。その年の12月に晋三氏が2度目の首相に就任したため、昭恵さんも店の経営に専念することは難しくなったが、スタッフと共に「完全に国産」の食材によるこだわりの料理を提供している。首相官邸でもニホンミツバチを飼育し、自分の手で採蜜するなど都会での自然環境保護にも取り組む。

  「戦後欧米文化が入ってくる中で、日本が本来持っていたものが少し損なわれている」-。そんな思いが根底にあるという。例えば、大麻についても日本では「100年もたたない前にはそこら中で栽培していた」もので、神社での「祓(はら)いの神事」にも必ず使われていたと指摘。医療用の解禁を訴えるが、自らは「一度も吸ったことはない」という。

首相夫人としての今後

  2006年に発足した第1次安倍政権の時は、前任が夫人のいない小泉純一郎氏だったため、「引き継ぎのようなもの」もないままファーストレディーとしての日々が始まった。転機となったのは当時のブッシュ米大統領夫人、ローラさんとの出会いだ。ランチを共にした際に、無理をせず今までやってきたことや関心があることを続けていけば良い、と助言を受けたという。

  それから10年。昭恵さんは首相夫人としての役割を果たす一方で「自分がやりたいこともこれからはやっていきたい」と意気込む。海外の首脳夫人の姿を参考に、「いつも夫婦が一緒ということでもこれからはなくなっていくのかもしれない」と語った。

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