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GPIFに現れた予期せぬ助っ人、収益増へ力強いレバレッジ効果

更新日時
  • トランプ氏の勝利後、世界的な株高と円安・ドル高が加速
  • モルガン・スタンレーは内外株式に約9兆円の積み増し余地と推計

世界最大の年金基金、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は予想だにしなかった強力な支援者に巡り会ったようだ。米国の次期大統領となるドナルド・トランプ氏だ。

 

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トランプ次期米大統領

Spencer Platt/Getty Images

  GPIFは年金積立金132.1兆円の43%近くを国内外の株式に投じ、うち8割超は運用指標の銘柄構成に従うパッシブ運用手法を取っている。大型減税やインフラ投資を唱えるトランプ次期政権に対する思惑から広がる世界的な株高・金利上昇とドル高は、GPIFにとって、株高の恩恵を受けやすくし、資産全体の3分の1超を占める外貨建て資産を円換算で上振れさせてくれる追い風だ。

GPIF President Norihiro Takahashi Presents Annual Results

高橋則広GPIF理事長

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  クレディ・アグリコル証券の尾形和彦チーフエコノミストは、「トランプ相場はアベノミクスにとって、少なくとも目先は追い風だ。GPIFにもかなりの恩恵をもたらす」と指摘。資産規模で勝るゆうちょ銀行よりもリスク資産の構成比が高いので「GPIFが受けるメリットは国内最大だ。株高と円安の余地はまだあるため、力強いレバレッジのかかった収益増が期待できる」とみている。

The Trump Effect

  TOPIXは9月末までの3カ月間で6.18%、MSCIコクサイ指数は円換算で2.29%の上昇にとどまった。しかし、トランプ氏当選が確定した日の翌10日から先週末にかけてTOPIXは11連騰で12.6%上昇。ブルームバーグのデータによると、主要94株価指数の中で5番目の好成績だ。米S&P500種株価指数は史上最高値を更新し、世界の株式時価総額は6416億ドルも増加。MSCIコクサイは8.4%上げた。

  円相場は9月末に1ドル=101円35銭と四半期末では2014年6月末以来の高値を付けたが、先週末には一時113円90銭とトランプ氏当選当日の高値から12.5%下落。今月の下げは09年2月以来の大きさだ。円はユーロに対しても同期間に5.7%下落した。

  GPIFは第2次安倍晋三内閣が主導した14年10月の資産構成見直しで国内債の目標値を60%から35%に下げ、内外株式は12%ずつから25%ずつに、外債は11%から15%へ引き上げた。昨年6月末までの3四半期で12兆円余り稼いだ後の1年間は、株価の伸び悩みや円高基調で13兆円を超える運用損を計上した。25日に公表した運用状況によると、7-9月期の運用益は2.4兆円で、資産構成変更後の通算収益がようやくプラス圏に戻っている。

  リスク資産の割合を高めたため、GPIFの収益の浮き沈みは激しくなっている。基本ポートフォリオの検証結果によると、価格変動を示す標準偏差は国内債の4.2%に対し、国内株は25.2%、外株は26.8%と6倍超に上る。外債は11.8%だ。資産全体では12.4%と全額を国内債で運用する場合の3倍近く振れやすい。

  公的年金制度の一部であるGPIFは年金財政検証が推計した名目賃金上昇率を1.7ポイント上回る運用利回りを長期的に確保する責務を負う。賃金が2.7%上がる経済シナリオの名目期待収益率は国内債が2.3%にとどまる一方、国内株は5.9%、外株は6.7%、外債は4.1%だ。GPIFは5月、年金財政が必要とする積立金の水準を下回るリスクが策定時より下がったため、基本ポートフォリオ変更の必要はないと結論づけた。

  GPIFの運用資産に年金特別会計が管理する約8.4兆円も含めた積立金全体に占める国内債の割合は9月末に36.15%と過去最低を更新し、国内株は21.59%に上昇した。ただ、外株は21%、外債は12.51%に低下。短期資産は8.75%と資産構成の見直し以降で最も高まる中、リスク資産を買い増す余地が膨らんだと言える。

  ブルームバーグの試算によれば、国内債の保有額は9月末に約50.8兆円、国内株は約30.3兆円、外株は約29.5兆円、外債は約17.6兆円。積立金全体の規模が変わらないと仮定した場合、国内債は償還分も含めて目標値まで約1.6兆円減らす余地がある。国内株は値上がり分も込みで約4.8兆円、外株は為替損益も含めて約5.6兆円、外債は約3.5兆円の積み増しが必要だ。

  モルガン・スタンレーMUFG証券の株式統括本部でエグゼクティブ・ディレクターを務める岩尾洋平氏らはGPIFの公表内容と直近の相場動向に基づき、国内債の構成比が24日時点で35%と目標値まで下がる一方、国内株は23.3%に上昇したと推計。ただ、外株は20.5%に低下し、外債は12.6%と微増にとどまったとみる。

  原因は8.6%と高水準のキャッシュを抱えているためで、目標値に到達するには国内債を含む全ての資産クラスを増やす必要があると、岩尾氏らは指摘。国内債は足元から約510億円、国内株は約2.4兆円、外債は3.4兆円、外株は約6.5兆円を積み増す余地があると試算した。

日経平均、2万円も

  高橋則広理事長は25日公表した説明資料で、7-9月期に運用収益が回復したのは原油価格が落ち着きを取り戻したことなどで世界的にリスクオンの動きが広がるとともに、国内では経済対策への期待が高まったからだと説明した。広報責任者の森新一郎氏は記者説明会で、現行の10-12月期は国内外の株高や円安といった運用にプラスの要因が多いとし、積立金は長期的にみれば順調に積み上がっていると述べた。

  ミラボー・アジアの香港在勤トレーディング担当ディレクター、アンドルー・クラーク氏は、GPIFは自らの運用方針の正しさが立証されたと感じているのではないかと指摘。トランプ相場に対しては、慎重ながらも楽観的に捉えているに違いないと語った。

  GPIFは資産構成の変更が終盤に差し掛かった昨年央から、世界的な市場の混乱に次々と見舞われた。今年前半は円高・株安がさらに進行し、リスク資産の積み増しが裏目に出ていたが、トランプ氏が当選してからの株高・円安で運用環境が改善している。9月末の運用資産は過去最高だった昨年6月末の141.1兆円より9兆円余り少ないが、安倍内閣の発足直後に当たる12年末からは約20兆円増えている。

  運用資産が203.8兆円とGPIFの1.6倍近いゆうちょ銀のリスク資産の残高は9月末に64.4兆円と、当初の計画より1年半余り前倒しで目標を達成した。ただ、地方債や社債、貸付金など為替リスクがない円建て資産が14.6兆円を占め、相対的にリスク性の高い外債と株式などは50兆円弱と全体の4分の1未満にとどまる。GPIFはリスク資産の構成比がゆうちょ銀の2倍超と高く、トランプ相場の恩恵を受けやすい。

  クレディ・アグリコル証の尾形氏は、トランプ相場が「仮に来月の米利上げを経ても一服しない場合、来年1月20日の次期大統領就任まで続くことになる」と読む。「米30年債利回りなどには上昇余地があり、円相場も115円を超えて120円に近づいていく可能性も完全には排除できない」と分析。日経平均株価は円相場が「115円で1万9000円、120円で2万円を期待できる」とみている。

  トランプ相場はGPIFに世界的な株高と円安・ドル高という恩恵をもたらしているが、債券運用には逆風だ。日本の長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは25日に0.045%と、2月中旬以来の高水準を付けた。米バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの指数によれば、米国債の収益率はトランプ氏の当選以降マイナス2.629%と09年以来の低水準だが、円換算するとプラス5%に様変わりする。

  民進党幹事長代理の玉木雄一郎衆院議員は9月のインタビューで、GPIFの株式保有増に伴う巨額の運用損で「国民全体がギャンブルに付き合わないといけない状況」になっていると指摘。日本銀行も含めた公的マネーの日本株保有増によって「生産性の向上とか新しいイノベーティブなチャレンジがむしろ阻害されている」と批判した。

  しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹運用部長は、GPIFは運用成績が「良い時は何も言われないが悪いとたたかれる。5年から10年の期間で評価すべきだ」と指摘。GPIFはトランプ相場を「過度に楽観視することなく警戒感を保っているだろうが、しばらくはこの方針を自信もって続けられるだろう」と語った。

(第13段落以降を追加して更新します.)
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