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新黒田バズーカで勢い付く円弱気派、安倍・トランプ会談後も一層に

更新日時
  • 円安・ドル高が「かなり」進む-モルガン・スタンレー
  • 今後も必要なら「いくらでも無制限に買い増す」と黒田総裁

外国為替市場の円弱気派が一段と勢い付いている。ドナルド・トランプ次期米大統領の経済政策を先取りした米国の金利上昇が続く中、日本銀行の黒田東彦総裁が利回り指定の新型の国債購入に動くなど、円安要因になり得る日米金利差の拡大観測が一段と強まっているからだ。

  米10年物国債利回りは18日に一時2.36%と年初来の高水準を付け、米大統領選の結果が判明する直前の水準を50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上回った。同年限の日本国債利回りも2月以来の高水準となる0.04%を付けたが、金利の上げ幅は米債に比べ5分の1程度と小さい。トランプ氏と安倍晋三首相が会談後に友好関係の構築への意欲を共に示した同日の日米10年債の利回り格差は5年以上ぶりの水準にまで拡大している。

Abe and Trump

トランプ次期米大統領と安倍首相

Bloomberg

  この日の円の対ドル相場は一時1ドル=111円12銭と前週に引き続き5月31日以来の円安値を更新。トランプ氏が公約した大型減税やインフラ投資などが米国の経済成長とインフレを加速させ、米利上げが進むとの見方を背景にした円売り・ドル買い圧力は根強く残っている。モルガン・スタンレーは、円が「かなり」下げると予想。バンク・オブ・アメリカ(BofA)は、来年は120円程度まで円安・ドル高が進む可能性があると読む。

  メリルリンチ日本証券の山田修輔チーフFX/株式ストラテジストは「トランプ氏の当選に伴う米金利の上昇に釣られていないのは日本だけだ。黒田総裁が指し値オペの発動で金利の抑制を続けると意思表示したので、米10年債利回りがさらに上昇しても国内金利がどんどん上がっていくとは考えにくい」と指摘。「日本では追加緩和しなくても、金融緩和の度合いが自動的に強まっていく」とみている。

Climbing Together

  円安・株高を背景とした追加緩和観測の後退を受け、日本の中期債利回りがマイナス幅を急速に縮小した日の翌17日。日銀は2年債をマイナス0.09%、5年債をマイナス0.04%で買い入れる指し値オペを初めて実施した。実勢より高い利回り(安い価格)という条件だったため、金融機関からの応札額はゼロ円だったが、市場は日銀からのけん制球だと受け止めた。

  日銀は9月に金融緩和策の枠組みを変更。日銀当座預金の一部にマイナス0.1%の付利を課すのに加え、10年債利回りがゼロ%程度で推移するよう、国債を購入する「長短金利操作」を中心に据えている。黒田総裁は18日の衆院財務金融委員会で、中期ゾーンの金利上昇が「かなり急ピッチ」で適切でなかったと説明し、今後も「場合によってはいくらでも無制限に買い増す」と語った。

  モルガン・スタンレーのチーフグローバル通貨ストラテジスト、ハンス・レデカー氏(ロンドン在勤)はインタビューで、日銀はイールドカーブ(利回り曲線)を望ましい水準に誘導するために「非常に賢明に対処している」と指摘。円安・ドル高が「かなりの勢いで進むだろう」との見通しを示した。

生保は国内回帰せず

  生命保険協会の根岸秋男会長(明治安田生命保険社長)は18日の記者会見で、日銀が10年債利回りの上昇を0.10%程度までは容認すると思っていたので、現在の水準で指し値オペを発動したのは意外だと発言。国内金利は従来の円債投資計画を修正する水準ではないとの認識を示した。かんぽ生命保険や日本生命保険など主要生保は今年度下期、超低金利が続く国内債券の保有残高を減らす方針を示している。

  スタンダード・ライフ・インベストメンツでシニア日本アナリストを務めるゴビンダ・フィン氏(香港在勤)は、今回の円安をもたらした日米金利差の拡大は「日銀のイールドカーブ・コントロールによって確実性が高まった」と分析。「今後の焦点は明らかに、日銀が現在の水準に踏みとどまるか否かだ」とみている。

  JPモルガン・アセット・マネジメントの塚谷厳治債券運用部長は「日銀が残存10年程度までの利回りを自らが望む水準に抑えたいという姿勢が指し値オペの発動で鮮明になった」と指摘。「当面は米金利がさらに上がって円安・株高になっても、国内金利の上昇は限られる」と読む。米10年債利回りについては当面2.5%程度まで上昇するが、日本は0.07-0.08%止まりで、円安・ドル高が112-113円まで進むと予想する。

トランプ氏の関税政策に関する記事はこちらをクリックしてご覧ください

  トランプ氏の政策期待で、同国の予想インフレ率は14日に昨年4月以降で初めて2%台に迫った。日本の同指標も上昇しているが、トランプ氏当選後の上げ幅は米国の半分程度にとどまっている。

  元日銀理事の早川英男氏は先週のインタビューで、トランプ氏の当選を受けた米財政赤字の拡大やインフレ圧力の高まり、長期金利の上昇とドル高、保護主義の強まりという流れは、まず変わりようがないと指摘。日銀は恐れていた円高が遠のくため、「何もしないでこのままごろ寝をしていればよい」と述べた。

ドル・円はインフレ資産

  トランプ次期米大統領と初会談を終えた直後に安倍首相は、記者団の質問に対し、具体的な内容について言及を避けた。トランプ氏からも市場が懸念していた保護貿易主義的な言動が伝わらなかったのを受け、18日の東京市場では円安・ドル高に拍車が掛かった。

  メリルリンチ日本証の山田氏は「世界の金融市場はデフレを前提にポートフォリオを組んでいたため、トランプ氏の当選を受けて修正を迫られている」と指摘。「ドル・円と日本株はインフレ資産なので、グローバルな資産構成の見直しの中で買われていく」ため、円安・ドル高は投資家にとってペイン・トレード(痛みを伴う取引)になっていると言う。

  米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は17日の米議会証言で、景気の拡大を背景に利上げが「比較的早期に適切になる可能性が十分ある」と述べた。米大統領選が金融政策に及ぼす影響については、米国経済は極めて順調に前進していると述べ、財政政策がもたらす利益と代償を見極める任務は議会と政権にかかっているとした。

  米フェデラルファンド金利先物を基にブルームバーグが算出した利上げ予想確率によると、市場はFRBが12月に0.25ポイント追加利上げすると100%近く織り込むなど、金利の上昇圧力を強めている。

  米国債をはじめとする24通貨の投資適格債で構成するブルームバーグ/バークレイズ世界債券指数は米大統領選の直前から先週末までに約4%下落。大幅な金利上昇で2週間の下落率としてはデータでさかのぼれる1990年以降で最悪となる半面、新規投資の対象では割安感が出ている。しかし、日銀の管理下にある日本国債は蚊帳の外だ。

  モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントで4060億ドルの運用に携わるグローバル債券担当の最高投資責任者、マイケル・クシュマ氏(ニューヨーク在勤)は米10年債利回りが今後1年間で2.5-2.75%に上昇すると予想。日本国債には「金利収入もなければ、値上がりによる売買益も見込めない。保有目的はリスク回避だけだ」と指摘する。

  JPモルガンAMの塚谷氏は、日銀の金融政策について「インフレ率の見通しが改善するまでは、今回示した金利コントロールの方針を続ける」と読む。「仮に円・ドル相場が120円を目指す展開になれば、物価見通しが変わってくるので、姿勢の変更を徐々に匂わせてくる可能性がある」とみている。「本音はテーパリング(国債買い入れ規模の縮小)なので、長短金利操作を調整して利回りの上昇余地を広げていくのではないか」と語った。

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