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世界は変わってしまった、トランプ財政はジャパンマネーで解決か

更新日時
  • 日米の10年債利回り格差は14年1月以来の大きさ
  • 国内勢の外債買越額は今年、過去最大を更新する勢い

ドナルド・トランプ政権が公約している大盤振る舞いの財源を誰が担うのかー。米国債市場では投資家の売り圧力で金利が急上昇しているが、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)など邦銀3メガグループ系の運用会社は、むしろ買い増す好機が到来しつつあるとみている。

  米10年物国債利回りはトランプ次期大統領が決まって1週間もたたないうちに2%の大台に乗せた。マイナス圏にとどまる同年限の日本国債との利回り格差は、2014年1月以来の高水準となる224ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)に達している。米10年債は為替差損を回避(ヘッジ)するためのコストを差し引いた利回りでも、6月以降で初めて0.5%を超えた。

U.S. Yield Surge Draws Japan Investors

  トランプ氏は大型減税や1兆ドル規模のインフラ投資などによる経済成長の加速を訴え、金融危機後の格差拡大に苦しむ米中産階級の支持を集めて当選した。米共和党は同時に行われた上院選と下院選でも過半数を確保しており、政策の実現性は低くないはず。米連邦準備制度理事会(FRB)による年内の米利上げ観測も健在だ。一方、日本銀行の黒田東彦総裁が長短金利のコントロールを打ち出した日本の国債利回りはわずかな上昇にとどまっている。

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トランプ次期米大統領

Photo by Mark Wilson/Getty Images

  三菱UFJ国際投信債券運用部の小口正之チーフファンドマネジャーは「トランプ氏が公約した景気刺激的な政策は市場への影響が非常に大きい」とみる。「インフレ期待も高まっており、今後も世界的に株価と金利は上がる方向だ」と分析。米10年債利回りは「次期政権発足後の来年3月ごろまでに3%前後まで上がる可能性がある。バーナンキショック、テーパー・タントラム当時の水準が目安になる」と読む。  

  三井住友アセットマネジメントの深代潤グローバル戦略運用グループヘッドは、米10年債利回りは「政策の実現性に左右されるので、現時点では予測は難しい」が、「金融緩和への過度な偏重は後退し、財政拡張が主役へと世界が変わってしまった」と指摘。「今までと同じだと思っていると、痛い目に遭う恐れがある。これまで低金利に余りにも慣れ過ぎたので、あまり甘くみない方が良い」と言う。

  トランプ次期政権の景気刺激策がインフレを押し上げ金利の上昇につながるとの見方から、投資家の資金は米債を離れ、米株に向かう兆しが出ている。14日の米国市場では、ダウ工業株30種平均が3営業日連続で最高値を更新。米30年債利回りは3%、米2年債利回りは1%と、1月以降で初めてそれぞれ大台を付けた。

  市場性のある米国債の発行残高は約14兆ドルと、世界2位の日本国債の1.5倍を超える規模だ。財政赤字は昨年10月から今年9月までの16会計年度に5874億ドルと前年度より34%拡大。経常赤字が6月までの1年間に4883億ドルに上るため、米国内の資金不足を海外からの流入で補わなくてはならない構造だ。

  日本の外貨準備と民間投資家による米国債の保有額は8月に1144億ドルと5年間で26%増加。拮抗する中国には、昨年2月に保有額が6年半ぶりに上回った。財務省の統計によると、国内勢は今年10月末までに海外の中長期債を前年同期の2.5倍に相当する買い越しを行っている。データでさかのぼれる05年以降の年間買越額との比較でもすでに過去最大となっている。

  機関投資家向け業務の運用残高が国内最大のアセットマネジメントOneで債券運用グループのファンドマネジャーを務める吉野剛仁氏は、米10年債利回りについて、「すでに12月の利上げを織り込み、トランプ財政によるインフレリスクのプレミアムを乗せた水準にある」と分析。「公約の実現性が非常に高ければ2.4-2.5%もあり得るが、就任前の年内で2.2-2.3%は魅力的な水準だ」とみる。

  トランプ氏は先週の大統領選勝利演説で成長を倍増し、最強の経済にすると言明。次期政権の大統領首席補佐官には共和党全国委員会のプリーバス委員長を起用することを決めている。同氏の経済顧問は米連邦準備制度の独立性は次期政権下でも尊重されると述べ、別の経済顧問は既存の通商協定が適切に執行されれば新たな関税は不要だとしている。

  三菱UFJ国際投信の小口氏は、トランプ氏の「過激な発言は選挙戦向けの意図的なものだった可能性がある。財政赤字にしても野放図な拡大は考えにくい」と指摘。「実業家として成功したトランプ氏が実体経済の市場規模を広げるグローバル化に反対という見方も誤りだ。反グローバル化ではなく、少数の人々に富が偏在し、分配されない仕組みが問題だと批判している」と説明した。

  10年物の予想インフレ率は急上昇し、14年以来の2%台に大接近した。小口氏は「米利上げペースも次期政権下ではガラッと変わり得る。来年3-4回に加速する可能性を市場が織り込む場面がいずれ来るのではないか」と予想。「米景気との兼ね合いもあるので、個人的には来年は3回とみている」と言う。

  三井住友AMの深代氏は、次期政権について「没落しつつある米中間層への配慮をかなり厚くするだろう。就任までは期待感が先行し、米金利はスティープ(傾斜)化しやすい」と指摘。「トランプ氏は愚か者ではない。支持基盤である低所得層の生活苦につながるインフレは怖いはずだ」と言い、「12月実施の後は財政出動の規模にもよるが、回数が増える可能性がある。来年は四半期に1回程度に加速してもおかしくない」と語った。 

ヘッジ後の妙味回復

  円を元手に米国債などの外国債券を購入する際、将来的に円高が進行した場合の為替差損をヘッジするには、円と外貨のロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の格差やクロス通貨ベーシススワップなどに代表される両通貨の需要格差に基づく上乗せ金利も必要だ。ヘッジ後の米10年債利回りは今夏にはゼロ%を割り込んだが、米大統領選後の金利上昇で投資妙味が回復しつつある。

  アセットマネジメントOneの吉野氏は、「米国債のイールドカーブ(利回り曲線)がスティープ化し、日米金利差とベーシススワップを含めたドルの調達コストを加味しても妙味がある水準だ」と指摘。「金利上昇による保有債券の評価損もあって無邪気に買える状況ではないが、投資は少し怖さが残っている場面で動くものだ。ようやくチャンスが到来したと言える」と述べた。

  ドルと円の金利差は3カ月物で97bp程度と1年前の約3.3倍に拡大している。米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を引き上げる局面にある一方、日銀が長短金利を一定の水準に抑える金融緩和策を推進しているためだ。ドル建てと円建ての資金を一定期間交換するベーシススワップ取引の3カ月物は14日に70bp前後と、9月末に記録した終値ベースの最高水準79bpが視野に入りつつある。

  三井住友AMの深代氏は「国内勢は為替と米金利のボラティリティが落ち着けば、みな米国に向かうだろう。為替ヘッジしても日本の金利よりはマシになるからだ」と指摘。もっとも、米国経済は長期的には「内向きになればなるほど、潜在成長率は下がっていく。財政出動でお金が楽に手に入るようになると、汗をかかなくなる。日本と同じ道だ」と語った。

(第14段落以降を追加して更新します.)
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