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ミスター円:トランプ政権でもドル安変わらず、半年後に90円も

更新日時
  • 「次期政権は恐らくドル安政策だ」
  • 米金利上昇は限定的、12月利上げも「五分五分」に

Former Japan Vice Finance Minister Eisuke Sakakibara, discusses the Japanese yen, the Bank of Japan's monetary policy, how a Donald Trump presidency might impact the dollar-yen trade and the timing of the next Fed rate hike. He speaks to Bloomberg's Rishaad Salmaat on 'Bloomberg Markets.' (Source: Bloomberg)

ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任しても、緩やかな円高・ドル安の流れは変わらない-。ミスター円の異名を取る榊原英資元財務官は、新政権のドル安志向と日米の金融政策を踏まえると、1ドル=90円程度まで円買い・ドル売りが進む可能性があるとみている。

  青山学院大学教授の榊原氏(75)は10日のインタビューで、トランプ氏が選挙運動で雇用重視などアメリカ・ファースト(米国最優先)を掲げてきたことを挙げ、「次期政権は恐らくドル安政策だ。市場の反応も行ったり来たりだが、緩やかな円高・ドル安が進んでいく」と指摘。「今年末から来年にかけて100円を突破する可能性がある。そうなれば、今後6カ月程度で90円もあり得る」と予想した。

榊原元財務官テレビインタビュー

Source: Bloomberg

  トランプ氏優勢で大統領選の開票が進んだ9日、東京市場では株価が急落し、円は対ドルで英国の欧州連合(EU)離脱派が勝利した6月24日以来の上昇率を記録した。しかし、米国時間にはトランプ氏が主張する大規模減税やインフラ投資拡大による成長促進や財政赤字拡大の思惑から、株価と米金利が上昇。翌日の為替市場では、ブルームバーグのドル指数が約8カ月ぶりの高値を付け、円は1ドル=105円96銭と7月下旬以来の水準に下げた。

  榊原氏は米金利の上昇と、雇用や輸出に有利なトランプ氏のドル安志向は、市場の論理としては「両立しないため、当面は乱高下しやすい」と読む。ただ、米経済の伸び悩みを踏まえれば「米金利もどんどん上がっていく感じではない」、次期政権は「ドル安志向なので、あまり利上げを好まないかもしれない」と指摘。今や、米連邦準備制度理事会(FRB)による12月の利上げは「ほぼ五分五分」だとみている。

  榊原氏は9月下旬のインタビューで、トランプ氏が勝つ確率は「意外と50%近くある」と予想。過激な発言で物議を醸しているが、大統領になれば現実的な路線に転じるため、あまり危機感を抱く必要はないと述べていた。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは、トランプ氏の当選が日銀の金融政策に与える影響は現時点では判断のしようがないが「最大のリスクは超円高の再燃」だと分析。新政権の政策の方向性と実現性が見えてくるまで、国際金融市場では「ボラティリティの高い状況が続くかもしれない」と話した。

円と株

  円相場が急騰した9日。金融庁、日本銀行の関係者らと国際金融資本市場に関する情報交換会合を午後に開いた浅川雅嗣財務官は、為替市場では投機的な動きが出ており、市場の荒れが続くなら必要な措置を取ると財務省内で記者団に話した。ただ、為替介入には「ノーコメント」とし、主要7カ国(G7)での対応は今のところ考えていないと述べた。

  榊原氏は大蔵省時代に、米欧と協調介入を手掛けた経験がある。アジア経済危機が発生した1997年7月当時は財務官として、日本経済が金融危機に苦しむ中で巨額の円買い介入も実施した。

  今回のインタビューで同氏は、トランプ政権になっても為替介入は難しいと指摘。ドル・円相場での介入は「日本の意思だけではできない。米国はドル安志向なので、100円を突破しても合意しない。事実上できないし、日本だけで実施しても効果がない」と述べた。「米国がドル安に危機感を持つ水準まで来ないと介入できない。それはスピードにもよるが、90円程度ではないか」とみている。

  麻生太郎財務相は10日、過度な為替変動や無秩序な動きは悪影響を及ぼすと国会で発言。ただ、為替市場への政府介入はよほどでないと基本的に控えたいと述べた。財務省の為替介入実績によると、政府・日銀は円相場が75円35銭と戦後最高値を記録した2011年10月31日に8兆722億円と過去最大の円売り・ドル買いを実施。翌月4日まで続けた後、足元まで5年超も介入していない。

  トランプ氏の当選を受け、市場の関心は米国の主要閣僚人事に移っている。榊原氏は財務長官について、クリントン政権で1990年代後半に活躍した「ルービン氏のような金融に精通した東部のエスタブリッシュメントを任命する可能性が高い」と指摘。「財務、国務の両長官には大物を充てるのが定石だ。側近はホワイトハウスに配置すれば良い」と言う。

  米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、トランプ氏に金融政策について助言するエコノミストは次期大統領がイエレンFRB議長に辞任を求める計画はないと語った。同議長は2018年2月に任期満了を迎えるが、「再任は恐らくないのではないか。共和党政権に変わるので、金融政策も変えようという意図が働く可能性がある」と榊原氏は話した。

非常に大きな悪影響

  米国で追加利上げが焦点となる一方、日本では日銀によるマイナス金利政策に加えて、物価上昇率が実績ベースで2%を超えて安定的に推移するまでマネタリーベース拡大を続ける「オーバーシュート型コミットメント」などが注目されている。こうした日米金融政策の違いは両国の金利差などを通じてドル・円相場にも影響を与える。黒田総裁は先月のインタビューで、金融政策は為替相場の誘導が目的ではないとしながらも、円には適正なレンジがあり、注視していると述べた。

  榊原氏は円相場の適正水準に関する黒田総裁の見解は「一般論としては正しい」とした上で、トランプ氏の当選や次期政権の経済政策などによって「そのレンジは変わってくる」と指摘。「恐らく円高方向に移るだろう」と読む。

  円・ドル相場は「このところ大体、日米の金融政策で決まっている」。榊原氏は、すでに織り込まれている米利上げが延期されればドル安要因となるし、世界的な低成長・低インフレの流れを踏まえれば「どんどん続けていくのは難しい」と指摘。日銀の積極的な金融緩和は「最終局面に入っている感じがあるので、円高要因だ。日米とも円高・ドル安方向に金融政策が動いている」と述べた。

  日本の全国消費者物価指数(生鮮食品を除いたコアCPI)は前年比でマイナス0.5%と13年4月の異次元緩和開始前の水準に後退している。日銀は1日公表した経済・物価見通しで、2%の物価目標に達する時期を「18年度ごろ」に先送りした。

  「ずっと続けてきた金融緩和の効果がそろそろ切れてきたが、黒田総裁がさらに激しく動くことは少なくともしばらくはないのではないか。巡航速度の1%前後か若干下回る程度の経済成長なら良しとしなくてはならない」と榊原氏は言う。原油価格などの影響を除いた基調的なインフレ率が「大体0.5%-1%になれば、それほど不満はないだろう」とみている。

  英国民によるEU離脱の選択や米大統領選でのトランプ氏勝利などで浮き彫りになった所得格差の拡大やグローバル化に対する反感の高まり。スペインでは先月末に約10カ月ぶりに政治的な空白が解消されたが、イタリアは憲法改正の賛否を問う国民投票を来月に、フランスとドイツは総選挙を来年に控えている。

  榊原氏は「グローバル化と世界的な金融市場の統合が逆回転し始めた。反グローバル化と離脱・分離の傾向は続いていく。市場にとってはポジティブではない」と話す。保護主義の台頭や貿易量の減少が現実化すれば「日本には非常に大きな悪影響が及ぶ恐れがある。円高・株安圧力が強まりかねない」と言い、「まだ決定的な段階には達していないが、内向き思考と保護主義的な傾向は一つの流れになりつつある」と語った。

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