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米大統領選の手引き:投資家は確信持てず-投開票まであと1日

  • トランプ氏勝利に備えたポジション、2度のFBI発表で増減
  • 円やメキシコ・ペソなど安全資産とリスク資産に影響波及

8日の米大統領選の投開票日まで1日を残し、投資家は賭け屋や各種の世論調査の集計ほどは結果に確信を持てずにいるようだ。

  ジャナス・キャピタル・グループの5日の電子メールによれば、投票日翌日の米S&P500種株価指数がどうなるかについて、オプション市場の動きを踏まえると、民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官の当選確率は63%とされる。世論調査集計の大半は同氏勝利の確率を80%余りと予測し、ファイブサーティエイトの65%は例外だ。

  賭けのサイトを見ても、クリントン氏勝利の確率が最も低かったアイオワ・エレクトロニック・マーケッツでも週末に70%を上回った。6日になって連邦捜査局(FBI)がクリントン氏の私用メール問題で訴追を求めないとする7月の決定に変更はないと判断したと伝わったのが一因だ。

  ジャナスの分析は、4日の金融市場の動向に沿ったものだ。クリントン氏の支持率の低下には歯止めがかかったが、投資家は世論調査で劣勢にある共和党候補ドナルド・トランプ氏の逆転勝利の可能性に備えたポジションを積み増した。

  民主党出身の大統領が共和党の支配する議会に行動を制約されるという、現状維持の見通しが覆されるかもしれないとの懸念がトレーダーの間に広がる中、4日のS&P500種は9営業日続落した。これは1980年の大統領選でロナルド・レーガン氏当選後に数週間続いた下落局面以来の長さ。FBIが10月28日、クリントン氏の私用メール問題の捜査を再開する発表したのを受け、同氏のリードは急激に縮小。安全資産が買われる一方、リスク資産が値下がりした。

  4日時点では、クリントン氏のリードは0.5ポイント未満と小幅ながら1週間ぶりに拡大したが、いずれの資産のポジションもトランプ氏勝利の可能性への防御を強めた形となった。例外だったのは安全資産の代表格である円と、トランプ氏の支持率に反比例する傾向にあるメキシコ・ペソで、円は下げたのに対し、ペソは上昇した。6日のFBIの発表を受けて円安、ペソ堅調の流れは続き、一部の株価指数先物が上昇して銀や金、スイス・フランは先週の上げ幅を削った。

  リスクヘッジの動きは、トランプ氏勝利の場合に生じるとアナリストが予想する展開に合致している。実際にそうなればもっと劇的な流れとなりそうだが、欧州連合(EU)離脱を選択した6月の英国民投票の余波のような事態だ。バークレイズはリポートで、「トランプ氏勝利なら、質への猛烈な逃避が見込まれる」と指摘。大統領・議会選で民主党が圧勝した場合も混乱につながるかもしれないが、その可能性はどんどん後退している。一方、JPモルガン・チェースはリポートで、同じような市場の反応を引き起こす3つ目のサプライズに言及。それは投票の「再集計」が要求される事態だ。

  長期的には、両候補とも歳出拡大と減税を推進したい意向で、それは株価に強材料、債券相場には弱材料となる。次に示すのは各市場についてクリントン氏、トランプ氏のいずれが勝つかによって恩恵を受けるであろう勝者と、ダメージを受けると考えられる敗者の投資資産別のシナリオだ。しかし、米国の選挙直後の投資家の反応は長続きしないケースが多い点を付け加えておく。

Republican Presidential Nominee Donald Trumps Holds Pennsylvania Campaign Rally

投開票日は8日

Photographer: Ty Wright/Bloomberg

株式

クリントン氏勝利の場合:「市場は既にクリントン氏勝利を織り込んでいるので、実際に勝っても上値は限定される」と語るのは、CMCマーケッツのアナリスト、マーガレット・ヤン氏だ。バークレイズはリポートで、S&P500指数は最高3%上昇すると予想している。

  最も打撃を受けるのは金融と医薬品株だろう。

  「民主党による圧倒的勝利のシナリオは、銀行にとって最も厳しい選挙結果の一つを意味する」と、モルガン・スタンレー・リサーチはリポートで指摘。規制強化や税制変更の可能性を挙げ、ゴールドマン・サックス・グループやJPモルガン・チェースの株価に悪影響を与える恐れがあるとした。資産運用会社を潤わせてきた成功報酬に対する規制強化の動きも、ジャナス・キャピタル・グループやワッデル・アンド・リード・ファイナンシャルなどに打撃となりそう。これはトランプ氏も標的としている。

  また、クリントン政権となれば、医薬品やバイオテクノロジー関連株は「医薬品の価格上昇を抑えようという圧力が再び高まる影響を受けかねない」と、ブラックロックのリサーチャーらがリポートで指摘。シティグループは9月に、欧州ヘルスケア産業に対する投資判断を「アンダーウエート」に引き下げた。選挙に絡むリスクが下方修正の理由。医薬品メーカーのノボ・ノルディスクやロシュ・ホールディングの株価は今年これまでに市場全般の動きに後れを取っており、値上がりするのはクリントン氏の支持率が世論調査で低下する時だけとなっている。

  一方、病院運営やメディケイド(低所得者向け医療保険制度)を手掛けるHCAホールディングスやユニバーサル・ヘルス・サービシズのような銘柄は医療保険制度改革の下での補助金から恩恵を受けると、ストラテガス・リサーチ・パートナーズやLPL・ファイナンシャル・ホールディングス、クレディ・スイス・グループのアナリストらはみている。

  クリントン氏は化石燃料への依存を減らす計画であるので、代替エネルギー銘柄も上昇しそう。モルガン・スタンレーが有望視するのはサンランやネクステラ・エナジー。ストラテガスはファースト・ソーラーを挙げる。エバーコアはリポートで、ゼネラル・エレクトリック(GE)、テスラモーターズ、ソーラーシティー、エクセロンをリストに加えた。

トランプ氏勝利の場合:「米国株のバリュエーションはかなり高いので、トランプ氏が勝てば大きく売られる」とCMCのヤン氏は予想。トランプ氏勝利は典型的な「ブラック・スワン的イベント」とみる向きが多いため、相場に与える影響は英国民投票でEU離脱が選択されS&P500種株価指数が2日で5.3%下げた時よりも「ずっと深刻」という。

  バークレイズはトランプ氏当選の場合、S&P500種が最大13%急落すると見込む。一方、シティの株式ストラテジスト、トビアス・レブコビッチ氏は5%程度の下げで済むとリポートで予想した。

  トランプ氏が掲げる政策は貿易や移民に関して異例であるほか、財政政策などは曖昧で、その長期的な影響度合いを測るのは難しいと、JPモルガンの為替・商品・国際金利調査責任者、ジョン・ノーマンド氏は指摘している。それでも、ブラックロックが両候補の支持率と業種別株価パフォーマンスの連関性を分析したところによれば、医薬品や保険、銀行株はトランプ氏勝利の方が良さそうだ。ブルームバーグ・ニュースの個別株分析でも同様の読みが出ている。

  ブラックロックが両候補の支持率と業種別株価パフォーマンスの連関性を分析したところによれば、医薬品や保険、銀行株はトランプ氏勝利の方が良さそうだ。

  キャタピラーやインガーソル・ランドなど公共インフラの工事や維持に関連する銘柄も、トランプ氏の下でより大きなチャンスを得そう。公共投資への計画がクリントン氏より野心的だからだ。これは軍事関連に関しても言えると、クレディ・スイスはリポートで指摘している。また、トランプ政権になれば、石炭火力発電を手掛けるNRGエナジーが恩恵を受けるとモルガン・スタンレーはみている。規制が緩めとなり再生エネルギー利用の伸びが鈍化するためという。

  日本株は他国・地域の株式よりも強い打撃を受け、最大10%下がるかもしれない。円高によるためだと、シティが4日のリポートで指摘した。ただし、「その後の調整局面ではインフラ銘柄ないし防衛関連株で投資機会が生じるかもしれない」とも付け加え、日立製作所や新日鉄住金、三菱重工業などに言及した。

債券

クリントン氏勝利の場合:投資家がリスク資産を選好して米国債を売るため、債券利回りは当初は上昇すると、バンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリストらはリポートで予想した。米国債は世界の債券の指標であるため、米利回りの上昇が世界に波及し、個人や企業の借り入れコストは高まる。

  米10年債利回りはクリントン氏がトランプ氏に対するリードを広げ始めた7月後半以降、最大36ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇。BofAのアナリストらは民主党の見通し改善が利回り上昇の「主な要因の一つ」だと指摘する。

  BMOキャピタル・マーケッツの米金利戦略責任者、イアン・リンジェン氏による市場参加者調査では、クリントン勝利の場合の金利上昇幅予想の平均は5bp。JPモルガンの外国為替・商品・国際金利調査責任者、ジョン・ノーマンド氏はより小規模な反応を予想しており、4日付リポートのクリントン氏に関する部分を「なきに等しい変化」と題している。

  クリントン氏勝利でも共和党が上下両院の少なくとも一つを制し続ける限り、同氏の財政刺激策はトランプ氏の大幅減税や多額のインフラ投資の計画に比べて小規模にとどまるとみられるため、長期的には利回りにほとんど影響を与えないだろう。民主党が議会選で圧勝した場合は歳出増加に伴い利回りが上昇する公算が大きい。

  クリントン氏が当選して富裕層への増税を行った場合、免税債の投資妙味が高まるため、地方債相場は上昇する可能性があるとブラックロックは指摘する。

トランプ氏勝利の場合:英国のEU離脱決定後と類似した動きが想定されるとアナリストらは予想している。6月23日の英国民投票でEU離脱が決まった衝撃から2週間で米10年債利回りは39bp低下し、離脱決定前の水準に戻ったのは9月以降だ。クレディ・アグリコルはトランプ氏勝利の場合に10年債利回りが10bp以上低下すると予想する。リンジェン氏の市場参加者調査では、より小幅な利回り低下が見込まれている。ノーマンド氏はトランプ氏勝利後数日で利回りが1.7%を割り込むと予想した。

  共和党が上下両院で過半数を制した場合には特に、その後トランプ氏の減税とインフラ投資計画が利回りを押し上げる可能性がある。共和党が外交政策で孤立主義を取り、大量の米国債を保有する国が売りに回れば、利回り上昇が加速する恐れもあると、クレディ・アグリコルのアナリストらは分析する。また、気前の良い財政政策が講じられた場合は、今年に入って通常債を上回るパフォーマンスを見せているインフレ連動債に恩恵がありそうだ。

  BofAによれば、トランプ政権が発足した場合でも、民主党が上下両院を制するという最も起こりそうにないシナリオの下では、利回りは横ばいにとどまる見通し。民主党が同氏の大幅減税案に抵抗するためだ。

為替

クリントン氏勝利の場合:為替トレーダーの関心は12月の米利上げの可能性に集中するため、民主党政権の成立に向けて、ドルは他の主要国通貨に対し上昇するだろうと、英調査会社キャピタル・エコノミクスは分析。一方、BofAはクリントン政権下のドル相場について、民主党が議会で多数議席を握った場合に限り、上昇すると予想している。

  ソシエテ・ジェネラルはリポートで、新興市場通貨はクリントン氏勝利を完全にではないがほぼ織り込み済みであり、ロシアを除き「緩やかで一時的な」上昇になるだろうと指摘した。ソシエテ・ジェネラルはこれまでクリントン氏勝利の見込みと連動してきたメキシコ・ペソ相場について、クリントン氏当選の恩恵を新興市場通貨で最も受けると予想した。

  クリントン氏勝利の場合、ペソは前週末比4.3%高の1ドル=18.25ペソに上昇し、それほどでないにしてもカナダ・ドルも上げるだろうと、JPモルガンのジョン・ノーマンド氏は予想。大半のアジア通貨も安心感から2%程度の上昇になると、三菱東京UFJ銀行のストラテジスト、クリフ・タン氏(香港在勤)は分析した。

トランプ氏勝利の場合:外為市場の前週の動きはトランプ氏勝利が決まった場合の通貨動向を示唆している。ドルはほぼ全ての主要通貨に対して下落したが、メキシコ・ペソはその流れに逆らって下げ、対ドルで最もパフォーマンスの悪い通貨の1つとなった。ソシエテ・ジェネラルはペソが前週末終値から17%下げて1ドル=23ペソになると予想する。

  JPモルガンのノーマン氏はトランプ氏が保護主的な措置を一方的に講じることを前提に、ペソは1日で8%、カナダ・ドルは5%それぞれ下げると予測。ただ、メキシコ中銀がペソ防衛に動き米議会がトランプ氏の通商政策を抑え込む方向に動くため両通貨はその後持ち直す見通しという。

  中国の米国からの資産引き揚げや米利上げ先延ばしの懸念が広がり、円のほかユーロ、ポンド、スイス・フランなど主要国通貨が買われる可能性がある。ノーマン氏は円が3%上昇すると予測。カナダ・ドルなど資源国通貨も軟調な展開になるとBMOは分析している。

  みずほ銀行の為替ストラテジスト、ケン・チョン氏(香港在勤)は、中国の為替操作に対し関税を大幅に引き上げるべきだと主張するなどトランプ氏の中国敵視の姿勢から、オフショア元相場は年末までに約3%下落すると予測。長期的には、トランプ氏が中国指導部に対し元の下落ペースを落とすよう政治圧力を加えるとみられることから、元相場の下落は一段と緩やかになる見込みだと、光大証券のエコノミスト、徐高氏は分析した。

  トランプ氏の勝利の場合、トランプ氏の保護主義的スタンスによって新興市場国からの輸入が減少し、これらの国の経済に打撃を及ぼすとの懸念から、人民元以外の新興市場通貨も下落する可能性がある。トランプ氏は北朝鮮との国境部分への米兵駐留の必要性に疑問を呈しており、韓国ウォンも打撃を受けるかもしれない。

  BMOは、共和党が大統領・議会選で大勝したら、ユーロが対ドルで下げる可能性があると予想。米企業に対し、海外で稼いだ資金の本国送還を迫る事態も想定されるためで、「米国を拠点とする多国籍企業の利益保有の多くの部分」が欧州に集中しているためだという。

新興市場

クリントン氏勝利の場合:民主党政権が誕生することから高リスク資産への投資が増え、途上国市場にとっては良い兆しとなるだろう。

  CLSAの中国・香港戦略担当責任者、フランシス・チョン氏はトランプ氏よりクリントン氏の方がタカ派的にみえるため、投資家は中国の防衛関連株への投資を増やす可能性があると指摘。途上国の一次産品銘柄は、米国でのインフラ支出拡大に伴い米国からの需要が増大すると見込んで、買われる可能性がある。

トランプ氏勝利の場合:CMCマーケッツのアナリスト、マーガレット・ヤン氏は「トランプ氏の勝利で恩恵を得る国があるとは思わない」と指摘した。

  シティグループは、トランプ氏の当選が決まれば、直ちにメキシコ株が主導する形でMSCI新興市場指数は少なくとも10%下落すると予想。シティ・プライベート・バンクの投資ストラテジスト、ケン・ペン氏(香港在勤)は電話インタビューで、アジアでは「中国が最も大きなリスクに直面する」と指摘。「中国を狙い撃ちにした通商政策を恐らく導入」し、中国経済を弱体化させるだろうと説明した。ペン氏はまた、韓国と台湾の輸出企業が特に大きな悪影響を被るだろうと指摘。一方、国内経済が力強い伸びを示しているインドとインドネシアへの影響は比較的小さいと予測した。

商品

クリントン氏勝利の場合:クリントン氏の環境政策、特に気候変動対策が石炭と石油市場に下押し圧力をかけるだろう。同氏は再生可能エネルギー利用拡大への「橋渡しの一つ」として、ガスを利用することによって石炭火力発電を減らすことを公約しているため、天然ガス価格が上昇する可能性がある。

トランプ氏勝利の場合:トランプ氏勝利なら、石炭が恩恵を受け天然ガス価格は下落する可能性が高い。同氏は討論会で、米電力市場から石炭を閉め出す環境規則を見直すことを公約し、「クリーンコール」を推進する姿勢を示した。ブルームバーグ・インテリジェンスは9月に、共和党が勝利すれば、天然ガス需要が2030年に15年の水準と比較して11%減少する一方、石炭需要が増えるとの見通しを示している。

  エネルギーに重点を置くヘッジファンド、アゲイン・キャピタル(ニューヨーク)のパートナー、ジョン・キルダフ氏は、トランプ氏が引き続き「選挙戦で聞かれたような好戦的な言葉」をイランについて発し、オバマ大統領が同国と取りまとめた核開発問題に関する合意を破棄すれば、原油価格にリスクプレミアムが戻り、上昇する可能性があると指摘する。

  CMCマーケッツのアナリスト、ヤン氏は、トランプ氏が勝利すれば、金やプラチナ、銀価格は「最大の勝者」になるとの見方を示す。FBIは10月28日、クリントン氏が国務長官時代に私的な電子メール・サーバーを使っていた問題をめぐり、新たに発見された関連メールの捜査を開始すると発表したが、その前日から貴金属相場は軒並み上昇し、銀は4.5%高、金は2.9%高となった。

原題:U.S. Election Guide to Markets: What to Watch With One Day to Go(抜粋)

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