主要生保はそっぽ向いたまま、黒田総裁の長期運用への配慮届かず

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  • かんぽ生命、日本生命、第一生命などは国内債減少-今年度下期計画
  • イールドカーブ、思ったほどには立たないのではないか-かんぽ生命

「超長期の金利がもう少し上がってもおかしくない」-。日本銀行の黒田東彦総裁は超低金利下で国債の運用難に苦しむ機関投資家への異例の配慮を見せるが、主要な生命保険会社からはそっぽを向かれたままだ。

  かんぽ生命保険、日本生命保険、第一生命保険、住友生命保険の各社は今年度下期に国内債の保有残高を減らす。明治安田生命保険は、為替差損の回避措置(ヘッジ)後でも国内債より高い利回りが得られる外国債券については積み増す方針だ。日本生命は機動的に為替リスクをコントロールしオープン外債を増やすとしている。第一生命は内外金利や円相場次第で外債の投資機会をうかがう。  

  日本生命の佐藤和夫財務企画部長は28日の記者説明会で、「私どもの負債のコストを踏まえると、超長期のゾーンが0.4、0.5%の水準のままだとイールドが立った後でも投資の対象にはならない」と指摘。「予定利率に見合う超長期債の水準にセットされれば、その保険料に見合うものは投資する可能性はある」としながらも、「最低でも1%程度に、マイナス金利が入る前の水準に戻らないと見合わない」と述べた。

黒田日銀総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  日銀が9月に「長短金利操作」を新たな金融緩和策の中心に据えて以降、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは、マイナス0.10%-マイナス0.04%で膠着(こうちゃく)状態。一方、超長期で発行額が最も多い新発20年物国債利回りは26日に0.355%と3週間ぶりの水準まで低下した。黒田総裁は27日の参院財政金融委員会で、超長期債の利回りが「もう少し上がってもおかしくない」と述べた上で、「そういった意味で超長期債の投資家の状況も当然ながら十分考慮している」と話した。

  日本証券業協会の統計によると、生損保による今年度上期の超長期国債の買越額は約1.8兆円。異次元緩和が始まった2013年の同時期より4割近く減った。超長期債の利回りが上昇した8月と9月も前年同月を下回り、過去1年間の平均値3266億円に届かなかった。ブルームバーグのデータによれば、日本国債は残存期間12年程度まで利回りがゼロ%を割り込んだ状態だ。

  かんぽ生命の奈良知明執行役兼運用企画部長は26日の記者説明会で、日本国債の利回り曲線(イールドカーブ)は「思ったほどには立たないのではないか。ある程度立っていると投資家が買ってしまうからだ」と指摘。国債への投資は「必要最小限しかしない。償還分を全て再投資する規模にはとても及ばない」と言い、「会計上、デュレーションギャップが広がり過ぎない」程度にとどめる計画とした。

   かんぽ生命は今年度下期、円金利資産での運用は抑制し、ヘッジ外債や内外株式、海外クレジット、上期に着手したバンクローンなどへの取り組みを強化するほか、株式の自家運用も始める方針だ。プライベート・エクイティ(PE)やヘッジファンドなどは体制を整備中だが、機会があれば同期中の開始を検討するという。

簡単には日本国債に戻れない

  生命保険協会の統計によると、生保41社の総資産は8月末に357.2兆円と前年比2%増えた。国債は145.7兆円と1.7%減り、構成比は40.8%と1.5ポイント低下。国内の社債は4.2%増の25.7兆円で7.2%、外国証券は12%増の77.5兆円で1.9ポイント高い21.7%を占めた。

  バークレイズ証券の押久保直也債券ストラテジストは、利回り水準が「負債見合いで圧倒的に低い中では、そんなに簡単には日本国債に戻れない。引き続き外債やリスク性資産に取り組む会社が多い」と指摘。「基本的には上期からの流れがあまり変わっていない印象だ。金融緩和の枠組み変更を受けて国債回帰というテーマが一つあったが、明言している会社はまだ多くないようだ」と言う。

  ALM(資産・負債の総合管理)から見た生保の運用資産は、保険商品の契約者に支払う長期・固定の円建て負債に見合う、デュレーション(残存年限)が長く、安定的な収益を見込める円建て資産が中心。会計上は、債券を償還まで保有すれば金利上昇時の評価損を免れる「責任準備金対応」「満期保有目的」の措置も可能だ。

  20年債利回りは日銀の巨額購入とマイナス金利政策を背景に7月に初めてゼロ%を割り込み、マイナス0.005%まで低下。30年債と40年債も0.10%を下回り、イールドカーブのフラット(平たん)化が極端に進んだ。しかし、8月からは日銀が長めの金利上昇をある程度容認するとの観測で大きく戻した。10年債と20年債の利回り格差は先月14日に49ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と約半年ぶりの大きさとなり、その後は45bp前後で推移している。

  住友生命の松本巌運用企画部長は27日の記者説明会で「日本経済に悪影響を及ぼさない限り、イールドカーブは立ってほしい」と述べ、10年債と20年債の利回り格差がマイナス金利導入前の70-80bpというのが投資判断の「一つの目安になる」と説明した。ただ、現状では「国債残高を純増させる計画はない。超長期債の投資を抑制するので、下期も残高は減るだろう」と言う。

  住友生命は今年度から、保険金の確実な支払いに資する円金利資産が中心のALM運用ポートフォリオ(20兆円程度)と外債や為替、株式といった流動性の高い有価証券などで機動的に運用するバランス型ファンド(約6兆円)の二つに運用資産を区分。松本氏は前者では「国債では利回りを確保できないので、信用リスクや流動性リスクを取っていく」とする一方、後者では「中長期的に2%台後半のリターンを目指す」と話した。

「投資の目線に合わない」

  第一生命の渡辺康幸運用企画室長は25日の記者説明会で、国債は利回り水準が「投資の目線に合わない」ため、13年度下期から積み増していないと説明。日銀の枠組み変更は「われわれの債券投資には直接的な影響は今のところ、全くない」と話した。資産と負債のデュレーションギャップは金利スワップや金利スワップションで対応していると言う。

  日銀循環統計によれば、6月末時点の保険会社の国債等保有額は218.9兆円と発行残高の2割を占め、異次元金融緩和の一環として国債を大量に抱える日銀とゆうちょ銀行を含む預金取扱機関に次ぐ大きさ。財務省の資料によると、生損保は残存期間10年超の国債保有で日銀を倍以上も上回っている。

  三井生命は今年度下期も上期に続き、国債は償還分の再投資にとどめる方針だ。同社の松多洋一郎執行役員運用統括部長は先週の記者説明会で、日銀の「イールドカーブを少し立てるという方向性は歓迎する。長い年限の妙味が出てくれば、対象として視野に入ってくる」と指摘。超長期債の「理想は最低でも1%程度の負債コストを賄える水準だが、いつまで待っても届かなければ、少し目線を下げるかもしれない」と述べた。

  大同生命の沖田芳弘執行役員は今週のインタビューで「イールドカーブが立ってくれば国債投資は非常に楽になる。もう少し立ててほしい」と述べた一方、足元の超長期債投資では「国債はあまり買っておらず、財投機関債や地方債、社債が主体だ」と説明した。「当初は国債の代替という位置付けだったが、今ではむしろこちらが中心になっている」と言う。

  明治安田生命の山下敏彦執行役副社長らは25日の記者説明会で、足元の金利水準は「生保の仕組みで考えれば非常に厳しい局面にある」と指摘。ただ、「金利の上昇局面があれば、機会を捉えて国債に投資する心構えは常に必要だ」と語った。  

2016年度下半期の運用計画一覧

国内株国内債外国株オープン外債ヘッジ外債
かんぽ生命増加減少増加横ばい増加
日本生命株価水準次第減少増加増加減少
第一生命株価水準次第減少増加為替水準次第横ばい
明治安田横ばい横ばい横ばい金利水準に応じて増加円債との比較で増加
住友生命横ばい減少横ばい円高進んだ局面で投資コスト、収益性踏まえ投資
三井生命横ばい横ばいN.A.+数百億円+数百億円
大同生命横ばいまたは増加横ばい横ばいまたは増加増加増加
(第3段落に日本生命の佐藤財務企画部長のコメントを追加、更新します.)
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