JR九州会長:旧国鉄赤字路線引き継ぎ苦難の道、逆境が多角化に弾み

  • 発足当初は売上高の3割近い営業赤字で絶望的に-本州3社は黒字
  • 今春の熊本地震でも上場延期は考えもせず-社員が復旧を支えた

「約30年前の国鉄分割時にわれわれ自身を含め、誰もJR九州が上場できると思っていなかった」ー。東京証券取引所に25日に新規株式公開(IPO)を予定するJR九州の唐池恒二会長(63)がインタビューで当時を振り返った。逆境をばねに事業多角化を進め、上場にこぎ着けるまでには苦難の道があった。

  旧国鉄を分割・民営化した1987年にJR旅客6社と貨物会社が発足し、九州の鉄道事業を担うJR九州が誕生した。赤字路線を多く引き継いだため、初年度は鉄道事業の売上高が1069億円、営業赤字は280億円。「絶望的だった」と唐池会長は話す。JR東日本、東海、西日本の本州3社はいずれも黒字でスタートした。

唐池会長

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  JR九州は、いち早く鉄道以外の事業に本格進出した。「何もしなければ衰退していく。危機感がわれわれを駆り立てた」と話す。不動産から、国際高速船、外食・流通、ホテル経営、「ななつ星 in 九州」に代表される観光列車サービスを立て続けに展開。現在では収益の半分以上を鉄道事業以外が占め、直近の中期経営計画では「総合的なまちづくり企業グループ」を目指すと位置付けた。

不採算路線

  DZHフィナンシャルリサーチで新規株式公開を担当する田中一実アナリストは、不採算路線への対応が最大の経営課題と指摘する。「今回を機に経営の性質も変化させることが望ましい。いつまでも不採算路線を地元に必要だとの理由での継続は経営リスクにつながる」と述べた。

  JR九州に、JR東海の東海道新幹線やJR東日本の山手線のようなドル箱はない。それどころか九州では高速道路網の整備が進んでおり、唐池会長は「最大のライバルはマイカー」だと言う。さらに「台風は毎年のように九州を襲う」。そんな「逆境に置かれた者ゆえに、現在のJR九州の多角事業展開の収益構造を作り上げることができた」と話す。

  各事業の立ち上げに関わってきたのが唐池会長だった。京都大学から77年に旧国鉄に入り、分割に伴い87年にJR九州へ入社。流通事業本部外食事業部長を経てJR九州フードサービス社長、2003年にJR九州取締役、08年に専務となり、09年6月に社長に就任した。

柔道

  インタビューに答える唐池会長の姿には、主将まで務めた京大柔道部の頃に鍛えた肉体の面影が残る。旧国鉄への就職も、柔道部の先輩に誘われたことがきっかけだった。自分の売りは「頭脳と体力両方です(たぶん)」と著書で述べている。

博多シティ

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  JR九州経営の転機となったのは二大プロジェクトだという。11年3月に全線開業した九州新幹線と、同社最大の駅ビル「博多シティ」のオープンだ。予想以上の収益をもたらした。「12年3月過ぎにプロジェクトの成功を確信し、これで上場ができると初めて手応えを感じた」とインタビューで述べた。

  ただ、そこから上場までの道のりも平たんではなかった。今年4月の熊本地震では鉄道施設が大きな被害を受け、新幹線は過去の歴史で3度しかなかった脱線をし、在来線の多くが不通となった。それでも唐池会長は被害報告を受けた時も、復旧作業中も、上場延期は「考えもしなかった」という。社員が「鉄道員魂」を発揮して昼夜で作業に当たり「復旧を支えた」と話す。新幹線は13日後に全線で運転を再開した。

D&S列車

ななつ星

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  唐池会長が陣頭指揮を執り作り上げた高級寝台クルーズ列車「ななつ星」はJR九州を代表する列車となった。その他に、唐池会長がデザイン&ストーリー列車(D&S列車)と呼ぶそれぞれ個別のテーマを持つ観光列車は特急「ゆふいんの森」や「A列車で行こう」など10種類を展開する。デザインは全て、工業デザイナーの水戸岡鋭治氏が手掛けた。唐池会長は、同氏のデザインの特徴について「何度見てもその度に新鮮な感動を覚える」と、6月に出版した「鉄客商売」で記している。
 
  JR九州は17年3月期連結業績で売上高3788億円、営業利益518億円と過去最高を目指す。成長の鍵を握るのは鉄道以外の事業だ。まちづくり計画では来年、九州大学の跡地に建設中の六本松複合ビルと、那覇に初のホテルをそれぞれ開業する。長崎駅と熊本駅周辺でも駅ビルなどの複合施設を順次開発する方針だ。

  訪日外国人(インバウンド)の取り込みにも力を入れ、訪日客向けに鉄道乗り放題のフリーパス販売増に取り組む。第一生命経済研究所の桂畑誠治主任エコノミストは、九州経済について「観光需要を中心としたインバウンドニーズもあり、中長期的に確実に拡大する」とし、「訪日旅客を取り込もうとする地域インフラ企業の動きは、成長の観点からは正しい選択」とみている。

海外リスク

  海外では、上海で5店舗を展開する居酒屋「赤坂うまや」に加え、東南アジア周辺にホテルやマンションなどに関連した事業で進出を検討していると唐池会長は明らかにしている。ただ、これには慎重な見方もある。DZHの田中アナリストは「過去に鉄道や航空会社がホテルやリゾート開発など取り組んだ事例はあるが、成功した例は圧倒的に少ない。JR九州が海外でリスクをとる必要性は見いだせない」と指摘した。

  上場前の株式が取引されるグレーマーケットでは18日に、公開価格の2600円に対し最大で9.6%高の2850円で取引されている。トレーディング関係者がブルームバーグの取材に対し明らかにした。上場での市場からの資金吸収額は4160億円。7月に上場した通信アプリのLINEを上回り、国内では今年最大規模のIPOになる。

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