ウーバーが日本の過疎地に商機-厳しい規制乗り越えライドシェア拡大

鉄道やバスなどの公共交通がなく、近所の店も次々と撤退して日々の移動や買い物すらままならないー。配車サービスを手がける米ウーバー・テクノロジーズはこうした過疎地に、日本での商機を見いだそうとしている。

  ウーバーは今年5月、京都府北部の京丹後市丹後町地区で地元の民間非営利団体(NPO)が手掛ける相乗り(ライドシェア)サービスに自社システムの提供を開始し、8月下旬からは北海道の北部にある中頓別町で始まったライドシェアの実証実験に協力している。いずれも人口数千人、うち65歳以上が40%前後を占める過疎・高齢化のエリアで、地元住民がマイカーを運転し乗客を目的地まで運ぶ。

ウーバージャパンの高橋正巳社長

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  ウーバージャパンの高橋正巳社長は9月の本社でのインタビューで、同社システムを活用した過疎地のライドシェアへの反響は大きく、「北海道から九州までほぼ毎週いろいろなところから問い合わせをいただいている」と話した。高齢化や過疎化で公共交通機関の先細りが見込まれる中、日本の地方に700万人が散在するとも言われる「買い物難民」は事業拡大の手がかりとみている。

  世界70カ国以上の主要都市で事業展開するウーバーだが、日本では規制の壁や既存業者の抵抗もあり苦戦している。日本市場には2014年に参入し、スマートフォンのアプリを使ったハイヤーの配車サービス「ウーバーブラック」を首都圏で展開している。海外で主要事業の一つとなっている一般人のドライバーに乗客を運んでもらう「ウーバーX」を導入できていなかった。

  京丹後市は公共交通機関で十分な輸送サービスが確保できない地域で、NPOなどが主体で運営する場合に認められる公共交通空白地有償運送の制度を活用。そこにウーバーが配車システムを提供し、運営主体から利用料を得ている。中頓別町ではドライバーが対価を受け取らない実証実験で、国からの地方創生加速化交付金を財源としている。

スマホ操作代行も

  稚内空港から車で約2時間の場所にある中頓別町は、酪農が盛んで鍾乳洞や砂金の採取でも知られる。高齢化と人口減少が進み、人口は1800人弱と2000年との比較では約3割減っている。同町総務課政策経営室の笹原等氏によると、町内には鉄道がなく、公共交通機関としては稚内市などと結ぶ路線バスが1日4往復走っているだけ。交通問題への対策としてウーバーと組んでライドシェアの実証実験を始めた。

  中頓別町のライドシェアの登録ドライバーは10人程度。アプリから配車要請を受けた際に対応できるドライバーがマイカーを運転して指定場所に迎えに行く。町ではスマホを持っていない人のために配車受付専用の電話番号を設け、連絡を受けてアプリを起動して配車依頼も代行している。

京丹後で乗客を待つ車

Photography: Yuji Nakamura/Bloomberg

  京丹後市役所企画総務部の野木秀康係長は、地域行政の大きな課題は「持続可能な公共交通の実現」であり、コストとマンパワー抑制のため、世界標準のウーバーのシステムが「とても役立つと感じた」という。事業はドライバー18人と運行管理者1人で、料金は初乗り480円と通常のタクシーより安い。野木氏によると、通常の意味で収支はとれていないが、NPOはもうけようという観点でなくボランティアの部分もあり、地域としては成り立っているという。

タクシー業界は反発

  福岡県ではライドシェアの実証実験が国土交通省の指導で中止になったこともあった。ウーバーは昨年2月に産学連携機構九州と連携して福岡市などで取り組みを開始したが、国交省はウーバーが登録ドライバーに報酬を支払っていることなどから道路運送法が禁じる無許可タクシー営業の「白タク」に該当する可能性が高いと判断して中止するよう指導した。

  富山県南砺市は今年2月、ウーバーと無償シェアリング交通の実証実験を始めると発表し、補正予算案に事業費400万円を計上したが、すぐに取り下げている。日本経済新聞によると、安全が確保できないと地元タクシー業者が反発し、市は2週間弱で予算案を撤回した。

  ライドシェアの動きが広がることには、既存のタクシー業界が危機感を強めている。全国ハイヤー・タクシー連合会の富田昌孝会長は6月の通常総会で、ウーバーのような配車サービスの近年の普及で「業界の歴史始まって以来の未曾有(みぞう)の危機に直面」していると指摘。各タクシー会社も豊富な車両数を武器に独自の配車アプリを開発するなど対抗姿勢を強めている。

  そうした中、政府は成長戦略で「シェアリングエコノミーの推進」を掲げている。高橋社長は、ライドシェアについて「新たに大きな投資をせずに地域の方が既に持っているいろいろなアセットを有効活用すること」であり、「地域創生」といったキーワードで語られるアベノミクスと「アジェンダとしては非常にマッチしている」と述べた。

  国がライドシェアを規制している道路運送法を緩和し、過疎地の特例を設け、有償事業者が登録して運行できるようにしたのが06年。国交省・自動車局旅客課の大橋明史氏によると、これまでに約500カ所の市町村で登録されているという。

日本事業に強気

  自動車調査会社カノラマジャパンの宮尾健アナリストは、過疎地域に住む人々にとって日常の移動をどうするかは「待ったなし、喫緊の課題になっている」と指摘。ウーバーが地域の人々に貢献して実績を積むことで、長期的にはより広範囲の規制緩和につながり、東京などの都市部でもライドシェアサービスの本格展開につなげられる可能性もあると話した。

  ウーバージャパンは事業拡大につれて人材採用も増やす予定で、渋谷区にあるオフィスから近い約3倍の面積の物件に移動。9月からは一般人が自転車などでレストランから食事を配達する「ウーバーイーツ」のサービスも開始した。高橋社長は、高齢化が進み税収も伸び悩んでいる日本で従来のような公共交通網を維持し続けることは現実的でなく、ライドシェアにより過疎地の交通問題に対して持続可能な解決策の提供を目指す日本の取り組みは社内でも注目されているという。

  一般人のドライバーを活用するライドシェアについては、過疎地で認める道路運送法の特例のほか、9月からは国家戦略特区で主に観光客の送迎もできるように特例を設けた。一方、石井啓一国交相は10月7日の記者会見で、ライドシェアは運行管理や車両整備などの責任を負う主体がないまま、自家用車のドライバーだけが運送責任を負う有償の旅客運送で、安全の確保、利用者保護などの点から問題があると指摘し、「極めて慎重な検討が必要」と述べている。

  自動車市場で世界最大の中国に目を向けると、ウーバーは最近、撤退を余儀なくされた。現地で最大のライバルだった滴滴出行と激しい競争を繰り広げ、ドライバーへの多額の補助金などの出費を強いられていた。事情に詳しい関係者によると、ウーバーの出費は20億ドル(約2000億円)に上った。中国当局が配車サービスのコストを下回る料金設置を禁止し、戦術を奪われたウーバーは数日後に撤退を表明している。

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