日銀1年後にもテーパリング、金利急騰せずと三菱モルガン石井氏

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  • 先月末の国債買い入れ減額は「小幅で誤差の範囲」
  • 国債保有比率は約1年後には43%前後、2018年3月末には46%に

早ければ約1年後に国債購入ペースの明確な鈍化(テーパリング)に追い込まれるが、金利急騰は起こらない-。機関投資家の人気トップ債券アナリストは、日本銀行による保有額の大きさこそが金利低下圧力の源泉になると説く。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の石井純チーフ債券ストラテジストは11日のインタビューで、国債買い入れオペの減額は当面「小幅で誤差の範囲」としながらも、「来年度半ば以降、現状のペースでは限界に到達し、もう少し大胆にテーパリングせざるを得なくなる」と指摘。オペで予定額を確保できない札割れが生じれば、市場では「もうテーパリングしかない。どれくらい減らすのか」といった思惑が広がるとみる。

  日銀が「もう限界だ」と率直に認めてテーパリングに着手すれば、市場は冷静に反応すると言う石井氏は、国債利回りの方向性を決めるのは中央銀行による購入額の限界的な増減(フロービュー)ではなく、保有残高(ストックビュー)だと説明。米連邦準備制度理事会(FRB)の成功例も踏まれば、日銀のテーパリングは「粛々と進むだろう」とみている。  

  

記者会見に臨む黒田日銀総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

黒田東彦総裁は先月21日に導入した金融緩和の新たな枠組みで、主な誘導目標をマネタリーベースから長短金利水準に変更した一方で、国債保有増については「現状程度の買い入れペースをめど」として残した。日銀の国債保有額が発行残高に占める割合は6月末に36%と過去最高を更新し、今月10日時点で400兆円を突破。石井氏は保有額を年80兆円程度増やすペースが限界を迎える約1年後には43%前後、黒田総裁の任期満了に近い2018年3月末には46%に達すると予測する。

  日銀は黒田総裁の下で約3年半進めてきた金融緩和策の自己評価で、名目金利から予想インフレ率を差し引いた実質金利の押し下げが経済・物価情勢を好転させたとの見解を示した。石井氏は国債利回りの急騰で「実質金利が上がれば『元の木阿弥(もくあみ)』で、デフレ再燃の懸念も出てくる。絶対に避けなくてはならない」と指摘する。

  石井氏は日経ヴェリタス誌の人気アナリスト調査の債券部門で3年連続の首位。最近10年間で首位を5回獲得した。2013年4月の異次元緩和導入1カ月前に「長期国債の大規模・無制限購入を実施すれば、債券需給はかつてない逼迫(ひっぱく)状態に陥る可能性がある」と分析。今年4月のインタビューでは、国民的な批判が強いマイナス金利の深掘りは難しく、日銀は指数連動型上場投資信託(ETF)の増額など質的緩和の強化を迫られると予想した。

ストックビュー

  石井氏は今回のインタビューで、ストックビューに基づき、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは来年9月末までマイナス0.15%-ゼロ%にとどまり、テーパリングの局面に入るとみる17年度後半も0.10%を大幅に上回る可能性は低いと指摘。投資家による利回り追求の対象となっている超長期ゾーンの20年債については18年3月末までの上限が0.60%程度、30年債は同0.65%程度にとどまると見込む。

  石井氏はFRBが14年1月に始めたテーパリングが日銀の先行事例になるとみている。米10年物国債利回りは、イエレンFRB議長がテーパリング終了後も償還分の再投資で約4.5兆ドル規模の総資産を維持する中、今年7月には1.3180%と過去最低を更新した。

  「大規模なバランスシートが象徴するのは中銀が量的緩和で供給し、回収せずに放置している流動性だ。運用難で金融市場に滞留し続け、米国で株高・債券高の流動性相場をもたらしている。日銀もFRBに習うなら、テーパリング後も償還分の再投資でバランスシートを維持し、流動性相場を演出していくしかない」。そうすれば、「金利は一時的には上昇しても、上げ渋るのではないか」と石井氏は言う。

  黒田総裁は枠組み変更時の記者会見で、市場の国債残高が減少する中で日銀が一定規模の買い入れを続けていくと「1単位の買い入れによる金利の引き下げ効果は、より強くなってくる可能性はある」と述べた。

日銀も「予行演習」意識か

  日銀は当座預金の一部にマイナス0.1%の付利を課すのに加え、10年債利回りがゼロ%程度で推移するように国債を買い入れる「長短金利操作」を新たな金融緩和策の中心に据えている。石井氏は日銀の長期金利の水準に対する許容範囲を「ゼロ%プラス・マイナス0.1ポイント程度」と解釈している。

  実際には10年債利回りが「多少なりとプラスに浮上すれば、日銀当預でマイナス金利を課されるよりはマシだという『イールドハント』の買いがすかさず入る」。こうした状況では、「日銀が自ら手を下すまでもなく、金利の上振れ余地は小さい。自然体なら金利は低下しやすい。日銀のオペはどちらかと言うと減額される場面が多い」と石井氏は読む。

  石井氏は、先月末の国債買い入れオペ減額は長短金利操作のためだが、来年度以降のテーパリングに向けた予行演習的な意識もあるのかもしれないとみている。

  国内民間銀行による国債保有額は8月時点で87.5兆円。異次元緩和の導入直前に当たる13年3月の166.6兆円から約3年半で半減した。国債の保有額が日銀に次いで多いゆうちょ銀行や3メガバンクには金融取引の担保としての需要、生命保険会社には顧客への支払い原資としての長期的な確保目的があり、来年度半ばにも、日銀に「もう絶対に売れない」状況に至ると石井氏はみる。

  石井氏の推計によると、短期市場金利と鉱工業生産、消費者物価、円相場、米実質長期金利、国内企業のカネ余り状況に基づく長期金利の理論値は7-9月期に0.8%程度。実績が約0.9ポイントも低いのは「本来はプラスであるはずのリスクプレミアムが需給逼迫でマイナスになっている」ためで、日銀による国債保有割合の上昇が原因だと解釈している。市場は日銀の爆買いに支配された「超・需給」状態にあると表現する。

  実質国内総生産(GDP)と食料・エネルギーを除く消費者物価、米長期金利、日銀の長期国債保有シェアを超・需給効果の代理変数として組み込むと、10年債利回りの推計値は10-12月期にマイナス0.18%、来年1-3月期はマイナス0.27%。買い入れを年75兆円増のペースに減らしても同マイナス0.16%、マイナス0.24%と勢いがわずかに鈍るだけで、さらなる減額の必要を示唆している。

  石井氏は、「目先の小幅な動きにしか収益チャンスがなくなってきている」と現在の相場を分析。「投資家もマイナス金利にはソッポを向いるので、ディーラーも利回りが超長期債を中心に上がってこない限りは日銀オペに関心が集中し、本当に小さな利ざやを狙う毎日だ。円債ストラテジーの仕事も、かなり日銀ウオッチ的になってきている」と語った。

(第7段落以降を追加して更新します.)
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