目指せ台風発電、「下町風力」ベンチャーが取り組む新型発電機開発

  • オンリーワンの風力発電機開発に複数のベンチャーキャピタルも関心
  • 実証試験を経て2019年には商用機の販売開始目指す

町工場と住宅が混在する東京都墨田区。荒川に近い下町の一角にある小さな工場で清水敦史氏(37)は世界初とされる強風にも耐える風力発電機の開発に取り組んでいる。台風発電を可能にするため、上陸が相次ぐこの秋、屋内実験では再現が難しい台風を追いかけてフィールドテストを繰り返している。

チャレナジーの「垂直軸型マグナス風力発電機」実証機

Source: Challenergy Inc.

  清水氏率いる新興企業チャレナジーが開発しているのは「垂直軸型マグナス風力発電機」と呼ばれる機器。一般的に普及している風車を用いたプロペラ式の風力発電装置とは大きく異なる。地面と垂直に設置された3つの円筒をモーターの力を使って風から受ける気流の中で回転させると、そこに「マグナス力」と呼ばれる揚力が生まれる。

  野球のピッチャーが投球時にボールに回転を与えると特定の方向に曲がるのはこの原理によるもの。マグナス風力発電機は円筒が生み出す揚力を利用し、中央の軸部にある機器を回して発電する。

  清水氏は「専門家ほどプロペラありきで、細かい改善を繰り返している状況」と話す。夏は台風でプロペラが飛び、冬は突風で折れるという事例をいくつも見た経験を踏まえ「プロペラ以外の道を探ろう」と決断した。

キーエンスでセンサー開発

  元々は産業用センサー機器大手のキーエンスでセンサーの開発を担当していた清水氏。東日本大震災をきっかけにこれからは再生可能エネルギーを活用する時代にしなければいけないとの思いに駆られたという。ポテンシャルは高いのにもかかわらず国内では普及が進んでいない風力に着目し、風向きが不安定でしばしば台風にも襲われるという日本の状況に合わせた風力発電機を製造すれば、海外でも環境の似た「ニッチの市場が必ずあるはず」と考え、2014年10月にチャレナジーを創立した。

  同年12月には国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の起業家支援事業に採択され、受け取った約5500万円を社員の給料などに充てて開発を行っている。またクラウドファンディングで400万円を集めたほか、日本政策金融公庫からも起業支援の融資を調達した。

唯一無二の技術

  NEDOイノベーション推進部の吉岡恒・スタートアップ主幹グループ長はチャレナジーを支援事業に採択した理由として「小型風力の会社は世界で300社くらいあるが、垂直軸型マグナス風力発電は非常にチャレンジングで日本発唯一無二の技術」と指摘する。強風でも破損せずに発電できる機器を作ることで大きな市場を見込める可能性を評価している。

  日本気象協会によると、一般のプロペラ風力発電機は風速25メートルを超えた場合には危険を避けるため停止させる設計となっている。チャレナジーが8月に沖縄県南城市で実用化に向けて開始した実証試験では、風速80メートルの風でも壊れないよう設計された実証機が用いられている。実証機の円筒には下水管に用いられるガラス繊維強化プラスチック(GFRP)を用いたが、大型化の際には強度があって軽い炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使って製造することを検討している。

清水敦史氏

Photography: Chisaki Watanabe/Bloomberg

  三菱重工業や日立製作所といった大手風力発電機メーカーのような研究部門も工場もないチャレナジーにとって、事業コンテストで金属プレス加工などを手掛ける浜野製作所と出会ったことが事業を後押しする大きな要因となった。浜野製作所は日本テレビで放映されたロボットバトルに参加したロボットや、町工場が共同で開発した深海探査艇「江戸っ子1号」の製作にも関わっており、世界で勝負できる下町テクノロジーの代表的な存在。

  浜野製作所は自社の敷地にさまざまな工作機器を備えた施設「ガレージスミダ」を開設し、ものづくりを目指す人に提供している。チャレナジーはここに本社を構えることで、単独での起業では得にくい経験豊かな職人の助言といったメリットを享受している。

  清水氏は、今後実証試験を経て19年中には商用機の販売を目指したいと話す。また現在いくつかのベンチャーキャピタルと出資について交渉中だとしている。20年の東京オリンピックでは、二酸化炭素(CO2)を排出する聖火の代わりに自社の風車が設置されるのを夢見ている。

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