予想実質金利が示唆、レジームチェンジでも円先高観が根強い理由

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  • 予想実質金利の日米格差、2013年6月以降で最大に
  • 「物価が上がることにあまり手当されなかった」-みずほ証

日米の予想実質金利が約3年ぶりに逆転している。日本銀行が新たな金融緩和の枠組みを導入してもインフレ期待が高まる気配は見られず、円の先高観を支えている。

  予想実質金利は名目金利からインフレ期待を示すインフレスワップ金利を差し引いた金利。5年物は足元で、日本が米国を2ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)程度上回っている。14年末には米国が日本を104bp超えたが、今年に入り急速に縮小。3月末以降は日米逆転の場面が頻発し、先月26日には日本が米国を13年6月以降で最大の9bp上回った。

  日銀は先月21日の決定会合で、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の目標を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」を採用し、イールドカーブを操作目標とする「長短金利操作付き量的・質的緩和」の導入を決めた。  

  年明け以降の円高加速はデフレ圧力を強めており、黒田総裁が目指す2%の物価目標の達成は遠のく一方だ。市場の日銀に対する金融緩和限界論がくすぶる中、円は対ドルで年初来17%高と、主要通貨の中で最大の上昇率。6月には1ドル=100円を突破し、一時99円02銭まで円高が進んだ。

ドルと円

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  みずほ証券の末広徹シニアマーケットエコノミストは、オーバーシュートは物価が上がった後の話で、「そもそも物価が上がるのかということに対してはあまり手当されなかった」と指摘。「日銀の決定で期待インフレは大して上がるわけでもないし、一方でマイナス金利はやりたくないという姿勢が伝わってきたので、短中期金利はあまり下がらず、実質金利は下がらない方向。実質金利差は米国が下がってくると円高方向の関係になりやすい」と語った。

  ヘッジファンドなど投機勢は日銀の新枠組み導入の後も円の買い持ちポジションを増やした。米商品先物取引委員会(CFTC)によると、シカゴマーカンタイル取引所(CME)国際通貨市場(IMM)の先物取引非商業部門のドルに対する円の買い越しは9月27日時点で6万8892枚と3週連続で拡大し、4月に記録した過去最大の7万1870枚に迫った。

  オプション市場では円の先高観が優勢な状態が続いている。ブルームバーグのデータによると、3カ月物のドル・円のリスク・リバーサルはマイナス1.3%程度と円高・ドル安に備える動きが強いことを示唆。こうした「ドルプット・オーバー」の状態なのは、主要通貨では対円以外、対スイス・フランだけだ。 

  日米のインフレスワップに基づく予想インフレ率は9月以降、乖離(かいり)が鮮明となっている。米連邦公開市場委員会(FOMC)は日銀会合と同じ先月21日に利上げを見送ったが、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は利上げの論拠が強まったとし、引き続き年内の利上げを模索する姿勢を示した。

  日銀が今週発表した企業短期経済観測調査(短観、9月調査)の「企業の物価見通し」では、1年後の平均値が0.6%上昇となり、5四半期連続で前回調査を下回った。8月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年比0.5%低下し、6カ月連続のマイナスとなった。

  黒田東彦総裁は、「日本経済のために必要であると判断すれば、ちゅうちょなく調整を行う」とし、その際は「マイナス金利の深掘りと長期金利操作目標の引き下げが中心的な手段になる」と述べている。

  三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチの内田稔チーフアナリストは、日銀は1月末に名目金利をマイナス圏に引き下げることにより実質金利を下げようとしたが、結果的に副作用の方が意識され、予想物価上昇率がかえって下がり、実質金利が上がってしまったことが株安・円高につながったと説明する。

  新枠組みでもイールドカーブのコントロールがうまくいかなければ、結局マイナス金利の深掘りを進めても再び副作用が意識されてしまうので、「なかなか円安反転の材料にはなりにくい」。内田氏はこう述べた上で、「ここからさらにデフレまでみにいかないのなら、これ以上の実質金利の上昇は回避できるだろうが、インフレ期待が盛り上がらないのなら実質金利の高止まりは続いてしまう」と語った。

(第8段落以降を追加しました.)
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