世界の債券市場を席巻する中銀、黒田総裁の金利操作でますます強固に

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  • 日銀の枠組み変更で債券相場の変動率が低下、連動性は高まる
  • 市場との対話がますます重要になる、と三菱UFJ国際投信

世界中の債券市場を中央銀行が席巻-。日本銀行の黒田東彦総裁が国内の経済を支え、2%の物価目標を達成するために進めてきた前例のない金融緩和策は、海外でも結果的に影響を一段と強めている。

黒田日銀総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  日銀が約2週間前に導入を決めた「長短金利操作」を中心とする新たな金融緩和策では、当座預金の一部にマイナス0.1%の付利を課し、長期金利がゼロ%程度で推移するよう国債を買い入れる。過度な金利低下が国内の金融機関や運用会社に及ぼす打撃を和らげ、インフレ率の上昇を促すのが狙いだ。日銀がイールドカーブ・コントロールを打ち出したことで、国債のボラティリティ(相場変動率)の急速な低下が日本だけでなく米欧にも広がっている。

  三菱UFJ国際投信債券運用部の小口正之チーフファンドマネジャーは「グローバル化の中で経済の相互依存と金融の連動性は高まるばかりだ。金融危機後の緩和策により、世界の中銀が債券市場に及ぼす影響力も強まっている」と指摘。「投資家は日米独の利回り水準やイールドカーブを比較しており、金利の連動性は高まっている。世界的に日銀への注目度が高まる中、市場との対話はますます重要だ」と言う。

  約100兆ドルに上る債券市場で、世界の中央銀行は多大な影響力を持つ存在となっている。米連邦準備制度理事会(FRB)と日銀の量的緩和策の効果は新興国にも波及。マイナス金利の導入で先行した欧州中央銀行(ECB)の金融政策は、海外投資家による日本国債買いを促し、利回りをマイナス圏に導いた。低成長と低インフレの常態化は世界中で金利を押し下げている。

  みずほ投信投資顧問で約500億ドルの運用に携わる伊藤祐介シニアファンドマネジャーは、債券市場の利回り水準は世界中で収れんしつつあり、最終的には大差のない水準に集まると予想。各国・地域の経済は相互に影響し合い、高齢化問題も似たり寄ったりだと説明した。

  ブルームバーグ/バークレイズ世界債券指数によると、全ての投資適格級社債の平均利回りは約1.1%と、過去最低まで10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)未満の水準まで低下。10年物の国債利回りは過半数の先進国で1%を下回り、ゼロ%前後の例も少なくない。同年限の日米金利差は160bp前後と過去10年間の平均の約半分に縮小している。

  債券市場の連動性が表れた最近の例は、黒田緩和の自己点検をめぐる動きだった。日銀が生命保険会社や年金基金への配慮から超長期債の利回り上昇をある程度容認するとの観測から、日本国債の利回りが上昇すると、米国とドイツの10年債も9月中旬にかけて上昇。日銀が21日の枠組み変更を発表した翌日以降に急低下した。

  日興アセットマネジメント(オーストラリア)の金利・為替担当チーフ・グローバルストラテジスト、ロジャー・ブリッジズ氏は、日銀の枠組み変更をめぐる大幅な債券売りは正当化できるものだとは考えにくいと指摘。世界の債券市場の連動性がますます高まっているということだと述べた。

  長期国債先物オプション取引に基づくインプライド・ボラティリティは先月21日に08年以降で最大の下げを記録。日銀が国債利回りの水準やイールドカーブ形状の誘導を打ち出したのを受け、水準自体も約8カ月半ぶりの低さを付けた。世界的な連動性の高まりを背景に、ボラティリティは米国債や独国債でも低下基調が顕著となっている。

  日米独の10年物国債利回り動向を見ると、日米格差は年初から、少なくとも1985年以降で最小の48bpしか動いていない。また、米独金利差の振れ幅は今年30bpとデータでさかのぼれる27年間で最も小さい。

  ドイツ証券の山下周チーフ金利ストラテジストは、日本国債のイールドカーブが「スティープ気味に推移すれば、海外金利にも同様の影響を与える可能性はある。対外投資の勢いが鈍り、米国債へのフラット化圧力は後退する」と分析。日銀オペと超長期ゾーンのイールドカーブは「海外勢にとっても注目点の一つだ。邦銀や生保がどのくらいの規模で、どのセクターを買ってくるかを読む必要が出てくるからだ」と語った。

  日銀は資金供給のための国債買い入れで、保有額が年80兆円めどに増えるようオペを実施している。6月末に1100兆円超まで膨らんだ国債等の発行残高に対して、日銀保有が占める割合は36%に上る。

  国内勢は全ての年限で利回りが0.1%を下回った7月に、海外の中長期債を過去最大の5兆4494億円買い越した。年初から8月までの買越額は20兆9365億円と同時期としてはデータでさかのぼれる05年以降で最も多い。しかし、国内の超長期債利回りが大幅に上昇した8月下旬には売り越しに転じた。日本の20年債と米国の10年債の利回りは7月6日にそろって最低を更新。9月に直近の最高を付けたのも、わずか一日違いだった。
 
  経済協力開発機構(OECD)は6月、世界経済は自己実現的な「低成長のわな」に陥りつつあり、超緩和的な金融政策が利益より害をもたらす恐れがあると警告。各国政府による金融危機後の需要回復や経済改革の進展が不十分で、金融当局が成長押し上げで過度の負担を強いられてきたと指摘した。

  米運用会社TCWグループの資金運用担当者ブレット・バーカー氏(ロサンゼルス在勤)は、人々はこうした異例づくしの金融緩和策に果たしてどれほどの効果があるのか疑念を抱いていると指摘。日銀が大規模な追加緩和ではなく枠組み変更を選んだことで、各国中銀による金融緩和の限界説が意識されるだろうと述べた。

低成長・低インフレ

  日本の完全失業率は7月に3.0%と1995年以来の低水準を付けたが、インフレ率はマイナス0.5%と黒田緩和の導入前の水準に後退。マイナス金利政策と量的緩和を続けるユーロ圏は0.4%と約2年ぶりの高い伸びだが、おおむね2%という物価目標にはほど遠い。米国の成長率は日欧よりはマシだが戦後の景気回復局面では最低だ。インフレ率も0.8%と物価目標の半分未満となっている。

  景気も物価もさえない中では、国債投資の人気が衰えないのも不思議ではない。米バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの指数によると、残存1年を超える日本国債の収益率は今年5%と1999年以来の高水準。ユーロ圏は6.5%、米国債は5.3%だ。

  ただ、歴史的な低利回りで債券を購入した投資家は金利収入が少ないため、仮に価格の下落が本格化した場合には評価損に直面する可能性がある。利回りがゼロ%を下回る債券は世界中で約10兆ドルに増加。ブルームバーグのデータによれば、金利が一律に50bp上昇しただけで、評価損は約1.6兆ドルに上る恐れがある。

  中銀が推し進めてきた前例のない金融緩和策が限界に達したとの見方が本格化したらどうなるか。市場ではインフレ率が物価目標の2%まで安定的に高まる前に大規模な国債購入を続けられなくなるとの見方が根強かったが、日銀は今回の新たな枠組みで、従来の国債購入ペースを「メド」とながらも、資金供給量から金利水準に操作目標を変更した。

  その一方で金利急騰に備え、指定した利回りでの国債買い入れオペを新設するとともに、固定金利オペの対象期間を1年から10年に延ばした。指値オペは必要に応じて随時、購入額を無制限として実施することができる。

  大和住銀投信投資顧問で債券運用を担当する片山恵氏は、従来は中銀が操作できるのは短期金利だけだと考えられていたが、日銀は長期金利を管理下に置くための斬新で強力な安全装置を得たと評価。市場からの信認がある限り、金利の変動幅は非常に狭く、売買高は低迷するだろうと予想した。

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