黒田総裁とは戦うな、みずほ証やCアグリコルはスティープ化予想

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  • PD各社は日銀の枠組み変更を受け、金利予想を引き上げ
  • 日銀は10年債をゼロ%程度に誘導、超長期債は事前の上昇を追認

黒田東彦総裁には長短金利を日本銀行が望ましいと考える水準に誘導する力がある-。主要な証券会社とメガバンクの予測によれば、日本国債市場は米連邦準備制度理事会(FRB)を悩ませた一時期の米国債市場とは異なる展開になりそうだ。

黒田総裁

Photographer: Buddhika Weerasinghe/Bloomberg

  日銀が新たな枠組みの金融政策を発表してからほぼ1週間。ブルームバーグがプライマリーディーラー(国債市場特別参加者)13社に今年末の金利見通しを聞いたところ、新発10年物国債利回りは中央値でマイナス0.05%、20年債は0.30%となった。前回3週間前の調査ではそれぞれマイナス0.15%、0.23%とみていた。野村証券とクレディ・アグリコル証券は10年債と20年債の利回り格差が50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)に広がると見込む。

  中央銀行の通常の誘導目標は短期市場金利。残存期間が長めの国債利回りも対象とする日銀の新たな枠組みは異例だ。日銀自身も長期金利は本来、市場に任せるのが望ましいと認めている。

  FRBが利上げに動いた2004年以降の米国債市場では、10年債利回りが低下し、グリーンスパン議長は「コナンドラム(謎)」と呼んだ。後任のバーナンキ議長は09年3月に量的緩和策を導入したが、同利回りは約150bp上昇するなど、中銀の方針通りに動かないことがよくある。それでも、市場関係者は日銀の今回の金融調節手段は強力だと言う。

  クレディ・アグリコル証の尾形和彦チーフエコノミストは「海外で大きな金利低下をもたらすショックでも生じない限り、日銀の金利コントロールは可能だろう」と指摘。「日銀の約束を信頼すれば、10年債利回りはゼロ%程度で安定的に推移していく」と言い、10年債が前回ゼロ%だった3月の相場水準を踏まえると「20年債との妥当なスプレッドは50bp前後と日銀は判断しているのではないか」とみる。

  今回の調査で10年債利回りの年末予測値が最も高かったのはクレディ・アグリコル証と野村証、メリルリンチ日本証券、三井住友銀行のゼロ%。みずほ証券とドイツ証券、JPモルガン証券、SMBC日興証券はマイナス0.05%と予想した。大和証券と東海東京証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、バークレイズ証券はマイナス0.10%。最も低かったのはマイナス金利の深掘りもあり得るとみる岡三証券のマイナス0.15%だった。

  10年債利回りは異次元緩和の導入直後の混乱を受けて13年5月に1%ちょうどに急騰した後、昨年1月の0.195%まで徐々に低下。米欧金利の上昇を背景に約5カ月間で0.545%に上昇したが、今年1月末のマイナス金利政策の導入を受け、7月にマイナス0.30%と過去最低を付けた。しかし、今回の調査で回答した13社はマイナス金利の大幅な深掘りでもない限り、過度な利回り低下局面は終わったとみている。

  みずほ証券の丹治倫敦シニア債券ストラテジストは「金利が下がり過ぎると日銀が調整してくるので、短期的にはブルフラット化しても、中期的にはブルスティープ化する」と読む。「日銀の想定レンジは10年債はゼロ%の上下10-15bp、20年債は0.45%程度の上下20bp。年80兆円増の量的な拡大に『メド』を付けたのは下振れも許容するということで、明らかに買い入れ減を想定している」と言う。

*T

10年債・年末20年債・年末
クレディC証 0.000.50
野村証 0.000.50
メリル日本証 0.000.40
三井住友銀 0.000.25
みずほ証▲0.050.35
ドイツ証▲0.050.30
JPモルガン証▲0.050.30
SMBC日興▲0.050.30
大和証▲0.100.30
東海東京証▲0.100.30
三菱モルガン証▲0.100.30
バークレイズ証▲0.100.30
岡三証▲0.150.25
(中央値)▲0.050.30

*T

  日銀は先週の金融政策決定会合で、日銀当座預金の一部に対するマイナス0.1%の付利適用を続ける一方、10年物国債利回りがゼロ%程度で推移するよう「長短金利操作」を新たな枠組みの中心に置いた。国債の保有額を年80兆円めどする方針は維持し、平均残存期間は廃止。金利急騰に備え、指定する利回りで国債を買い入れる指し値オペを新設し、固定金利オペの対象期間を10年に延ばしている。

  日本の超長期国債で発行額が最も多い20年債の利回りはどうか。クレディ・アグリコル証と野村証は年末利回りを0.50%と回答者の中で最も高い水準を予想している。三井住友銀と岡三証は最低の0.25%を見込んでいる。

  20年債利回りは日銀が超長期債利回りの上昇をある程度容認するとの観測を背景に、14日に0.495%と半年ぶりの高水準を付けた。新たな枠組みの導入後となる28日には0.35%まで下げた。10年債との利回り格差は14日に一時50bpと3月末以来の水準に拡大し、足元では40bp台前半まで戻している。

  ドイツ証の山下周チーフ金利ストラテジストは、利回り格差について、10年-20年は小幅なブルフラット化、20年-40年はブルスティープ化を見込んでいる。「ファンダメンタルズがあまり改善せず、円相場は1ドル=100円を超える円高になるため、金利低下圧力が掛かりやすい」半面、日銀が国債買い入れオペで「残存10年超の下限額を引き下げ、30年債や40年債の利回りがあまり下がらないように誘導する」と読む。

生保に配慮で30年債1%も

  黒田総裁は5日の講演で、これまで進めてきた金融政策の効果を指摘する半面、金利低下や長短金利差の縮小による金融機関収益への悪影響や、長期・超長期金利の大幅な低下に伴う保険や年金の運用利回り低下といった副作用についても触れた。

  メリルリンチ日本証の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは、超長期債の主な買い手である「生命保険会社は30年債で1%程度の利回りがないと厳しい」と指摘。「日銀は望ましい水準を決して明かさないだろうが、30年債利回りが1%を超える水準までスティープ化したいのが本音ではないか。FRBが12月に利上げして円安になれば、徐々にスティープ化していく」とみている。

  日銀が2%の物価目標を達成するために「量的・質的金融緩和」を導入してから3年半近くが過ぎた。それでも、インフレ率は7月にマイナス0.5%と異次元緩和前の水準に低迷。日銀は物価目標への到達時期を4回先送りし、現在は「17年度中」とするが、ブルームバーグのエコノミスト調査では全員が実現しないと予想している。次回の金融政策決定会合について、バークレイズ証券の押久保直也債券ストラテジストは、「マイナス金利を0.30%へ深掘りするが、超長期債の利回りは立てていく」と読む。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証の六車治美シニアマーケットエコノミストは、20年債は「0.3%程度が日銀の許容する下限」とみるが、市場は「いったんフラット化を試し、日銀がオペの減額に動けば、そこで止まる」と予想。「日銀は今週末公表する来月の国債買い入れ方針は変えず、市場動向に応じて対処する受け身の作戦ではないか」と言う。

  日本国債のボラティリティ(相場変動率)は15日に4.4%と10日間で3倍近くに上昇したが、金融緩和の枠組み変更後は低下。27日は2.9%と約3週間ぶりの低水準を付けた。JPモルガン証の山脇貴史チーフ債券ストラテジストは、市場が新たな環境下でのオペに慣れれば「1カ月程度でボラティリティは低下し、落ち着く」とみる。

  異次元緩和の長期化で、日銀の国債等保有額は6月末に発行残高1105兆円の36%に上っている。巨額の買い入れによる需給逼迫(ひっぱく)で、利回りがゼロ%を下回る国債は発行残高の約7割。日銀が国債売買オペに参加している金融機関を対象に先月実施した債券市場サーベイでは、債券市場の機能度が3カ月前と比べ改善しているとの回答はゼロだった。

  SMBC日興証券の竹山聡一金利ストラテジストは「日銀は決定会合前に市場が織り込んだ金利上昇分を容認するもようだ。物価目標の達成に向けた持久戦に備え、量的な限界論などを懸念されにくい枠組みになった。金融調節の自由度が高まった分、市場との意思疎通が一段と重要になる」と語った。

  黒田総裁は26日の講演で、「仮に買い入れ額が増減しても、政策的な意味合いを有するものではない」と説明している。

(第9段落以降を追加して更新します.)
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