日銀の金利コントロール、「屋上屋を架す」80兆円が裏目との見方

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  • フラット化を日銀が懸念し始めた4月水準がヒント-三菱モルガン証
  • 今の日銀が量を大きく減らすことは難しい-メリル日本証

長短金利操作による「イールドカーブ・コントロール」に金融政策の軸足を移す一方で、国債買い入れの量もめどとして残す日本銀行の新たな枠組み。実際どのように運営していくのか、市場参加者は固唾を飲んで見守っている。

  日銀は先週の金融政策決定会合で、当座預金の政策金利残高の付利をマイナス0.1%、10年国債利回りをゼロ%程度とする「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入した。物価が2%目標を安定的に超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続し、長期国債の買い入れについては保有残高を年間約80兆円増やす現状程度のペースをめどとしている。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは、「主軸が金利に移ったので80兆円を下回ることは特段問題視されない。金利が下がり過ぎれば買い入れを減らす。10年金利のゼロ%程度を実現するために必要な額は増減する」と述べた。金融調節の焦点が金利水準に向けられることで、日銀が2年前から示してきた長期国債の保有残高を年間80兆円増やす運営方針は格が一段落ちるとみている。

  東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、「政策委員のリフレ派に配慮した結果、金利ターゲットでありながら量へのコミットメントも残すという『屋上屋を架す』ような政策になってしまった。マネタリーベースへの言及を残したことが裏目となるリスクがある」と述べた。

黒田日銀総裁

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  日銀の黒田東彦総裁は26日の講演で、長期国債買い入れペースについて、現状程度をめどとするが、「金利操作方針を実現するためにある程度上下に変動することは想定されている」と指摘。仮に買い入れ額が増減しても、「政策的な意味合いを有するものではない」と述べた。

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは、「今の日銀が量を大きく減らすことは難しい。買い入れ下限利回りを設定しつつ、80兆円程度も目指していく方向にしないと、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』という政策と矛盾する」と指摘する。

金利誘導水準

  過度の利回り低下に対して日銀は、長期国債買い入れオペの減額や買い入れ下限利回りを設定する意向だ。一方、金利の急上昇に対しては、指定する利回りで無制限に買い入れる指値オペや最長10年の固定金利の資金供給オペといった新型オペで対応するとしている。

  バークレイズ証券の押久保直也債券ストラテジストは、「長期金利はゼロからマイナス0.1%のレンジになってくるはず。超長期金利はもう少しボラティリティを許容する可能性があり、日銀会合前日の20年金利0.4%程度、30年金利0.5%程度を中心に20ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)程度のレンジが意識される」との見方を示した。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証の六車氏は、日銀の政策委員会がイールドカーブの過度なフラット(平たん)化に懸念を示し始めた4月の利回り水準がヒントになるとみる。日銀が公表した4月末会合の主な意見では、「効果がイールドの低下として十分に出ている以上、若干の買い入れ額の減少が生じても問題ない」と明記した。

  4月の債券市場では、1月末に導入を決めたマイナス金利の影響が浸透する中、米国の利上げ観測の後退などをきっかけに金利低下が進み、新発20年国債利回りは0.4%台から0.3%割れまで低下した。新発10年国債利回りはマイナス0.10%を割り込む局面が増えた。六車氏は、日銀の許容範囲として「10年金利のマイナス0.1%、20年金利の0.3%台がひとつのめどになる」とみる。

「80兆円」へのこだわり

  日銀は30日に当面の長期国債買い入れ運営方針を発表する。10月から超長期ゾーンの買い入れが減額されるかが注目されている。28日の国債市場ではオペ結果が強かったことを受けて、超長期ゾーンの利回りが大幅低下した。新発20年債利回りが0.35%、新発30年債利回りが0.455%、新発40年債利回りが0.54%と、いずれも日銀会合初日の21日の水準を下回っている。

  SMBC日興証券の竹山聡一金利ストラテジストは、「来月は減額になるとみている。年80兆円増に対する日銀のこだわりを確認したい」と話した。

  日銀が新たな政策を打ち出した翌日の22日の外国為替市場では、1ドル=100円割れ目前まで円高・ドル安が進んだ。大和証券投資戦略部の石月幸雄シニア為替ストラテジストは、「国債買い入れペースの柔軟化が場合によっては、いわゆる『テーパリング』につながる可能性があることが嫌気されたようだ」と指摘した。

  東短リサーチの加藤氏は、先行き日銀が市場から購入する国債が不足してきた場合は「受動的テーパリング」になり得るとした上で、「年間80兆円の資金供給を減らす場合、マスメディアや海外などの市場参加者から過大な注目を浴びる恐れがある。金融引き締めの印象を醸し出してしまうことがなければいいのだが」と懸念する。

(最終段落を追加して更新します.)
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