「さわかみ」イズム継ぐ元俳優運用者、手法でカリスマと一線画す

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  • 保有銘柄数をピーク時の3分の1以下に減らす、1社に深く関与
  • 「将来の子供や孫、社会のために頑張れ」、衝撃の一言に出会った

国内最大の独立系投資信託会社が運用する日本株ファンドは現在、元舞台俳優と異色の経歴を持った若きファンドマネジャーの手に委ねられている。長期投資普及の世界で名高い創業者が掲げた看板を継承しつつ、時代の変化を捉え、運用手法ではカリスマと一線を画すこともいとわない。

  さわかみ投信の草刈貴弘最高投資責任者(CIO、37)は就任した2013年以降、追加型の日本株投信「さわかみファンド」の保有銘柄数をピーク時の358社から約100社に減らす一方、1銘柄当たりの投資金額を増やし、保有企業への関わりを強めて成長を促す戦略に転換した。時価総額5000億円以下の企業で、発行済み株式に対する保有比率が1%以上となる銘柄を増やしていく方針で、これまで組み入れ経験のないIT、海外企業も投資対象として視野に入れる。

草刈貴弘氏

Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  草刈氏はブルームバーグ・ニュースのインタビューで、これまでの運用は「バイ・アンド・ホールドで市場にお金を投じるという考えが強かったが、私はあくまで個別企業の株価と企業価値を比べて投資する」と話した。1銘柄当たりの保有比率が上がる分、投資リスクも高まるが、「リスクを気にし過ぎてパフォーマンスが上がらなければ、顧客のファイナンシャル・インディペンデンスの達成には近づけない」と指摘する。

  ブルームバーグ・データによると、さわかみファンドの過去3年間のリターンは27日時点で5.33%。ファンド分類で同じカテゴリーの日本株を対象としたオープンエンド型・バリューファンドの約6割以上に対しアウトパフォームしている。トータル・リターンはTOPIXを0.12ポイント上回る。草刈氏は、以前はパフォーマンスがTOPIXに似てしまいがちだったが、戦略転換の影響でアクティブ・リターンが高くなったと言う。

  草刈氏は01年に大学の建築学科を卒業後、在学時から所属する芸能プロダクションで舞台俳優の道を歩み始めた。25歳でその道をあきらめ、就職活動の厳しさも味わいながら住宅ローン販売会社に入社。数カ月後にさわかみファンドのセミナーに参加したことが大きな転機となる。一般的な投資セミナーなら「うちのファンドを買えという話になるが、将来の子供や孫、社会に還元するために頑張れと言われ、衝撃的だった」とファンド創業者との出会いを振り返る。カリスマの存在に引かれて08年にさわかみ投信へ入社、業務管理部門を担当しながら投資をゼロから学び、アナリストを経て10年11月にファンドマネジャーになった。

  さわかみ投信は、沢上篤人会長(69)が1996年に創業、99年に純資産16億円でさわかみファンドの運用を開始した。証券会社を介さない直販、申込手数料ゼロのスタイルで独立系ファンドの草分けとなり、長期投資の普及、個人投資家の育成で先頭に立つ同会長のキャラクターも共感を呼び、純資産は15年5月に過去最高の3355億円(月次ベース)にまで膨らんだ。沢上会長は現在も、東京証券取引所が12年度から行う証券投資普及のプロジェクトで主要講師を務めている。

  沢上会長は、13年にCIO職を草刈氏に譲った。草刈氏について「雑音に振り回されず、長期投資で財産のお手伝いをしたいという強い意志と意欲を持っている人間」と評価。長期運用に大切なのは「パフォーマンス競争に走らないこと」とし、同社の理念を一番理解できているとの見方を示した。結果が出るのは5ー10年先で、「今は思う存分やらせている。長期投資には経験が大切」とする半面、哲学から外れれば、「辞めさせるだけの話」と同会長は至ってシビアだ。

さわかみファンド設定来とTOPIX配当込み指数のパフォーマンス比較

  さわかみファンドは13年から解約が増え、15年までの3年間で約1265億円の資金が流出した。総口座数は10年4月に12万件超と月次ベースで過去最高を記録した後、ことし8月末時点は約11万8000件。顧客の年齢層が上がり、解約需要が高まると同時に、12年末から始まったアベノミクス相場による株価上昇で、「利益確定をした顧客が多かった」と草刈氏は分析する。

  また、東証のプロジェクトで沢上会長と長期投資の普及に努めるレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長は、「沢上会長は業界を支えてきた功労者。個人的な信頼感を持っている投資家もいる。創業経営者が退く中、求心力の低下はある」と運用者の交代を資金流出の一因に挙げた。後継者の草刈氏には「経験面で言えばチャレンジャー。どれだけ頑張れるかが重要」と話す。

  さわかみファンドが現在直面し、力を入れているのが若年層の顧客開拓だ。草刈氏は自身の経験に照らし、今の20ー30代は「漠然とした不安を持っている」と指摘。俳優稼業に身を置いた20代前半は「社会的な立場としては『プータロー』。日本のマーケットが良くなり、周囲の友人らが給料が増え、家庭を持ち始める中で不安でしかなかった」と言う。若者に対しては、「人生でリカバリーできるチャンスは必ずある」と述べ、「投資を通じてお金に縛られない生き方ができれば、少しポジティブに人生を楽しむができる」とエールを送る。

  27日現在のさわかみファンドの純資産額は2672億円。草刈氏は、「独立系投信の多くはアベノミクス前の低迷期に始まり、伸びてきた」とした上で、今後の課題として「市場に大きなショックが起こったとき、個人の方が耐えられるかどうかで存在が試される」とみている。次世代を背負う自覚も強く持ち、「沢上会長が巨人であるなら、肩に乗って遠くを見たいし、次は自分が巨人にならないと次の人を背中に乗せられない」とカリスマ超えを誓った。

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出典:草刈貴弘
(4段落の数値を最新に更新.)
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