「黒田緩和疲れ」じわり、ドルは来年末90円へ-ミスター円・榊原氏

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  • 円・ドル相場は「いつ100円を突破してもおかしくない」
  • 「米大統領選前に介入できないのは事実だ」と、榊原氏

日本銀行の黒田東彦総裁が約3年半にわたって進めてきた前例のない金融緩和は最終局面にあり、効果は徐々に薄れつつある-。ミスター円の異名を取る元財務官の榊原英資青山学院大学教授は、円相場は来年、1ドル=90円に向かって緩やかな上昇を続けるとみている。

  榊原氏(75)は26日のインタビューで、円相場が「来年末に90円に達していても驚かない」と指摘。「日銀のアグレッシブな金融緩和は最終局面に入った。新たな枠組みで緩和を続けるが、かつてのような効果はない」と述べた。米国の利上げも以前は今年3、4回との見通しだったが、足元では年内に1回やるか否かに後退していると言い、日米両方の要因で緩やかな円高・ドル安が続くだろうと語った。

1ドル札

Photographer: Chris Ratcliffe/Bloomberg

  「マーケットは常に予測と現実だ」と、榊原氏は指摘。円が昨年6月に13年ぶり安値の125円86銭まで下げたのは黒田総裁の積極的な金融緩和が主因だったが、今や「金融緩和の終わりが近いとまでは言えない」が、景気動向は悪くないので「さらにマイナス金利を深掘りする感じはしない」と語る。米国の利上げは「予期されたほどきつい引き締めではない。年内になければ、さらにドル安になる」とみている。

Eisuke Sakakibara, professor at Aoyama Gakuin University

Source: Bloomberg

  円相場は日銀による金融緩和の枠組み変更の翌日、一時100円10銭と約1カ月ぶりの水準に上昇。6月下旬に付けた2013年11月以来の高値99円02銭に迫った。日銀は先週、当座預金の一部に適用する利息(付利)をマイナス0.1%で据え置く一方、10年物国債利回りがゼロ%程度で推移するよう、国債を買い入れる「長短金利操作」を新たな枠組みの中心に据えた。インフレ率が安定的に2%の物価目標を超えるまでマネタリーベースの拡大を続ける事実上の「時間軸政策」も採用した。

  榊原氏は円相場が118円前後だった1月のインタビューで、110-115円のレンジに移ると予想。3月には年内に105-110円が取引レンジになると予測した。英国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利する直前には、結果がどちらに転んでも100円を突破する可能性が高いと分析。円相場は年初から主要通貨に対し、ほぼ全面高となっている。

  20カ国・地域(G20)は、金融政策について、為替相場を操作目標にせず、通貨安競争を避ける方針で一致している。ただ、円相場は年初から対ドルで約20円上昇。黒田総裁は26日の講演で、為替等が経済や物価に与える影響はしっかり注視していくと述べ、為替の安定のために最大限の努力をしていくつもりだと指摘した。

  榊原氏は、当面のドル・円相場は「95-100円のレンジになる。100円は1つのメルクマールになっている」と指摘。突破すれば「95円程度まで一気に進む可能性はある。日本の当局はそれを気にしている」と読む。ただ、対ドルの為替介入は日本単独で実施する場合でも「米国の合意というか、少なくとも黙認が必要だが、現段階では了解を得られないので介入できない」と述べた。

  もっとも、「95円に向かってかなり速く円高が進み、米国もドル安に危機感を持てば介入できる」と言い、「90円を突破して80円になるようなら、私ならば米当局と協調介入について協議し始めるだろう」と語った。財務省の為替介入実績によると、政府・日銀は円が対ドルで75円35銭と戦後最高値を記録した11年10月31日に過去最大規模となる8兆722億円の円売り・ドル買いを実施した。翌月4日まで続けた後は、足元まで5年近く介入していない。

  榊原氏が大蔵省(現財務省)の国際金融局長だった1995年のドル・円相場は円高から円安に大きく振れた。局長に就任する直前の4月には当時の戦後最高値79円75銭を付け、米欧との協調介入や米国の利上げと日銀の利下げなどが実施された後の9月には100円の大台を回復した。同氏はアジア経済危機が発生した97年7月から財務官を務め、巨額の円買い介入も手掛けた。

「トランプ大統領」でも心配無用

  「米大統領選前は介入できないのは事実だろう。米国が介入を嫌うからだ」と榊原氏は言う。「誰が勝つかで為替相場がどうなるかは今のところ予想が難しい」が、共和党候補ドナルド・トランプ氏と民主党候補ヒラリー・クリントン氏の「どちらになっても、どちらかというとドル安政策を望む」と予想。ただ、為替相場は「それも織り込んでいる可能性はある」と指摘した。

  榊原氏はトランプ氏が勝つ確率は「意外と50%近くある」とみている。過激な発言で物議を醸しているが、大統領になれば「現実的な路線に転じるだろう。あまり危機感を抱く必要はない」と言う。為替政策は「大統領だけでは決まらない。財務長官は重要だ」と語る。仮にクリントン氏が勝利し、米連邦準備制度理事会(FRB)理事のブレイナード元米財務次官が就任すれば「専門家なので極端に走らず、日本との連携も期待できる」とみている。

  市場関係者の注目は11月8日の米大統領選に集まっている。トランプ氏とクリントン氏は米国時間26日夜に1回目のテレビ討論会で直接対決。最新のブルームバーグ・ポリティクス全米世論調査によれば、投票を予定している有権者の支持率は2者択一形式では両者とも46%で並んだ。

  榊原氏は「世界経済の減速がドル高と円高につながっている。しかも対円ではドル安だ」と指摘。「ユーロ圏には構造的な問題があり、英国も弱い。中国経済の成長率も大きく低下しており、新興国通貨も資金流出で弱い。円は安全通貨と見なされている面もあり、今の状況が続く限り、緩やかな円高が続く」とみている。

  安倍晋三政権の下、日銀総裁に就任した黒田氏は、「量的・質的金融緩和」を13年4月に開始して以来、先週の新たな枠組み導入まで緩和路線をひた走ってきた。榊原氏は財務官の後輩に当たる黒田氏について「日銀総裁の再任はあまり例がないが、任命した安倍政権が続くとの前提に立てば、あり得ないことではない」と話した。「安倍首相は恐らく黒田総裁を評価している。再任がなければ、日銀出身の中曽宏副総裁ではないか」と言い、「いずれにせよ、金融政策の大きな変更はない。ずっと緩和は続けるだろう」と語った。

(第7段落以降を追加して更新します.)
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