日銀の新機軸はポスト黒田も視野-緩和長期化、国債購入縮小にも布石

  • 異次元緩和の柱「マネタリーベース」に別れ、代わりに長短金利操作
  • 際限ないマネー膨張に終止符-大幅な円高・株安の引き金は回避

日本銀行が新たに打ち出した金融緩和の枠組みは、異次元緩和を進めてきた黒田東彦総裁の任期終了後の金融政策の展開もにらんだもとのとなった。

  2013年3月、任期より数週間早く退任した白川方明前総裁を引き継いだ黒田総裁を、市場は熱狂的に迎えた。就任早々の金融政策決定会合で、マネタリーベースを2年で2倍にする量的・質的金融緩和により、2年で2%の物価目標を達成すると宣言、これを好感して大幅な円安・株高が進んだ。それから3年半、黒田総裁は異次元緩和の柱だったマネタリーベース目標に別れを告げた。

黒田日銀総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  代わりに、21日の金融政策決定会合で前面に打ち立てたのは、長短金利を操作するイールドカーブ・コントロール。これにより、現在保有残高が年間約80兆円ペースで増えるよう行っている長期国債買い入れの持続可能性をめぐる懸念には、一応の答えを出した格好だ。

  日銀総裁の任期は5年。退任した白川前総裁の残り短い任期を務めた後に黒田総裁が再任されたケースを除けば、1960年代以降に再任された総裁はいない。2018年4月の任期切れまで19カ月足らずとなった今、黒田総裁は急激な円高や株価暴落の引き金を引くことなく、マネタリーベースの際限のない膨張に終止符を打つことができた。後任の総裁は、緩和路線を継続するにせよ、テーパリング(長期国債買い入れ縮小)を行うにせよ、相応の柔軟性を得た。

  ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフエコノミストは21日付リポートで「2%インフレでさえ全く視野に入っていない下で、それを超える水準まで安定的に推移するまで金融緩和をコミットすることは、事実上、黒田総裁の任期を大きく超えて半永久的に緩和を続けるとの意思表明に近い」と指摘している。

  もっとも、黒田総裁の「何でもやる」路線からの撤退に失望を隠さないエコノミストもいる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所の嶋中雄二所長は、今回の決定は「悪い兆しだ」と受け止め、「金融引き締めであり、非常に失望している」と話す。

時間軸の強化

  日銀が金融緩和強化のための新しい枠組みとして打ち出した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」。その核は長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」と、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の物価目標を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」の二つだ。

  特に後者は、2%の物価目標を「安定的に持続するために必要な時点まで継続する」としてきたこれまでのフォワードガイダンス(時間軸)を強化するものだというのが日銀の説明で、実際、緩和の長期化が約束されたとの評価もある。

  SMBCフレンド証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは23日付のリポートで、見通しベースだった従来の時間軸から、実績値ベースで安定的に2%を超えるまで継続するとしたことで、出口に向かう「ハードルが高まったと言える。かなり強力な緩和の長期化宣言だ」と指摘する。

出口への「静かな第一歩」

  野村証券の松沢中チーフ金利ストラテジストは21日付リポートで、「金利を抑制する効果やインフレ期待を刺激する効果はないだろう」という。目標達成前でもマネタリーベース拡大ペースの鈍化が許容されるためで、「実質的なテーパリングに当たる」と指摘。出口への「静かな第一歩」であり、日銀が巧妙に覆い隠しても、後で振り返った時に出口論の始まりだったと解釈される可能性が高いように思えるという。

  日銀は総括的な検証で、「マネタリーベースと予想物価上昇率は、短期的というよりも、長期的な関係を持つものと考えられる」と指摘。会合後に会見した黒田総裁も、マネタリーベースと予想物価上昇率は「短期的には密接にリンクしていない」と述べた。

   東海東京調査センターの武藤弘明チーフエコノミストは21日付のリポートで、 「マネタリーベース目標の撤廃は量の拡大自体にはあまり目に見えるような成果はかったと日銀が認めているようにも見え、将来のテーパリングへ布石とも捉えられる」という。

史上最強だったはずだが

  黒田総裁は4月13日の講演で、1月に導入したマイナス金利付き量的・質的金融緩和は「近代の中央銀行の歴史上、最強の金融緩和スキームと言っても過言ではないだろう」と述べたが、1年もたたずに「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に看板は書き換えられた。政策運営方針を示す金融市場調節方針からは、マイナス金利の文字も消えた。

  みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケットエコノミストは23日付のリポートで、「白川体制の『分かりにくさ』を全否定するところから生まれた黒田体制だが、ここにきて一段と手段が拡散し、理解が難しくなった」という。

  発表文にはイールドカーブ・コントロール、オーバーシュート型コミットメントといった新語が踊っているが、マネタリーベースを2倍にして2年で物価を2%にすると、ことさら分かりやすさを追求していた3年半前と比較すると、「かなり遠いところへ来てしまったように感じられてならない」と唐鎌氏は指摘している。

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