「2度目の破綻」を食い止めろ、人口減少する夕張市の新たな挑戦

  • 住居集約で行政コスト削減するも、自治体存続には課題
  • 炭鉱跡から出るガスを利用する計画が許可、18年度の実用化目指す

「我慢だけでは解決法にはならない」-。10年前に財政破綻し、赤字解消に向けてリストラを重ねてきた北海道夕張市の鈴木直道市長は決意を語る。膨大な借金、人口流出、高齢化といった問題を抱えながら、新たな価値の創出へ向けて歩み出した夕張市の挑戦は、日本中の自治体が将来迎えるものだ。

  市内に住む柳原清さん(97)は4年前、市の要請で長年の住まいから団地に移り住んだ。妻をなくして以来独り暮らしだったが、旧知の地域住民が団地に集まって日々交流ができると気に入っている。市では破綻後に職員や議員を半減するなど行政コストの削減を進めており、点在する住居を集約して効率的に行政サービスを提供するコンパクトシティー計画はその一環だ。

夕張市の商店街

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  日本では10年後に全都道府県で人口減少が見込まれ、25年後には自治体の半数で65歳以上が40%を占める見通しだ。コンパクトシティーの試みは2000年前後から青森市や富山市などでも始まったが、中心市街地に新たな商業施設をつくるなどの新規投資が主で、住居の集約ができる例は珍しい。三井物産戦略研究所の栗原誉志夫氏は、夕張市のように住民が危機感を共有している自治体以外では、税制で優遇するか、財政が立ち行かなくなり道路整備を止めて移動せざるを得なくなるケースも考えられるという。

孤独死の可能性

  夕張市では閉鎖予定の地区で住民への聞き取り調査を繰り返し、地域の10年後の姿を共有。孤独死の可能性など不安を話し合い、転居するメリットを判断できるようにした。住民の移動後、利便性や満足度をアンケートで尋ねたところ、5段階評価で平均を上回る3.3だった。市の計画策定と施行を主導した北海道大学大学院の瀬戸口剛教授は、高齢化や財政悪化に悩む自治体は数多くあり、「夕張市を特別視せず、住民が住み続けられる環境を作ることが喫緊の課題」だと述べた。

  夕張市内には赤茶けたモルタル造りのかつての炭鉱団地が点在する。雑草が生い茂り、さびたトタンぶき屋根が崩れ、窓ガラスは割れているが、中には洗濯物が干してあるなど住人の存在がうかがえる部屋もある。割れた窓に何重にもビニールを重ねてガムテープでとめているところもあった。

  夕張市は20年後をめどに、1都市拠点と4地域へ再編・集約する計画だ。地域に住民が1人でも残っている限り、建物や生活道路の維持費、除雪費用が生じていたが、住居の集約が進むと公営住宅管理費は5年間で3割減の7000万円程度となった。しかし、その代償も大きかった。

かつての炭鉱住宅

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

縮小だけでは維持できない

  市内に救急医療機関がなくなったため、年間550件ある救急搬送は時間をかけて市外へ向かい、小中学校は統廃合により東京23区より広い地域に一校ずつとなった。市内に住む渡津澄夫さん(80)は、札幌の病院に1日がかりで通うのが大変だと話す。閉鎖された病院を訪れると、げた箱に靴やスリッパが残り、廊下には崩れたコンクリート片が散らばり、封を開けていない注射器がほこりをかぶっていた。

  「多くの犠牲を払いながらも赤字削減をしてきたという意味では優等生だった」と、鈴木市長は話す。ただこの間、不便になった生活を嫌うなどして人口の3割が流出しており「深刻な問題と受け止める必要がある」と語った。

第2ステージへ

  夕張市は、国が推進する「地方創生のスタートラインにすら立てていない」と3月の報告書で指摘し、財政再建だけでなく地域再生にも取り組むべきと訴えた。縮小のみでは住民への魅力は失われる一方となり、「2度目の破綻ともいうべき切迫感」があるとさえ記した。

  鈴木市長は次の課題として、住宅と子育て環境の整備、地産地消エネルギーへの取り組みを挙げる。夕張市は再生計画に向け、国、北海道との3者協議を進めており、2017年度から自治体を存続できるかを問う「壮大な実証実験の第2ステージ」に挑戦するという。

  自治体の再生は、国としても進めたい課題だ。政府の16年度一般会計歳出のうち地方交付税交付金の占める割合は約16%で、社会保障費に次いで大きい。「国は地方創生と明るい言葉を使っているが、実態は背に腹を変えられない状況にある」と野村資本市場研究所の江夏あかね主任研究員は言う。地方が自立できないと国の財政の重荷となり続けるため、夕張市の実験の成否は「日本全体の将来への処方箋」となりえるとしている。

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住宅、子育て、エネルギー

  市長が指摘する住宅の問題には規制が立ちはだかる。実は夕張市は空き家となった公営住宅が溢(あふ)れる一方、民間賃貸住宅は少ない。千歳空港や苫小牧港に近い交通の要衝にある地の利から腕時計部品メーカーのシチズン夕張など大手企業が進出しているにも関わらず、約800人が市外から通勤する。かつて炭鉱労働者が暮らした公営住宅への入居には法律で収入制限があるためだ。漢方製剤のツムラも破綻後に市内に子会社を構えたが、従業員の7割以上が市外から通う。

  子育て環境の整備は、長期的に街を持続可能にするのに欠かせないという位置づけだ。破綻時に公園やプール、図書館など多くの施設を閉鎖し、子供の居場所が消えた。65歳以上の割合が49%と高く、若い世代は限られているが、鈴木市長は「人数が少ないからこそ少ない投資で展開できる」と話す。

  地産地消エネルギー計画は、4年越しで国の理解が得られた事業だ。炭鉱跡から得られる炭素メタンガス(CBM)は、夕張市全世帯の電気や灯油などの換算で1500年分の埋蔵量がある。市の事業化計画に対し、国は海外からのエネルギー安定調達が国策だとして難色を示してきたが、原子力発電所の長期停止やシェールガス革命などを経て8月、試掘する許可が得られた。18年度には農業での実用化を目指す。財政再建団体である同市は、全ての計画変更において総務大臣の許可が必要で、柔軟に政策を変更しづらいのが現状だ。

一貫した姿勢必要

  奈良女子大学の教授で、「人口減少と地域の再編」の著者でもある中山徹氏は、政府が地方創生を掲げながら一貫した姿勢を取っていないことを問題視する。食料やエネルギーの自給率を上げるために地方を生かすべきところ、環太平洋連携協定(TPP)などで対抗策もない地方にグローバル化を求めており、「方向性を定めないと、日本の貴重な資源が失われてしまう」と話す。

  国が「人口減少下で経済成長を続ける国づくり」をうたって地方重視の姿勢を示したのは、12年に安倍晋三政権が誕生してから。それまでは小泉政権から始まった道州制を念頭においた計画で、「国土形成を広域ブロックに丸投げしつつ、地方向けの予算を大幅に削減」し、市町村合併を強力に推し進めていたことが現在の地方衰退につながったと中山氏は指摘した。

人口半減での価値創出

  鈴木市長は10年後の夕張について、人口は半分程度になっているかもしれないが、住民の過半数が、「残ってよかった」と感じる街づくりを目指すと述べた。人口減少社会では利便性だけではない価値の創出が必要と感じている。

  「もう少し早く手を打っていればここまでの負担を住民に強いることはなかった」と感じており、全都道府県で人口減少が始まる前だからこそ、国も他の自治体も議論を先送りにしないでほしいと訴える。夕張住民への価値創造に向けた新たな計画は16年度中に総務大臣の同意を得る見込みだ。

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