日銀は短期決戦から撤退、名称変更のみで事実上テーパリングの見方も

  • 「政策の手詰まりをあらためて印象付ける」とシティ・村嶋氏
  • 市場はもともと緩和長期化を予想「実質的変化なし」と大和・野口氏

日本銀行はマネーの量を操作目標としてきた金融政策から、長短の金利差(イールドカーブ)を操作目標とする枠組み(イールドカーブ・コントロール)に転換した。枠組みの名称は変更したものの、これまでの短期決戦からの撤退であり、事実上のテーパリング(国債買い入れの縮小)との見方も出ている。

  日銀はこれまで、マイナス金利付き量的・質的金融緩和の下で、長期国債の保有額が年間約80兆円ペースで増えるよう買い入れを行ってきた。21日の金融政策決定会合後に会見した黒田東彦総裁は、新しい金融緩和の枠組みはイールドカーブ・コントロールなので、「今後ともずっと何か固定するということではなくて、実際の買い入れ額は上下、変動することにはなる」と語った。

黒田東彦日銀総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは同日付のリポートで、枠組みの変更は量から金利に政策運営の軸足を移動させるものであり、「2%達成に向けた『短期決戦』から撤退したことを日銀自身が事実上認めるものと解釈できるかもしれない」と指摘。いかに新しい体裁を強調しようとも、はっきりとした政策効果は期待しにくく、「政策の手詰まりをあらためて印象付けるものだった」という。

実質的なゼロ回答

 ブルームバーグがエコノミスト43人を対象に7-12日に実施した調査で、今会合の追加緩和予想が23人(54%)と過半数に達し、緩和予想の23人は手段(複数回答)としてマイナス金利拡大(14人、61%)と長期国債買い入れ増(13人、57%)を挙げていた。

  新しい枠組みでは従来の量、質、金利という3次元の大枠を維持した上で、イールドカーブの過度な低下、フラット化を回避するための技術的措置が新たに追加された。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストは「実質的な『ゼロ回答』だが、緩和パッケージの名称を変更することで『現状維持』と発表することを避ける狙いがあったのだろう」と指摘する。

  市場が予想した緩和措置がいずれも見送られたにもかかわらず、発表直後に円安・株高で反応したことについて、藤代氏は「金融株下落につながるマイナス金利の深掘りが見送られたほか、フォワードガイダンスが強化されテーパリング懸念が払しょくされたことが大きい」という。 

フォワードガイダンス強化にも疑問符

  しかし、フォワードガイダンスの強化についても疑問の声が出ている。日銀は2013年4月に異次元緩和を導入した際、2%の物価目標を「安定的に持続するために必要な時点まで継続する」としていたが、今回これを「実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を継続する」に変更した。

  一時的に2%超えを容認するため、日銀は「オーバーシュート型コミットメント」と命名。黒田総裁は「極めて強力なコミットメント」と説明した。しかし、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは同日付のリポートで、不況期のインフレ低下を前提にすれば好況期には2%超を容認する必要があるため、「もともと念頭に置かれていたこと」と指摘。「大きく変更されたわけではない」とみる。

  大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストも同日付のリポートで、表現上は確かにコミットメント強化といえるものの、「2%の早期達成は全くといっていいほど見込まれておらず、もとより緩和は長期化せざるを得ないとの予想に傾いている市場にとって、実質的な変化はない」と指摘する。

黒田総裁はテーパリング否定

  黒田総裁は現在80兆円ペースで行っている長期国債買い入れについて「増えることもあるし、減ることもある」とする一方で、仮に買い入れペースを縮小しても「テーパリングではない」と述べた。

  SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは同日付のリポートで、「このことは仮に10年国債利回りが0%近傍で維持されるのであれば、国債は年間80兆円も買わなくてよい場合があり得るということであり、事実上、テーパリングの要素を含んでいる」と指摘する。実際、新発10年物国債の344回債利回りは発表後に一時プラス0.005%と3月11日以来の水準まで上昇した。

  ドイツ証券の小山賢太郎エコノミストは同日付のリポートで、マネタリーベースの伸びは年間80兆円から「急減する可能性」があり、そうなると事実上のテーパリングだと指摘。「国債買い入れペースが急減した場合は、金融市場が金融緩和の後退と認識するかもしれない」とみる。

マイナス金利

  日銀が発表した声明文では、長短の金利操作として「今後、必要な場合、さらに金利を引き下げる」と指摘。追加緩和手段として「短期政策金利の引き下げ」も挙げたが、金融市場調節方針の文章からは「マイナス金利」という文字は削除された。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは同日付のリポートで、「短期金利の誘導水準は引き続きマイナス0.1%だが、政策の説明においてマイナス金利政策を前面に出すことをやめるのではないか」と指摘。その理由として、マイナス金利の導入が「預金者・年金生活者に与えたネガティブなマインド面の影響を払しょくしたいのだろう」とみる。

  BNPパリバ証券の河野氏はマイナス金利の深掘りについて「ハードルは高まっている。政治的に反発が強いだけでなく、深掘りにも限界がある」と指摘。「日本経済が後退局面に入るといった事態に備え、マイナス金利の深掘りは当面、温存されるのではないか」とみている。

  アベノミクスの第1の矢である金融政策が長期戦は強いられる局面となり、構造改革などによる成長戦略の役割の重要性を指摘する声も強まっている。米ブルッキングズ研究所のシニアフェローのバリー・ボズワース氏は、「日本経済の停滞の解決策は金融政策の変更にあるとは思わない」と指摘。「より大きな問題は企業の投資水準の低さにあり、企業の内部留保の多さとあいまって、日本経済の下押し要因となっている」とみている。

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