「ペイントレード」の恐れ、超長期オペすでに減額でフラット化逆戻りも

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  • 残存25年超の買い入れ額は年初の3分の2に減少
  • 超長期債の利回りは「また下がる」とパインブリッジ

「総括的検証」後は想定外のフラット(平たん)化リスクにご用心-。市場では、日本銀行が日本国債の利回り曲線の修正に向けて超長期債の買い入れ減額に踏み切るとの観測が高まっているが、購入額削減の影響は弱気派が想定するほど大きくはならないとの見方もある。

  日銀がオペ(公開市場操作)を通じて金融機関から買い入れる残存年数10年超の国債の額は、すでに年初から減少傾向となっている。8月の購入額は1兆6035億円と、1月の2兆2055億円から27%減少。うち、25年超は9018億円から6016億円と3分の2になった。対照的に、残存10年以下の中・長期債の購入額はおおむね横ばいだ。

  黒田東彦総裁が導入した前例のない金融緩和策の「総括的な検証」の結果を日銀は21日に発表する。国債の利回り曲線は年央まではマイナス金利政策下でフラット化が進んだが、8月下旬からは傾斜化が目立った。日銀が為替相場などへの影響が大きい短中期金利は抑制しつつ、超長期債の利回り上昇で利回り曲線のスティープ(傾斜)化を促すとの観測が背景だ。

  パインブリッジ・インベストメンツ債券運用部の松川忠部長は、長めの金利は日銀の巨額購入だけでなく「国内外の経済・物価情勢を反映したインフレ期待の低下にも影響される」と指摘。世界的なインフレ期待の低下に加え、円高と株価の伸び悩みも踏まえれば「超長期債の利回りはまた下がると考えるのが自然だ。スティープ化が大幅に進むとの心配は不要で、むしろ怖いのはフラット化のリスクだ」とみる。

  今年初めに1.2%台だった30年債の利回りはマイナス金利政策の導入を受けて大幅に下げ、7月上旬に0.015%と過去最低を記録。長期金利がマイナス0.30%と最低を付ける中で、プラスの利回りを求める年金基金や保険会社などの資金が超長期債に集中した。その後は反転し、先週には0.605%と3月中旬以来の水準に上昇。40年債も同様に最低の0.045%から0.67%まで上げた。

  金融政策の影響を受けやすい2年債と30年債の利回り格差は、6月29日に33ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と過去最低を記録したが、先週は87bpと約半年ぶり水準に拡大。日銀が今回の会合で検証すると7月末に表明してから最大37bp広がった。

  パインブリッジの松川氏は、市場では「皆がスティープ化を前提に取引したいバイアスが掛かっている。超長期債利回りがさらに上昇すれば押し目買いに動こうと狙っている向きが多いが、相場は往々にして皆が嫌がる方向に動くものだ」と指摘。検証結果が明らかになった安心感から超長期債に買いが膨らめば「買い遅れた向きが嫌々ながらも金利低下を追いかけるしかない『ペイントレード』になる」と読む。

   日銀は長期国債買い入れオペを毎月8兆-12兆円程度。毎月5回購入している残存10年超は現在、10年超25年以下が1回2000億円、25年超が1200億円程度だ。マイナス金利政策の導入後は大幅な利回り低下を背景に購入額が減り、4月は4000億円、6月は3600億円、7月以降は3200億円程度となっている。  

日本の話題でもちきり

  マシュー・ホーンバック氏率いるモルガン・スタンレーのアナリストはリポートで「顧客との会話はイールドカーブ(利回り曲線)のスティープ化と日本に関するテーマでもちきり」だと指摘。「次に湧き上がる疑問は日銀とFRBの会合後もスティープ化は続くか」だが、続かないとみている。米連邦準備制度理事会(FRB)は21日の連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げの是非などを議論する。

  日銀は2%の物価目標を達成するために、資金供給量を積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入した。翌年10月末の追加緩和で年間の国債保有増を80兆円に拡大、今年1月末には金融機関の日銀当座預金の一部にマイナス0.1%の金利適用を決めた。

  黒田総裁は5日の講演で、マイナス金利付き量的・質的金融緩和について、金利低下や長短金利差の縮小が金融機関の収益に悪影響を及ぼすとともに、長期・超長期金利の大幅な低下は保険や年金の運用利回り低下を通じた金融商品の販売停止や退職給付債務の負担増につながっていることを認めた。

  複数の関係者によると、日銀は検証の一環として、イールドカーブの行き過ぎたフラット化の是正を狙い、現在「7-12年程度」としている長期国債買い入れの平均残存期間の柔軟化を検討している。毎月末に発表しているオペの運営方針をめぐっては、昨年12月に購入額の変更を決定会合後に発表して市場を驚かせた経緯がある。

  モルガン・スタンレーのホーンバック氏らは、日銀がマイナス金利の深掘りとイールドカーブのスティープ化を狙った国債購入の減額に踏み切るという内外投資家の予想は、両方とも「期待外れになる」恐れがあると指摘。「失望感が生じれば、世界的にイールドカーブのスティープナーがリスクにさらされよう」と言う。国債の大量償還に伴う再投資需要もあり、決定会合やFOMC後に先行き不透明感が後退すれば、超長期債に国内勢の買いが入ると読む。

  異次元緩和の長期化で、今年の日銀の国債購入額は約120兆円と16年度市中発行額に匹敵する規模となっている。国債等保有額は発行残高の3分の1を超え、日銀の存在感が一段と増している。債券市場の需給逼迫(ひっぱく)で、利回りがゼロ%を下回る国債は発行残高の約7割に上る。それでも、日銀が上昇を目指すインフレ率は7月にマイナス0.5%と異次元緩和前の水準に逆戻りした。

  米ウエスタン・アセット・マネジメントの土井一人投資運用部長は、名目金利からインフレ期待を差し引いた「実質金利を自然利子率以下に下げるという政策ロジックの根幹は不変だ」とみる。日銀は「マイナス金利の導入で名目金利の大幅引き下げには成功したが、インフレ期待は低下しており、実質金利が実際に低下したかは疑問だ」と指摘。「強弁を繰り返すだけでなく、インフレへのコミットメントのテコ入れが目先の最重要課題」だと言う。

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