柏崎刈羽原発に並ぶ特殊車両の列、膨大な投資と人材-再稼働に向け

  • 収益改善効果は最大で年2400億円-6、7号機のフル稼働で
  • 子供らに恥ずかしい思いはさせない、判断慎重に:設楽所長

美しい海岸線が連なる新潟県の日本海沿いに位置する柏崎刈羽原発。東京電力ホールディングスは、再稼働に向け総額4700億円をかけた安全対策工事を進めている。消防車や電源車、コンクリートポンプ車など100台近い特殊車両が整然と並び、現在、工事や訓練などに6600人の作業員が出入りしている。

柏崎刈羽原発内で緊急時対応訓練にあたる職員

Photographer: Emi Urabe/Bloomberg

  津波に備えた海抜15メートルの防潮堤や火災の延焼被害を防ぐ全長4キロメートルの防火帯が完成。代替の電源や冷却システムのほか、放射性物質を除去するフィルターを備えた排気設備も配備した。柏崎刈羽原発の設楽親所長はブルームバーグのインタビューで、二つの大きな地震を契機に設備や人員が整い、原発を「しっかり守っていきます」といえる状況に近づいたと話した。

  同社の有価証券報告書によると、原発が全て停止していた2015年度の原子力発電費は6063億円。この費用には原発関連工事の外注先への委託費や人件費、修繕費などが含まれており、電気事業の営業費用全体の11%を占めた。原発が動いていた10年度にはこの比率は11%だったが、その後の4年間は7-8%台で推移。しかし、安全対策工事を委託する外部の企業への発注が増えたことなどにより、15年度には比率が11%に戻った。金額も14年度比で11%増えている。

  柏崎市と刈羽村にまたがる柏崎刈羽原発は、全7基で出力800万キロワットを超える世界最大の原発。ただ07年に3基、残る4基が東日本大震災後に定期検査のため順次停止。それ以降4年にわたり全基が停止した状態が続いている。東電HDはまず6、7号機(各135万6000キロワット)の再稼働に向け13年9月、原子力規制委員会に安全審査を申請。しかし審査の中核部分となる設置変更許可はまだ下りていない。

収益改善効果2400億円

  東電HDにとって、原発の再稼働は燃料価格の変動に左右されない電源の確保となり経営安定化の要。足元では原油価格の下落で15年度の営業利益は3年連続の増益となったが、ひとたび高騰すれば大きな圧迫要因となる。廃炉や損害賠償の費用は拡大しており、最大で年2400億円の収益改善効果をもたらす柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働は大きな助けとなる。

  しかし原発の安全性に対する不信感は根強い。福井県にある関西電力の高浜原発3、4号機は、安全性を疑問視する周辺住民の起こした裁判で大津地方裁判所に運転停止を命じられた。鹿児島県の三反園訓知事は川内原発1、2号機の一時停止と安全点検を求め、九州電力とやり合う一幕もあった。

  ゴールドマン・サックスの酒井田浩之アナリストは14日付のリポートで、原発に対する仮処分や県知事判断による停止リスクの表面化に対し丁寧な説明などで対応するとしている電力各社の方針は対症療法に過ぎないとし、「再停止そのものを防ぐ解決策が見つかっているわけではない」との見解を示した。

  停止や再稼働の遅延があっても収支に影響しない仕組みが構築されれば、資本市場の観点からは根本的な解決策と「同等と見なせる」と指摘。同氏は原子力の公益電源化などが導入されれば電力株に対してはポジティブな要因となり得るとし、「今後はエネルギー政策の議論に注目したい」との考えだ。

子に恥ずかしい思いさせない

  「福島第一原発事故の検証、総括が先」として柏崎刈羽原発の再稼働議論を押しとどめてきた新潟県の泉田裕彦知事は10月に任期満了となり、再稼働への同意判断は新たな知事に委ねられることになる。泉田氏は当初再選を目指したものの8月30日には出馬を撤回。株式市場は出馬撤回により再稼働の足かせが外れると好感し、東電HD株は上昇した。

  泉田氏の求めてきた事故の検証は、知事交代後も東電HDと新潟県の合同検証委員会に引き継がれる。事故発生後、炉心溶融という言葉を避けるよう当時の清水正孝社長が指示した背景にはどのような思惑があったのか。なぜ5年にわたり事実と異なる説明を続けてきたのか。合同委の検証項目は70に上る。

柏崎刈羽原発6号機

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  東電HDでは14年前にも原発の点検記録を改ざんしていたことが外部作業員の告発で発覚し、当時の社長ら5人が引責辞任した過去もある。設楽氏は、原発の運営主体として信頼を取り戻すためには、上層部から現場の作業員まで「疑問に感じたらしっかり意見を言う」ことが重要だと指摘する。

  同社が原発作業員の事故を防止するために取り入れた、自分の愛する人やモノの写真を首に掛けるIDカードの裏に入れる取り組み。所長としてさまざまな判断を迫られる設楽氏にとって、単身赴任のために離れて暮らす2人の娘の写真を見るたびに、「この子らに恥ずかしい思いをさせないようにしなければいけない」と、身が引き締まるという。

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