黒田緩和で初の主役交代、「帯に短し、たすきに長し」10年債不人気

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  • 超長期国債の売買高が長期債を超え、格差が最大に
  • 10年債利回りがマイナス圏にある限り、再逆転は困難との見方

日本の10年物国債はもはや、流動性が最も高い年限とは言えなくなってきた。取引の主戦場は利回りがプラス圏にある超長期債に取って代わられている。

  日本証券業協会の統計に基づくブルームバーグの試算によると、民間金融機関(日本郵政グループなどを除く)や投資家の国債売買高は、マイナス金利政策の導入直後に当たる2月に初めて超長期債が長期債を上回った。ゼロ%を下回る長期債との売買高格差は7月に最大の1兆円超に広がった。

  日銀が3年半近く推進してきた前例のない金融緩和策の「総括的な検証」まで、あと1週間足らず。黒田東彦総裁や中曽宏副総裁の講演などを受け、市場では日銀が為替相場などへの影響が大きい短中期金利は抑制しつつ、超長期債の利回り上昇と利回り曲線のスティープ(傾斜)化を容認するとの観測が台頭。超長期ゾーンの金利上昇に弾みが付いている。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊シニア債券ストラテジストは、「国債取引の主戦場を20年債にしようという動きはある。マイナス金利導入後に10年債利回りがマイナスに沈んでから、プラスの利回りを求めるイールドハンティングで、買い手がシフトしている」と指摘。「10年債がプラス圏に戻らない限り、元の状態に戻るのは難しいだろう」と言う。

  民間金融機関や投資家の国債売買高は5月に合計11.2兆円とデータでさかのぼれる2004年以降で最低を記録。異次元緩和が始まる1年前の12年4月に付けた57.4兆円から8割超の減少となった。直近7月も14.1兆円と過去2番目に低い水準にとどまる。主因は長期債の売買高低迷だ。

  長期債の売買高は、新発10年物国債利回りが1.5%を超えていた07年11月に17.7兆円と最高を記録し、全体の半分近くを占めたが、異次元緩和導入後は減少。利回りが初めてゼロ%を割り込んだ今年2月から急減し、5月には最低の3.2兆円まで落ち込んだ。過去最低のマイナス0.30%を付けた7月は3.5兆円とマイナス金利政策の導入前の半分未満にとどまっている。

超長期債は再び増加

  一方、超長期債は黒田総裁の就任で大胆な金融緩和策への期待が高まった13年3月に6.5兆円と最高を記録。マイナス金利導入後には再び増え、3月には過去二番目となる6.1兆円となった。7月も4.5兆円とデータでさかのぼれる04年以降の平均を1割余り上回った。

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジストは「超長期債は利回りがプラスで年金基金や保険会社からの実需がある一方、10年債は利回りがマイナスでデュレーションも『帯に短し、たすきに長し』で運用対象になりにくい」と指摘。日銀が保有する国債を残存期間別に見ると「5年や10年は発行残高の6ー7割を占めているが、超長期ゾーンでは5割を下回り、市場の流動性低下という悪影響も相対的に小さい」とみる。

  20年債の利回りは7月上旬に初めてゼロ%を割り込み、30年債は0.015%、40年債は0.045%と過去最低を記録。プラスの利回りを求める資金が超長期ゾーンに集中した。日銀が次回会合で黒田緩和を自己点検すると7月末に表明すると利回りは上昇。これまでの緩和策の副作用に言及した先週の黒田総裁講演などに加え、検証で超長期債の国債買い入れが減額されるとの報道もあり、20年債は0.495%、30年債は0.605%、40年債は0.67%と、いずれも3月以来の高水準まで達した。

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  日銀は来週の検証の一環として、イールドカーブの行き過ぎたフラット化の是正を狙い、国債買い入れで「7-12年程度」の平均残存期間の柔軟化を検討するとブルームバーグが伝えた。14日付の日本経済新聞は、日銀が今後の金融緩和の軸にマイナス金利の深掘りを据える方針とし、国債購入では長短金利差の拡大促進も協議すると報じた。共同通信によれば、マイナス金利を今回0.1%から0.2%に引き下げる案を検討する。

  異次元緩和の長期化で、日銀の国債購入額は今年、約120兆円と16年度の市中発行額の大半に達する。国債等保有額は発行残高1075兆円の3分の1を超え、今月10日時点では399.5兆円に達した。巨額の買い入れによる需給逼迫(ひっぱく)で、利回りがゼロ%を下回る国債は発行残高の約7割に上る。

  メリルリンチ日本証の大崎氏は、日銀の保有割合が17年末ごろに発行残高の5割を超えると予想する。「量的な拡大の限界論が根強い中で国債購入の規模に許容幅を設けると、ある程度のスティープ化要因になり得る」と分析。「10年債利回りがプラスにならない限り、超長期債の売買の方がますます活発になっていく」と読む。

  日銀がオペ先を対象に先月実施した債券市場サーベイでは、現状の市場機能度が高いとの回答が初めてゼロだった。先月公表した国債市場の流動性指標では、現物取引高の低迷だけでなく、長期国債先物の売買注文の価格差や厚み、一時的な相場変動の吸収力がいずれも悪化した。

イールドカーブの本来の姿

  民間金融機関や投資家の国債売買高のうち、2年や5年などの中期債は利回り低下を背景に約5年にわたって減少傾向にある。5年債利回りが初めてゼロ%を割り込んだ15年1月に4.28兆円と過去最低を記録。今年5月には4.34兆円と同水準に迫り、7月は6.1兆円と04年以降の平均の半分強にとどまっている。

  国債保有額が日銀に次いで多いゆうちょ銀行の大野利治執行役財務部長は先月の4-6月期決算会見で、「超」が付くほどの低金利下で「リスクとリターンが見合う投資をするので、マイナス金利の国債は買っていない」と説明。超長期債も「利回りがプラスだからやみくもに買うわけではなく、水準を考慮している。国債の償還で戻ってきた資金の約半分は外債に振り向けている」と語った。

  三菱モルガン証の稲留氏は「イールドカーブは景気・物価動向を反映し、かつ先行性があるのが本来の姿だ。ゆがめられた現状は望ましくない」と指摘。景気・物価情勢に顕著な改善が見られないとし、「ゆがめるだけゆがめてメリットに乏しいのはやめてほしい」と言う。来週の検証は黒田緩和を「これまでと同様に自己肯定する内容になるのではないか」とみている。

(第13段落以降を追加して更新します.)
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