アナリスト冬の時代に追い打ち、ヘッジファンドにAIで予想提供

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  • 東大発ベンチャーのナウキャスト、来年から決算予想を提供
  • 「アナリストは分析力が試される時代になる」と松井証・田村氏

行政処分を受けて証券会社のアナリストが公表前に決算情報を探るプレビュー取材の中止を迫られる中、フィンテック企業が人工知能(AI)を利用した業績予想サービスに参入。アナリストに「冬の時代」が到来するとの見方も出てきた。

  東京大学発ベンチャーのナウキャストは、10月にも消費財企業の売上高予想を提供、早ければ来年初頭にヘッジファンドや運用会社向けに利益を含めた決算予想の提供を開始する。スーパーのPOS(販売時点情報管理)データなどを使い毎日、物価指数を算出しており、リアルタイムで売上高を把握できる。財務データなどの分析もモデルに加え、調査対象を拡大する。

  林良太CEOは、「ビッグデータを使って企業業績を予想するのが当たり前になってくる」と話し、アナリストによるルーティンワーク的な業績予想の提供は、同社のようなサービスに置き換わる可能性があると言う。

  こうしたサービスの登場は、証券会社のアナリストにとってはダブルパンチとなる。アナリストが取材で得た上場企業の業績情報などをヘッジファンドなどに提供、株式売買を勧誘したなどとして、金融庁は昨年から今年にかけてドイツ証券とクレディ・スイス証券を処分。これを受けて、その他の証券会社でも事前の企業取材に基づいた決算予想を中止しているからだ。

  複数の証券会社で銀行株アナリストを務めてきた松井証券の田村晋一ストラテジストは、「投資家側は銘柄ピックや運用能力のかなりの部分をアナリスト同様に早耳情報で勝負していた人がいる」と述べ、速報性のある情報ニーズは変わらないという。こうした分野でフィンテック企業が参入してくれば「アナリスト冬の時代というのはまんざらうそではない」と話し、「アナリストにとっては早耳情報の時代が終わり、真の分析力が試される時代になる」とみている。

攻勢

  ナウキャストは、15年2月に東大経済学部研究科の渡辺努研究室のプロジェクトを基に設立。集計に時間がかかる政府公表の消費者物価指数(CPI)に対し、POSの利用でリアルタイムで算出する東大日次物価指数を同研究室から継承。現在は「日経CPINow・T指数」として公表したり、CPIを予測する「S指数」も作成している。日本と韓国で国内総生産(GDP)への応用も計画している。

  同社は8月、株価予想アプリ開発などを手掛けるフィナテキストと経営統合。これに伴い、林CEOは、「利用していないと運用で負けてしまうというくらい、ヘッジファンドなどの運用者にとってスタンダードなサービスになるよう拡大したい」と述べた。

  POS情報で売上高を把握するだけではなく、AIが過去の業績を基に変動費や固定費の割合を推定し、売上高に合わせて費用を変動させながら利益も予想する仕組み。10月のサービス提供当初は明治ホールディングス資生堂など約200社が対象で、来年中には1000銘柄程度に増やす予定。米国や中国など海外企業の業績予想も計画している。

早耳から分析へ

  行政処分を受けて、日本証券業協会はガイドラインを制定する。プレビュー取材は行わないとするほか、特定の投資家に伝達できる情報は公表済みのアナリストリポートと矛盾せず、投資判断に影響のない範囲に限定する方向だ。

  ナウキャストの林CEOは、アナリストの仕事はなくなりはしないと言う。長期の分析や業界全体の見通しなどはAIに置き換えるのは困難で、引き続きアナリストの分析対象になると話す。松井証券の田村氏によると、近年はアナリストがかける電話の回数で点をつける投資家が増え、分析能力のある人材が少なくなったという。

  こうした中、証券業界では日本株調査の在り方を見直す動きが出ている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、月内にも一部の産業に関する機関投資家向けリポートを発行する計画。日本や米国、欧州での100万件超の特許情報をクラスター分析し、10年後に特定の技術分野で競争優位に立つ企業を探り出すなど長期的に業界を予測する内容だ。先を見通すことが難しい産業分野などで独自の長期的視点に立った調査を進めるのが狙い。

(最終段落を追加しました.)
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