日銀:サプライズ戦術から軌道修正-情報発信で透明性を向上

  • 黒田総裁や中曽副総裁の発言で市場関係者にヒント
  • 金融政策の「総括的な検証」、来週の会合に向けて大詰め

金融政策の決定に当たって市場にサプライズを与えてきた日本銀行の戦術に軌道修正が起き始めている--。

  日銀ウォッチャーは、黒田東彦総裁や日銀幹部の最近の講演や報道陣への発言から、こうした変化を読み取っており、日銀の考えを探る手掛かりが従来よりはるかに多く提供されるようになっている。

黒田日銀総裁

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg *** Local Caption *** Haruhiko Kuroda

  JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは黒田体制の初期の主な政策手段は資産の買い入れで、市場が予期しない政策決定は緩和効果を高めたかもしれないと指摘する。2013年4月の予想を上回る大規模緩和で株価は上昇し円相場は下落した。14年10月にも予想を覆して追加緩和に踏み切った。

  しかし昨年12月、市場にガイダンスを与えないまま行動する日銀に市場は疑問を持ち始めた。金融政策決定会合の結果が発表された直後、市場には追加緩和かという受け止めが広がったが、実際には異次元緩和の「補完措置」だった。

  今年1月には、黒田総裁が否定していたマイナス金利の導入を発表するという衝撃が走り、日銀にはアイデアが枯渇し始めているのではないか、という見方も出始めた。日銀当局者は市場にサプライズを与えようという意図は毛頭ないと否定するが、最近の日銀幹部の発言からはこれまでのアプローチの軌道修正がうかがえる。

率直な発言

  黒田総裁と中曽宏副総裁はそれぞれ先週の講演で、似たような言い回しを使って金融政策のコストとベネフィットを取り上げた。2人はマイナス金利政策や、なぜ利回りが予想よりも低下したのかについて分析し、長期金利の低過ぎる金利が信認を損なう危険の認識にも言及した。
 
  日銀OBでもある菅野氏は「ここ数週間で日銀のコミュニケーション戦略は完全に変わった」と指摘、「もう市場にサプライズを与えるようなことはしたくないはずだ」と述べた。

  その答えが出るのは、21日に発表されるこれまでの金融政策の「総括的な検証」と金融政策決定まで待つ必要があるが、日銀がサプライズ戦術を放棄したという見方をする日銀ウォッチャーは増えている。UBS証券の青木大樹シニアエコノミストも黒田総裁の5日の講演のあと、この点を指摘した。

開かれた対話

  野村証券の美和卓チーフエコノミストはリポートで、従来の黒田総裁の発言は現状の政策の強い肯定や、必要なら追加緩和をちゅうちょなく行うという原則的な表現で、何らかの示唆や分析の余地を与えるようなことはなかったが、今は市場との対話に焦点を当てようとコミュニケーション戦略を変えている、と指摘した。

  黒田総裁も中曽副総裁も、「総括的な検証」の最終的な結果や金融政策決定についてほのめかすようなことはしなかった。しかし長期金利の行き過ぎた低下がもたらす弊害の可能性についての言及は、日銀がイールドカーブの長めの部分の利回りについてはっきりとしたプラスが望ましいと考えていることを示唆した。 

  これを受けて、日銀は望ましいイールドカーブを実現するため国債買い入れプログラムを調整するのではないか、との見方も浮上している。 

日銀は「ツイスト・オペ」を仕掛けるのではないかとみる市場関係者もいる。詳細はこちら

  市場では日銀幹部の発言を受けてイールドカーブのスティープ化がすでに始まっている。今年0%を割った20年国債の利回りはプラス0.4%の水準まで戻している。菅野氏は、日銀当局は必要があれば通常の国債買い入れを調整する余地があるため、イールドカーブについて政策的な示唆は行われない可能性を指摘している。

  黒田総裁も中曽副総裁も、日銀当座預金の一部へのマイナス金利適用によって金融機関の貸し出し能力には影響が出なかったと指摘。企業は低金利の恩恵を受け期間が長い社債の発行を増やしていることにも触れた。

  このことには、現在の政策金利のツールを放棄しようという示唆は含まれておらず、どちらかと言えば、マイナス金利の深掘りの可能性があるとアナリストらはみている。現行のマイナス0.1%よりマイナス幅を拡大すれば、円の魅力が薄れより競争力のある為替レートにつながるとともに、イールドカーブをスティープ化できる。これは銀行にもプラスになる可能性がある。

長期化

  同時に、当初見込んでいた期待インフレ率の上昇を伴う消費者物価指数の押し上げが実現していないという当局者の認識は、日銀が緩和政策をより長期にわたって維持していく覚悟を示唆している。

  黒田総裁は8月の産経新聞のインタビューで、年80兆円の国債購入量の柔軟化について「買い入れ額に幅を持たせるかとか、購入対象国債の平均年限基準をどうするかとか、具体的な話についてはあくまでも総括的な検証を踏まえて会合で議論し、今後やるべきことを決める」と述べている。

  現行の枠組みの長所、短所両面を示すことで投資家は分析や解釈をよりできるようになるが、21日にはやはり失望したり驚いたりする人が出てくるかもしれない。それでも新しいアプローチは「非常に健全だ」と菅野氏は指摘する。

  ただし大きなサプライズはないという結論には1つだけ警告が必要かもしれない。黒田総裁は5日の講演で、量、質、金利の各次元での拡大は「まだ十分可能だ」と述べるとこう付け加えた。「それ以外のアイデアも議論の俎上(そじょう)から外すべきではない」。

原文の英語記事はこちら

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