世界的な債券高のけん引役に起きた変調、市場混乱の引き金なるか

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  • 国内金利の上昇が世界的な債券安を呼ぶとの懸念が浮上
  • ゴールドマンは日銀の政策変更には世界的なインパクトと分析

今年に入り軒並み過去最低を更新してきた先進国の国債利回り。これまでの債券高を支えてきた柱の1本が揺らぎ始めている。

  米バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの指数によると、日本国債の7月以降の収益率はマイナス2%。四半期ベースでは、量的緩和政策からの出口をめぐる思惑から金利が急騰した13年前の「VaR(Value at Risk)ショック」以来の水準に悪化している。ブルームバーグ/EFFAS指数によると、償還1年超の日本国債の収益率は同期間に26カ国で最悪だ。

People holding Japanese national flags

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  日本銀行の黒田東彦総裁が異次元緩和にマイナス金利政策を加えたのをきっかけとして、日本国債は今年前半に全ての年限で利回りが過去最低を更新。イールドカーブ(利回り曲線)は平たん化が進み、先進国の金利低下を主導してきた。しかし、7月末以降は黒田緩和の先行き不透明感から金利が上昇に転じており、日本市場が世界的な債券売りの引き金を引くのではないかとの懸念が浮上している。

  SMBC日興証券の森田長太郎チーフストラテジストは「日銀を起点とした国債のイールドカーブは海外にも甚大な影響を及ぼす。グローバルにも最大の波乱要因になり得る」と言う。前例のない金融緩和策が利回り水準を強力に押し下げ、対外投資を通じて米国債などの利回りもフェアバリューより相当低く抑えていると指摘。仮に国内金利が本格的に上昇すれば、米債の利回りにも上昇圧力が波及すると読む。

  日銀の政策金利は1995年から0.5%以下と、長期間にわたり低水準が続いてきた。リーマンショック後に広がった非伝統的な金融緩和政策でも先頭を走ってきた日本の国債市場に起きた変調。利回りがゼロ%を下回る債券は世界全体で約8.5兆ドルに達している。それだけに、先進国で35年間にわたる債券高の時代がいつ終わるのか、どのような混乱に陥るのか、といった憶測や不安が市場に渦巻いている。

  7月初旬に過去最低のマイナス0.30%を記録した新発10年物国債利回りは、日銀が黒田総裁の下で進めてきた金融緩和の「総括的な検証」を9月の会合で行うと発表して以降、水準を切り上げている。今週に入り一時はマイナス0.01%と約半年ぶりにゼロ%に近づいた。

  黒田総裁は5日の講演で、マイナス金利政策と大規模な国債購入の組み合わせはイールドカーブ全体の低下に大きな効果をもたらしたと言い、総括的な検証は緩和を縮小する方向の議論ではないと語った。その一方で、金利低下や長短金利差の縮小が金融機関の収益に悪影響を及ぼすとともに、長期・超長期金利の大幅な低下は保険や年金の運用利回り低下を通じた金融商品の販売停止や退職給付債務の負担増につながっていると認めた。

  講演を受けた市場では、日銀が為替相場などへの影響が大きい短中期金利を低水準に抑える一方、超長期債の利回り上昇はある程度容認するとの見方は強まった。2年債と30年債の利回り格差は6月下旬に36ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と過去最低を記録したが、今週5日には72bpと2倍の水準に達した。

  日本国債が世界の債券相場に及ぼす影響力は今年に入って強まっている。米BOAメリルの指数によると、国内外の連動性を測る相関係数は昨年の0.58から、今年は0.86に上昇した。相関係数は両者が完全に連動すれば1、無関係ならゼロ、反対に動けばマイナス1となる。

  米国債の10年物利回りは7月に1.3180%と過去最低を記録した後、底堅い雇用情勢などを背景に緩やかに上昇。先月26日に約2カ月ぶりの高水準を付けたが、足元ではやや低下している。ユーロ圏では、独10年債利回りがゼロ%を下回る水準で推移。欧州中央銀行(ECB)が量的緩和の期間延長や追加緩和に向かうとの観測を背景に、今週7日にはマイナス0.127%と約2カ月ぶりの水準まで小幅に低下した。

  米ゴールドマン・サックス・グループの世界マクロ・市場調査共同責任者、フランチェスコ・ガルザレリ氏は、どの国・地域でもインフレ率が低迷する中、長期金利が急騰する差し迫った危険はないと分析。ただ、黒田緩和のいかなる変更も世界の債券市場に波紋を広げると読む。同氏は5月の時点で、日本国債が過大評価されており、財政・金融面でのさらなる景気刺激策が一斉売りの引き金を引くだけでなく、国際的な債券売りに発展し得ると予想していた。

  債券市場の「タントラム(かんしゃく)」は昨年春にもユーロ圏を震源に起きた。ドイツ国債の10年物利回りは4月に0.049%と当時の最低を記録した後、過度なディスインフレ懸念と追加緩和観測の後退をきっかけに、2カ月足らずで1%を突破。米国債は同時期に2%弱から2%半ば付近まで上げ、日本国債は0.5%半ば付近とほぼ2倍の水準に達した。世界の国債市場から失われた時価総額は約7500億ドルに上った。

  足元では、黒田緩和の検証をめぐる思惑を背景に7月末から今週初めまで国内金利が上昇した結果、日米の10年債利回り格差は縮小。今週6日には156bpと15年4月以来の低水準を付けた。国内勢は海外の中長期債を先月28日-今月3日の週に1兆3264億円売り越した。売り越しは6月中旬以来で、約5カ月ぶりの大きさとなった。

  三菱UFJ国際投信の下村英生チーフファンドマネジャーは、国内勢の米国債投資は一時停止していると指摘。日本の長期金利が上昇したため、海外に出ていた資金の一部は戻ってくるだろうとみている。 

ECBもQE再設計を模索

  黒田総裁はマイナス圏で低迷していたインフレ率を押し上げ、2%の物価目標を達成するため、金融機関への資金供給量を積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月に導入した。その後の追加緩和で、国債保有増は年80兆円に拡大。今年2月からは金融機関の当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を適用している。

  SMBC日興証の森田氏は「日銀は金融緩和効果のグローバル化、内外金利市場の一体化を結果的に推進しており、世界的に関心が高い金融緩和の限界論という意味でもフロントランナーとして注目されている」と指摘。もし将来的に黒田緩和が逆回転するようなことがあれば、債券市場の混乱が世界に広がりかねないと言う。

  日本のインフレ率は7月に前年比マイナス0.5%と量的・質的金融緩和開始前の水準まで低下。黒田総裁は量的な拡大の限界説を否定するが、日銀の国債等保有額は発行残高の4割に近づいている。ECBのドラギ総裁も8日の記者会見で、量的緩和プログラムで購入する債券が尽きる事態を防ぐための選択肢の検討を担当の委員会に指示したと明らかにした。

  運用資産4360億ドルを抱える英オールド・ミューチャルのグローバル債券部門責任者、マーク・ナッシュ氏(ロンドン在勤)は、日銀がイールドカーブのスティープ化に向けた政策変更に踏み切っても驚きではないと指摘。「債券投資家は明らかに痛みを強いられる。投資資金に国境はない」と述べ、海外市場への波及は避けられないとの見方を示した。

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