【FRBウオッチ】利上げは景気循環に逆行、雇用が減速トレンド

  • クリントン元大統領の言葉を借りれば「利下げだよ、おばかさん」
  • 市場がFOMCを代行して引き締め完了、すでに緩和過程に

米金融政策当局者とその動きを追う市場関係者の多くは、単月の雇用統計に一喜一憂しているが、これは危険な兆候である。今回の雇用拡大期では雇用の伸びが2015年春にピークを過ぎ、下降トレンドに転じてきたからだ。過去2度の景気拡大局面を振り返ると、金融政策当局は雇用の伸びがピークアウトしてから、数カ月後に最終利上げを実施、これが最後の一突きになって景気後退(下記チャートの赤の縦縞)に陥っていた。

  金融当局者の「データ次第」という発言を字面通りに受け止めて、月ごとの統計のヘッドラインを追っていても、経済の実態はなかなかつかめない。中長期のトレンドを観察すると全く別世界が展開されている。

  非農業部門雇用者数の6カ月移動平均を見ると、今回の景気拡大局面では2015年2月に記録した26万6000人増でピークアウトした。イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長が率いる連邦公開市場委員会(FOMC)は、その10カ月後に当たる同年12月に0.25ポイントの利上げを決定したが、すでに出遅れていた。雇用の伸びで見る限り、景気がピークを過ぎて緩やかな減速過程に入ったところで、初回利上げを決定したことになる。今回の景気拡大局面では、初回利上げが従来の最終利上げのタイミングよりも遅れていた。

  前回の景気拡大局面では、雇用者数の6カ月平均は2006年4月に記録した25万9000人増でピークアウトし、当時のバーナンキFRB議長はその2カ月後の同年6月に、フェデラルファンド(FF金利)誘導目標を5.25%に引き上げた。同議長はその後、「追加利上げはデータ次第」と、今回のイエレン議長とまったく同じことを唱えていたが、結局、06年6月が最終利上げになった。

  「データ次第」とは先が見通せなくなったとの正直な告白であり、景気循環の最終局面に到達したことを示唆している。FOMCメンバーは昨年末の利上げ決定当初は、「利上げサイクルに入り、16年にさらに4回の利上げを実施する」と表明していた。その後、年内に予想される利上げ回数は徐々に減り、せいぜい1回に減ってきた感がある。もはや「利上げサイクル」とは言えなくなってしまった。今の状況は、従来の最終利上げ後の据え置き期間と相似形を成している。

  雇用者数の6カ月平均で見ると、昨年12月の時点で23万7000人増と、同年2月のピーク比2万9000人減で、比較的しっかりしていた。ここでFOMCは利上げに踏み切ったわけだが、今年5月には17万1000人増と、ピークに比べ9万5000人も水準を下げてきた。6月も17万1000人増と、5月と同じ伸びを示した後、7月に18万9000人増にやや加速するも、8月は17万5000人に減速し、ピークからの下降はより鮮明になってきた。トレンドを重視するのなら利上げどころか、利下げを視野に入れるべき段階に差し掛かってきた。

  ビル・クリントン氏は「経済だよ、おばかさん」というキャッチフレーズを使って、経済面では無策だった現職ジョージ・H.W.ブッシュ大統領を下し、第42代大統領に就任した。クリントン元大統領の言葉を借用すれば、「利下げだよ、おばかさん」という状況に近づいてきた。

クリントン元大統領

Photographer: David Paul Morris/Bloomberg

 
  それでは、なぜ政策当局者は利上げに前のめりになっているのだろうか。それは政策金利がなお0.25-0.50%と極めて低い水準にあり、「正常化」を追求していることがある。また景気拡大ペースが緩慢なために、減速局面もその分緩やかに進み、先行きさらに景気回復が強まるという幻想に陥りやすいことも影響しているようだ。

  長期的な視野に立って見れば、09年6月に前回の景気後退の谷を経過した後、既に8年目に入っており、ここから新たな力強い回復局面が始まるとは考えにくい。ゼロ近傍の低金利政策が続いているとはいえ、景気循環が消滅することはないからだ。

  FOMCメンバーが超低金利政策の下、ガイダンスを通じて市場を動かしていると考えている間に、実は金融当局に代わって市場が景気調整機能を果たしてきた。一見すると、市場は金融政策当局の一挙手一投足を観察しながら動いているようにも見えるが、実際には金融政策当局の動きに先行して、実体経済に影響を与えている。

  10年物米国債利回りで見ると、2012年7月24日の1.3875%で「緩和打ち止め」となったあと、上昇(引き締め)に転換。13年6月にバーナンキFRB議長(当時)が量的緩和のテーパリング(段階的な縮小)を表明すると、利回りは急激に上昇し、同年12月末に3.0282%に駆け上がった。13年末にかけての長期金利急騰は、金融政策でいう最終利上げに相当する。

  しかし市場の巧みなところは、上下両方向、融通無碍(むげ)に実体経済を調整できることである。13年末をピークに下落に転じた長期金利は15年1月30日の1.6407%でいったん底入れする。その翌月に雇用者数の伸び(6カ月移動平均)は、現下の景気拡大期でのピークを記録した。その後の雇用の伸び減速と長期金利のトレンドはほぼ一致している。19人のFOMC政策当局者がいくら頑張っても、無限大の市場参加者の総合力の前にはほとんど無力に見える。

(【FRBウオッチ】の内容は記者個人の見解です)    

  

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