IT技術が救う過疎の村、ソフトバンク若手が挑む自動運転

  • 自動運転を使ったバスと運行システム開発、早ければ19年に事業化
  • 「ぜいたく品ではなく必需品としてやりたい」-SBドライブ社長

過疎の村の停留所に無人運転のバスが止まると自動ドアが開き、待っていた老人たちがゆっくりと乗り込む。再び静かに走りだしたバスは隣町の病院やショッピングセンターへ向かう-。自動車メーカーが次々と自動運転技術の開発を進める中、ソフトバンクグループが描く同技術を使った将来のビジネスの姿だ。

  ソフトバンクは自動運転バスと運行システムの開発を進めており、早ければ2019年の事業化を目指している。無人化で採算が取りやすくなることで、高齢化により地方での公共交通の必要性が増す日本で、将来的に需要が高まるとみている。

佐治社長(31)

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  ソフトバンク子会社のSBドライブを31歳の若さで率いる佐治友基社長は、さまざまなものがインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)分野のうち「自動車市場が一番大きい。またソフトバンクは移動体と相性がいい」とインタビューで述べた。自家用車ではなくバスという生活の足を対象とすることで「ぜいたく品ではなく、必需品としての自動運転をやりたい」と話した。

将来はトラックも

  SBドライブは4月に設立され、ソフトバンクが株式の4割を保有する東京大学発ベンチャー「先進モビリティ」とともにサービスの実用化を目指す。バスに加え、将来は輸送用トラックの自動運転化も実現したい考え。この分野には、米グーグルやアップルといった世界的なテクノロジー企業が人工知能や地図情報などの最新技術を駆使して乗り出しており、日本でもディー・エヌ・エー(DeNA)が私有地での無人運転バスの運行を始めた。

  エース経済研究所の安田秀樹アナリストは、自動運転は電波やソフトウエアなどソフトバンクが持つ資産を生かせる市場だと分析。市場規模も大きく、時価総額200兆円を目指すグループ社長の孫正義氏の「戦略にかなったものだ」と述べた。

  自動運転の導入は、運転手などの人件費の削減につながる可能性もある。国土交通省の発表によると、14年度のバス事業者のうち252社のうち、黒字は29%にあたる73社にとどまった。特に東京や京阪神など都市部を除いた地域では、黒字は11%にすぎなかった。

鳥取県八頭町の町営バス

Source: Yuki Saji

日本は「危機的」

  SBドライブの佐治氏は、高齢化と過疎化が進みバスを中心とした地方の公共交通が衰退している日本は「危機的な先進国」だとし、最も自動運転を必要としている国だと述べた。また日本で成功事例を作っておけば、アジアの高齢化が進んだ際、海外展開ができるという計算もあると明らかにした。

  ソフトバンクは長野県白馬村や福岡県北九州市、鳥取県八頭町などと自動運転の実用化へ向けて提携を結んだ。白馬村では、深夜に作業する必要がある除雪車の自動運転化のアイデアが出された。北九州市では、タクシー利用客の少ない地域での活用が提案された。

  自動運転を研究する金沢大学の菅沼直樹准教授は、ソフトバンクがバスサービスの実用化を目指すことについて「決まったルートであれば、問題点も想定することができる。どこでも走る車に比べ、技術的なハードルは低い」と述べた。ただ、技術の完成を目指す一方で社会での理解が進まないと、周囲への危険性などの「いろいろなデメリットが強調」される恐れがあり、「無人化を焦ってやるのは非常に危険」と指摘した。

自動運転の実験を行うバス車内

Source: Yuki Saji

戦略コンテスト

  自動運転事業への進出は、15年5月にソフトバンク社内で行われた中長期の事業戦略を考えるコンテストに佐治氏が参加したことがきっかけだった。

  アイデアを考えていた際、父が闘病生活を送っており「絶対に実現しよう」と思って臨んだ発表だった。家族が茨城県ひたちなか市の実家から東京の病院に見舞いに訪れたり、逆に自分が実家を訪れたりする際に、移動が障害になっていることに気がついた。移動手段に革新的な技術があれば「毎日、おやじのお見舞いに行けたな」と思いながら事業アイデアを考え出した。

  コンテストでは2位になったが、佐治氏は事業化を諦めきれず、宮内謙副社長に実現を求めて直談判。宮内氏からは「思いは分かった」と言われ、経営会議で承認も得た。父は今年4月に亡くなったが、佐治氏にとって「おやじとの約束は情熱の一つ」になっているという。

孫氏を「切り札」

  国内の携帯電話事業を収益の中心にしてきたソフトバンクだが、将来的な収益の柱としてIoTに注目している。総額約240億ポンド(約3兆3000億円)で買収した英半導体設計会社アーム・ホールディングスも布石の一つ。アームはIoT時代の中核会社となり、将来的に自動運転事業も一翼を担うことを狙う。

  SBドライブの佐治氏は、自動運転事業について、グループ社長の孫氏とはまだ話をしていない。「世界に打って出るとき」には、孫氏に相談し、交渉の「切り札的に使おうと思っている」と述べた。

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