日銀はマネタリーベースの呪いから自らを解き放て-早川元理事

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  • マネタリーベース目標を撤廃すれば長期国債買い入れ縮小へ道開ける
  • 貸出支援基金へのマイナス金利深掘りでより強力な金融緩和可能に

元日本銀行理事の早川英男・富士通総研エグゼクティブフェローは、日銀が20、21両日開く金融政策決定会合で行う総括的な検証について、「マネタリーベースの呪いに取り付かれている限り、日銀に出口はない」と述べ、マネタリーベース目標を撤廃することがすべての出発点になるとの見方を示した。

  早川氏は1日のインタビューで、総括的な検証の重要なポイントしてまず政策効果を挙げ、特にマネタリーベース目標の評価は避けて通れないと指摘した。理論的にはゼロ金利下でマネタリーベースには何の効果もなく、黒田東彦総裁もそれを公に認めているにもかかわらず、「政策の誘導目標がマネタリーベースであること自体、矛盾している」と語る。

早川元日銀理事

Source: Hideo Hawakawa)

  黒田総裁は2月23日の衆院財務金融委員会で、マネタリーベースそのもので直ちに物価、あるいは予想物価上昇率が上がっていくということではない、と述べた。日銀が昨年5月に公表した「量的・質的金融緩和ー2年間の効果の検証」のリポートでも、マネタリーベースには一切触れていない。早川氏は「日銀モデルの中にはマネタリーベースの役割は何もないので、使いようがない」と話す。

  日銀は黒田総裁が就任直後の2013年4月、量的・質的金融緩和を導入し、金融市場調節の操作目標をそれまでの無担保コール翌日物金利から、日銀券と日銀当座預金、貨幣からなるマネタリーベースに変更。年間約60-70兆円ペースで増加するよう金融市場調節を行うと発表した。その後、14年10月の追加緩和で年間80兆円ペースに増額した。

  為替市場では、日米のマネタリーベース伸び率の比率と円ドル相場の関係を示したソロスチャートの信奉者も多い。早川氏は、こうしたチャートを使うトレーダーへの働き掛けによって少なくとも一時的には大きな効果を持ったことは間違いないが、「しょせん誤解に働き掛ける効果なので、それを3年間続けてずっと効果が出続けるはずはない」と語る。

  マネタリーベース目標を放棄すると円高になるとの懸念には、日銀が「検証にソロスチャートを貼ればよい」という。同チャートに従うと足元の日米のマネタリーベースの伸び率の比率から円安になるはずだが、「実際には円高が進行している。今の為替とマネタリーベースの関係はまさに正反対に動いている」と指摘する。

マネタリーベース撤廃で国債買い入れ減額に道

  早川氏がマネタリーベース目標の撤廃を重視するのは、それが長期国債の買い入れの減額に道を開くからだ。日銀はマネタリーベースを目標にしているため長期国債を年80兆円ペースで増やさなければならないが、マネタリーベースに意味がなくなれば「長期国債買い入れの狙いは長期金利の抑制」となり、買い入れ規模はそのために十分な金額で済むという。

  具体的には、国債の新規発行額の40兆円弱に対して、「20兆円ペースで買えば、ストックでみれば日銀の保有分は増え続けるのでそれで十分だ。多めに見積もっても40兆円ペースで買えば十分だ」と指摘。この水準以下に抑えれば「日銀が一番心配している限界論は自然消滅する」と語る。実際には、買い入れ額をレンジで示しいずれ徐々に下げていけばよいという。

  一方で、副作用の批判が強いマイナス金利については、むしろ積極的に使う余地があると早川氏は指摘する。日銀当座預金にかかる付利にではなく、金融機関向けの貸出支援基金に0.1%よりさらに深いマイナス金利を適用すれば、預金金利がマイナス化して預金口座から現金が引き出されるからマイナス金利の深掘りには限界がある、という議論はなくなるという。

  平時の金融緩和は短い金利は下がるが長い金利は下がらないので、借り手は調達金利の低下で投資しようと思う一方、イールドカーブが立つので貸し手は利ざやが拡大しクレジットを緩められる。この2つが合わさり金融緩和効果が出る。貸出支援基金でマイナス金利を深掘りし、長期国債買い入れの縮小によりイールドカーブを立たせることができれば、「かつての有効だったころの金融緩和を取り戻せる」と語る。

第2のポイントは市場との対話

  早川氏は、総括的な検証の第2のポイントとして市場との対話を挙げる。日銀も「サプライズは良くなかったと反省しているようにみえる」と指摘し、「明示的に反省しないまでも、予見可能性が重要などと指摘して、もう少し市場との対話をした方がいい、といったことを書いてくるのではないか」とみる。

  市場との対話で前提条件になるのは、「信頼できる経済・物価見通しを出すことだ」と早川氏。日銀と市場の見方が完全に一致する必要はないが、7月の展望リポートで17年度の物価見通しを1.7%に据え置いたことには「あ然とさせられた」という。11月1日に公表する展望リポートではいずれにしても大きく下げざるを得ないが、「もう少し信頼できる見通しを出さないと市場との対話は成立しない」と語る。

第3のポイントは財政コスト

  第3のポイントとして早川氏は日銀の財政コストを挙げ、これは「もはや出口の問題とは言えなくなってきている」と指摘。日銀は額面を上回るオーバーパーで長期国債を大量に買い続けており、「償却原価法で処理しても、足元から損が出る可能性が出てきている。足元から損が出てしまうと、引当金も積めなくなる」と語る。

  さらに、出口では「マイナス金利は財政コストにならないが、長期国債の買い入れは巨額のロスを生む可能性がある」という。一般にマイナス金利へのアレルギーが強い一方で、長期国債については限界説はあるものの弊害はあまり言われていない。早川氏は「日銀は将来の財政コストを隠すことによって現在の政策選択をゆがませている。総括的な検証という限り、この問題から逃げることも許されない」という。

  早川氏は総括的検証は「遅きに失したのではないか」としながらも、「総括的な検証をすると言った限りは、大山鳴動してネズミ一匹ではまずい」という。「逆に言うと、日銀は退路を断ったのだと思う。言った以上は、何か意味のあることをしなければならないと思っているはずだろう」と期待を示した。

(4段落にマネタリーベース目標導入の経緯を追加し更新します.)
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