ベンチャーキャピタリストのジェームズ・ライニー氏がシリコンバレーにいたころは四六時中、出資を求めて売り込む起業家たちに追いかけられていたものだ。しかし、東京に来て様相が一変した。日本の起業家たちはお金のことになると卑屈になり、口にすることさえ消極的という。

  シリコンバレーに本拠を置くベンチャーキャピタル(VC)、500スタートアップスが日本向けVCファンドを立ち上げたのは昨年のこと。ライニー氏はその責任者を務めている。日本の起業家にはVC側から気軽に話す機会を作らねばならず、面会した後でも話はなかなか本題の出資には入らないという。

  ライニー氏は「日本では起業家がVCにコンタクトする理由をわれわれが考えなければならない」とインタビューで話した。同氏は「あのお、ちょっと教えてほしいんですが、(声をひそめて)実はお金を調達する必要があるんですけど」と起業家たちの物まねをしてみせた。

  日本ではベンチャーといっても大企業が関与している場合が多く、それが米国や中国のように大ブレークする成功事例が少ない一因ではないかとライニー氏はみている。調査会社のCBインサイツによると、今年上期の日本のベンチャー向け投資の68%に大企業が関与していて、米国の27 %を大幅に上回っている。

サラリーマンVC

  世界に打って出るようなベンチャーの発掘を大企業に任せているのは問題があるとライニー氏はみている。投資判断をする企業幹部というのは自分の立場を守ろうとして、リスクを取らずに官僚的に判断するきらいがあるという。出資のための提案説明が形式ばっているのも健全ではないと話す。

  「企業VCはしばしばサラリーマン的で、出資が成功しようがしまいが給料には影響ない」とライニー氏。同氏は日本のJPモルガン・チェースでキャリアをスタートさせた後、起業に踏み切り、シリコンバレーにあるディー・エヌ・エー(DeNA)のベンチャー部門で働いた経験もある。

  こうした日本市場の特徴に加えて言葉の障壁もあって、ライニー氏には日本のベンチャーを取り巻く環境が「ブラックボックス」と映る。このため同氏は隠れた有望ベンチャーを発掘して、500スタートアップスのネットワークを通じて世界市場に担ぎ出すとともに、海外投資家に有望企業を紹介する、そんな懸け橋になりたいと考えている。

世界へのアプローチ

  昨年、500スタートアップスが日本向けVCファンドを立ち上げてから、目標とする3000万ドル(30億6000万円)に近い資金を投資家から集めた。これまでに出資したのは土木用バーチャルリアリティー(VR)ソフト、会議室共有サービス、観光客向けのレストラン予約アプリなどを手掛ける6社で、1社当たりは10万-50万ドル。

  仮想現実の中で風景や建物をつくることのできる土木ソフトウエアを開発したディヴァースの創業者、沼倉正吾氏は電話取材に、出資者として500スタートアップスが加わることで世界へのアプローチが容易になり、来年の製品発売後は提携もしやすくなるはずだと話した。

  沼倉氏は、海外ではほとんどのVCが起業の経験を持っているが、「日本ではサラリーマン的VCが多い。起業を経験したVCはプロダクトに対する見方やアドバイスが違ってくる」と話した。

原題:U.S. Venture Firm Tries to Get Japan Startups to Pitch for Money(抜粋)

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