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GPIFの日本株買い増し余力、日銀のETF買い入れ規模に匹敵

更新日時
  • 国内株の保有額が4-6月期に約2.3兆円目減り
  • 積立金全体に占める構成比は14年末以来の低さに

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が日本株を買う余地は、リーマンショック時に次ぐ規模の株運用の評価損を4-6月期に出したことで、むしろ拡大している。2014年10月に大幅な見直しをした運用構成比率に近づけるには、日本銀行が先月末の金融政策決定会合で引き上げた株価指数連動型上場投資信託(ETF)の年間買い入れ額に匹敵する規模の購入が必要となる見通しだ。

  GPIFの4-6月期の運用損失は5.2兆円余りと、前身の年金資金運用基金としては自主運用を始めた2001年度以降で3番目に悪かった。国内株の運用は、円高や世界的な市場の混乱の影響を受け2.3兆円弱の評価損。積立金全体に占める構成比は6月末に21%と14年末以来の低水準となっている。

  ブルームバーグの試算によると、国内株の保有額は6月末に約28.3兆円に減少しており、構成比を約2年前に定めた基本ポートフォリオの目標値25%に近づけるには、約5.3兆円の積み増しが必要となる。これは、日銀が7月29日の決定会合で拡大を決めたETFの年間買い入れ額6兆円近くの規模に相当する。

GPIF President Norihiro Takahashi Presents Annual Results

4-6月期の運用状況を説明するGPIFの高橋則広理事長

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  一方、日本株や外貨建て資産を積み増す元手となる国内債券の残高圧縮は足踏み状態。日本銀行の異次元緩和を背景にした保有債券価格の上昇で、構成比は39.16%と5四半期ぶりの高水準に逆戻りした。保有額は約52.7兆円とほぼ横ばいのままだ。
  
  国内株は前例のない資産構成見直し直前の保有実勢から目標値までの変更幅の45%しか進んでいない水準に後退。国内債削減の進捗(しんちょく)率も69%に後戻りした。TOPIXが年初から約17%下落するなど、日本の株式市場が先進国で2番目に悪い相場環境となっていることや、国内債相場が日銀による異次元緩和で高止まり状態となっていることが背景だ。

  SBI証券の鈴木英之投資調査部長は、GPIFは「国内株の構成比が目標値より低いので依然として積み増す余地がある。21%ならあと4%買える」と指摘。「時価が目減りして構成比が下がる株安時に買ってくるタイプの投資家だ」と述べた。

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  GPIFの国内株の積立金全体に占める構成比は、第2次安倍晋三内閣の発足直前に当たる12年9月末に11%程度にすぎなかった。一方、国内債は63%を占めていた。その後の運用方針の見直しで、国内株はほぼ一貫して増加し、国内債は減少。昨年6月末には円安の追い風もあって、運用する国内株の構成比は23%、国内債は3月末に38%と14年10月に設定した基本ポートフォリオの目標値に近づいたかにみえた。

詳細な資産構成見直しに関する記事は、こちらをご覧ください

  ただ、GPIFの昨年7-9月期の運用は、自主運用の開始以降で最大の損失を計上。世界的な市場混乱に対するリスク回避の動きが円高進行を招き、これまで積極的に増やしてきた内外株式と外債の運用が裏目に出た。年末にかけて相場は持ち直したが、今年に入ると円高・株安基調が再び顕著となり、資産構成の見直し後に稼いだ収益を全て失った格好となっている。

  14年10月から今年6月末までの運用額は累計で1兆962億円の損失。昨年6月末までの3四半期で12兆円余り稼いだが、その後は1年間で13兆円を超える運用損を被った。安倍内閣の発足以降では運用資産がなお約22兆円増えているが、大幅に増やした外貨建て資産には円高による為替差損のリスクがくすぶっている。

  三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは、GPIFは「運用資産が巨額なので、どうしても注目されやすい」と指摘。円安・株高が進んだ「アベノミクス相場の局面では収益を上げていた。長期間の成果に焦点を絞るべきだ。まだ2年程度しかたっていないので、評価を下すのは時期尚早だ」と言う。

  GPIFは名目賃金上昇率を1.7ポイント上回る運用利回りを長期的に確保する責務を負う。賃金が2.7%上がる経済シナリオの名目期待収益率は国内債が2.3%、国内株は5.9%。価格変動を示す標準偏差は国内債の4.2%に対し、国内株は6倍の25.2%に上る。資産全体では12.4%と全額を国内債で運用する場合の3倍近く振れやすい。

  GPIFは5月末、運用残高が年金財政が必要とする積立金水準を下回るリスクが策定時より低下したとし、基本ポートフォリオ変更の必要はないとの検証結果を公表。広報責任者の森新一郎氏は先週末の記者説明で、歴史的な低金利下で国内債に偏重すると運用目標を達成できないと指摘し、分散投資で優良資産を長期保有する方針を示した。資産構成を14年に変えなかった場合の収益は試算していないと述べた。

政治的な争点に

  安全な運用が望まれる公的年金を国内債から価格変動が大きい日本株などのリスク資産増に駆り立てる超低金利は、日本銀行の黒田東彦総裁が推進する異次元緩和とマイナス金利政策によるものだ。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは、7月にマイナス0.30%と過去最低を更新。超長期債も年金や生命保険会社の資金が集中し、低水準にとどまっている。

  モルガン・スタンレーMUFG証券の株式統括本部でエグゼクティブ・ディレクターを務める岩尾洋平氏らはGPIFの公表内容と直近の相場水準に基づき、国内株の構成比は足元で21.90%と6月末からやや回復し、国内債は38.34%に低下したと推計。外株は21.56%に持ち直し、外債は12.73%と小幅に下がったとみる。目標値に到達するには国内株が約4.2兆円、外株は約4.7兆円、外債は3.1兆円を積み増し、国内債は約4.5兆円減らす余地があると試算した。

  公的年金の給付金は約9割が現役世代の年金保険料と国庫負担で賄われ、GPIFからの拠出金は1割程度にすぎない。高橋則広理事長は公表資料で「短期的に市場価格が上下しても、年金受給に支障を与えることはない。年金財政に必要な積立金を残すためにしっかりと受託者責任を果たしていく」と説明した。

  GPIFと昨年10月から運用を一元化した国家公務員共済組合連合会(KKR)と地方公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団も26日に4-6月期の運用状況を公表。一元化部分と自主運用だが資産構成の目標値がGPIFと同水準の部分は、3共済の合計で約1.5兆円の運用損失を計上した。

  民進党の岡田克也代表はGPIFの4-6月期の運用損失を受け、「われわれが懸念していたことが起こっている」と述べた。内外株式の構成比を倍増するなどの運用改革は「安倍総理主導でやった話」だが、「国民に大きな不安を抱かせている」と指摘。秋の臨時国会で「大きな争点の一つ」になるとの考えを示した。

  三井住友信託の瀬良氏は、GPIFの運用について「委託者で受給者でもある国民とのコミュニケーションや説明責任が非常に重要だが、うまくできていない」とみる。国民の代表である国会議員にも「どのようにわれわれの生活に影響してくるか、基礎的な理解を深めていくしかない」と指摘。こうした基礎知識を「義務教育でやるべきだ。国民の知る権利、生活にリテラシーとして関わってくるからだ」と話した。

(第10段落以降を追加して更新します.)
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