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「影の金利」が物語る黒田緩和の憂鬱な検証、ドラギECBの後塵拝す

更新日時
  • 物価目標を達成できていない事実と整合的だとクリップナー氏
  • 日本の影の金利はマイナス4.65%、ユーロ圏はマイナス6.84%

前例のない金融緩和を導入してから3年半近く経っても物価目標にこぎ着けない日本銀行。政策効果を自ら点検する来月の「総括的な検証」を前に、黒田東彦総裁が目を覆いたくなるような有力指標がある。

  「影の金利」。ニュージーランド準備銀行(中央銀行)のレオ・クリップナー氏の推計モデルに代表される、非伝統的な金融緩和策の度合いを測る指標の一つで、名目金利に下限がないと仮定した場合に現在の金融環境がどの程度の政策金利水準に相当するかを示す。量的緩和や、金融緩和局面の長期化予想を促す「時間軸」政策などの計測に打って付けだ。

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Haruhiko Kuroda, governor of the Bank of Japan

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  ブルームバーグのデータによると、日本の影の金利は足元でマイナス4.65%。2014年10月に過去最低のマイナス4.87%を付けた後は、マイナス4%を挟んで足踏み状態だ。一方、マイナス金利政策で先行するユーロ圏はマイナス6.84%と最低を更新。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が進める緩和効果が浸透している格好だ。緩やかな利上げ局面にある米国はプラス0.24%で、量的緩和の縮小観測が浮上した13年5月から上昇基調にある。

万策尽きる?

  巨額の国債を買い入れる日銀の異次元緩和は過度な円高や株安の是正をもたらしたが、消費増税や海外経済の減速により低迷した国内景気を回復させるには至らなかった。非伝統的な緩和策の代表ともいえるマイナス金利政策も導入したが、日銀が押し上げを目指しているインフレ率はマイナス圏に逆戻りし、円安・株高も失速気味だ。日銀は9月20、21日の決定会合で黒田緩和の「総括的な検証」を行う。

  クリップナー氏はブルームバーグに対する電子メールで、日本の影の金利は金融緩和が力強さと迅速さでユーロ圏の後塵を拝していることを示唆していると指摘。黒田総裁がさまざまな緩和策を繰り出しているにもかかわらず、2%の物価目標を達成できていない事実と整合的だとの見方を示した。

  日本のインフレ率は異次元緩和の導入翌月にマイナス圏を脱し、一時は消費増税の影響を除いて前年比1.5%上昇まで加速した。だが、足元では0.5%低下と、異次元緩和の開始直前以来の水準に後退している。日銀は物価目標に到達する時期を4回も先送りし、現在は「17年度中」としているが、実現するとみるエコノミストは皆無に近い。

  実質国内総生産(GDP)は4-6月期に前期比年率0.2%増と、異次元緩和の導入時の2.6%増から減速するなど、経済全体の需給ギャップ縮小が物価を押し上げる要因としては弱い状態が続いている。輸入物価や企業収益を押し下げる円高も逆風で、円は主要10通貨に対し、年初から全面高となっている。

  黒田総裁は産経新聞とのインタビューで、来月の「総括的な検証」では物価目標の早期達成には何をすべきか考えると発言。国債買い入れ額や平均年限の柔軟化には含みを持たせる一方、マイナス金利政策は所期の効果を発揮しているとし、技術的には引き下げ余地があると述べた。

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ債券ストラテジストは「日銀はもう十分に緩和しており、マネーは飽和状態だが、実体経済には効かず、行き詰まっている」と言う。日銀の検証では「量的緩和をやり過ぎている部分をどのように言い訳するかが焦点だ。素直に過ちを認めるのが望ましいが、現実的には難しい。国債購入額に幅を持たせ、円高が進んだらマイナス金利を深掘りするのが落としどころではないか」と読む。

為替相場との関係

  日銀はバブル直後に6%だった政策金利を超円高に見舞われた1995年に0.5%まで下げた。国内金融危機などを経て景気の悪化が深刻化した99年にはゼロ金利政策を採用。量的緩和や時間軸政策などの推進は、世界的金融危機を引き起こしたリーマンショックの特定期間だけでなく、異次元緩和の導入前でも行ってきた。

  1995年初めにプラス1.98%だった影の金利は2001年10月にマイナス2.59%まで低下。世界的な金融危機の発生直前に当たる07年6月にプラス0.60%を付けていた同金利は、リーマンショックの後から下振れている。09年末までは常に米国より低く、昨年初めまでは一貫してユーロ圏を下回っていた。

  米連邦準備制度理事会(FRB)が積極的な緩和姿勢に転じた07年秋。米国の影の金利は下落基調に入り、量的緩和の縮小観測が浮上する直前の13年4月にマイナス5.49%と最低を記録した。ユーロ圏もECBの量的緩和拡大やマイナス金利の深掘りを背景に影の金利が低下。外国為替市場では、日銀の追加緩和にもかかわらず、14年秋から円高・ユーロ安基調が続いている。

  日銀は物価目標を達成するため、金融機関への資金供給量を積み増す「量的・質的金融緩和」を13年4月から積極的に進めている。自身の緩和効果の測定には今回の「検証」の前から取り組んできた。昨年5月には、名目金利の低下や予想インフレ率の上昇を通じた量的・質的緩和の実質金利押し下げ効果を10年物金利換算で1ポイント弱、物価の押し上げは0.6-1ポイントとの推計結果を明らかにした。

  ほぼ同時期に公表した職員名義の論文では、実質イールドカーブが景気に中立的な均衡イールドカーブをどの程度下回ったかで量的・質的緩和を評価し、90年代末以降の4度の緩和局面で今回が最も緩和の度合いが大きく、最速と分析した。

主役はイノベーション

  日銀は金融機関が預ける当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を適用している。市場金利全般に下げ圧力が強まる中、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは7月、マイナス0.30%と過去最低を更新した。運用難の投資家の資金は超長期債にも集中して、新発20年物の利回りが一時マイナスとなる場面があった。

  ニュージーランド準備銀のクリップナー氏によると、影の金利はイールドカーブのデータから推計するため、量的緩和などを伴わないゼロ金利政策のみの場合と比べて中長期債の利回りがどの程度低いかを表している。日本国債のイールドカーブはかなりフラット化しているので、影の金利を捉えるのが難しい面もあると言う。

  日銀は先月末に3度目の追加緩和に踏み切り、指数連動型上場投資信託(ETF)の買い入れとドル資金の貸出枠をほぼ倍増させた。クリップナー氏は、日銀が影の金利をさらに引き下げるのは難しいかもしれないが、円安・株高の促進や信用スプレッド(上乗せ金利幅)縮小などを通じた金融環境の改善は有効な手段だと指摘。ETFやREITの買い入れ増額など、影の金利には必ずしも表れない緩和策も検討に値するとの見解を示した。

  メリルリンチ日本証の大崎氏は、「政府・日銀とも持続的な金利上昇は財政の事情もあって容認できない。長いゾーンは若干の調整を受け入れるとしても、短期金利はゼロ%333近傍にとどめておきたいだろう」と言う。「結局のところ、金融緩和で成長のサポートは出来るが、主役であるイノベーションを待つしかない。日銀は役割をちゃんと果たしたが、ここから先は中央銀行の範疇(はんちゅう)ではない」と語った。

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