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マイナス金利が貸家増に拍車、節税対策も後押し-むしろデフレ要因に

  • 1月以降の新設住宅着工の伸びは「貸家」が「持ち家」を上回る
  • 貸家の空室率上昇が家賃の下押し圧力に-日銀リポート

日本銀行の黒田東彦総裁は、マイナス金利の効果の一つとして住宅投資の増加を挙げているが、総裁自身も指摘しているように増加が目立っているのは「持家」より「貸家」だ。背景には相続税対策があり、空き家の増加を通じて肝心の物価にはむしろ押し下げ圧力になるとの指摘も出ている。

  黒田総裁は6月16日の会見で、「住宅投資がかなり明確に伸びてきており、再び持ち直している」と指摘し、「貸家が非常に伸びており、持家はまだそれほど伸びていないようだ」との認識を示した。その上で、「マイナス金利政策の効果は、実体経済面にも徐々に波及してきており、今後、より明確になっていくのではないかと思っている」と述べた。

  住宅着工統計の新設住宅戸数をみると、日銀がマイナス金利の導入を発表した1月から6月までの伸び率は、「貸家」が「持家」を上回っている。

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  新設住宅にはほかに、建て売りや分譲の目的で建築される「分譲住宅」があるが、SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは1日付のリポートで、「分譲住宅は16年3月をピークにやや弱含んでいる」と分析。消費増税の再延期を受けて、デベロッパーやメーカーが「着工を急がない姿勢」を強めているとみている。

Aerial Views Of Tokyo Bay Area and Financial District

千葉県浦安市の住宅街

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

上昇する空室率

  元日本銀行理事の早川英男・富士通総研エグゼクティブフェローは7月19日のインタビューで、「貸家が増えているのは相続税対策であり、空き家をどんどん増やしていくことにつながる」と指摘。貸家の供給が増えれば「賃料が一段と下がり、CPIは一段と下がる」として物価にはむしろ押し下げ要因となるとの見方を示した。

  2015年1月から相続税の非課税枠が縮小され課税対象となる人が増えたが、アパートを建てると相続税の対象となる土地・建物の評価額を大きく減らせるため、節税になる。総務省の住宅・土地統計調査によると、13年の全国の空き家数は820万戸、総住宅数(6063万戸)に占める比率(空き屋率)は13.5%と、いずれも過去最高となった。

  不動産調査会社タスによると、東京23区の6月の賃貸アパートの空室率は34%。2015年夏ごろまでは30%前後で推移していたが、この1年ほどじわじわと水準を切り上げている。藤井和之・主任研究員は「15年1月の相続税の税制改正の影響により、相続税対策の賃貸住宅、特にアパート(木造、軽量鉄骨)の建設が増え、半年くらいの時間差を伴って空室率の上昇につながった」と述べた。

日銀も展望リポートで懸念

  日銀自身、7月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、「相続税節税ニーズによる貸家建設の増加が、もともと高い貸家の空室率の一段の上昇につながり、これが民営家賃の下押し圧力になっている」と指摘している。

  消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)における民営家賃のウエートは 2.8%にすぎないが、 16.2%のウエートを持つ持ち家の帰属家賃にも適用されるため、消費者物価全体に及ぼす影響は小さくない。

  展望リポートは家賃について、消費者物価指数で相応のウエートを持つ公共料金とともに「長期にわたって、価格の伸び迷みが続いており、量的・質的金融緩和開始以降、財や一般サービスが上昇する中にあっても、目立った改善を示していない」としている。

成果主張のセンス疑うと早川氏

  4-6月の実質国内総生産(GDP)成長率は前期比年率0.2%増と2期連続プラスとなり、うち住宅投資が同5.0%増加した。三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所の宮嵜浩シニアエコノミストは23日付のリポートで「日銀のマイナス金利政策による住宅ローン金利の低下が奏効した可能性が高い」と指摘する。

  早川氏は貸家の増加について、「相続税対策なので、貸家を建てる人たちは賃料を気にしていない」と指摘。貸家は将来の付加価値をもたらさないので「本来、GDPにカウントしてはいけないくらいだ」と述べ、「貸家が建っていることを成果だと主張するセンスそのものを疑う」と話している。

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