年金業界のクジラはやはり株式市場でもクジラだった-。世界最大の年金基金、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が筆頭株主となっている日本企業は少なくとも121社。国内株式市場を支える日本一の大株主だ。

  GPIFが先月末に開示した昨年3月末の銘柄別株式数が足元まで変わっていないと仮定し、直近の株価などを基にブルームバーグが試算したところ、三井住友フィナンシャルグループみずほフィナンシャルグループ三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の3メガバンクに加え、ホンダなど優良企業の筆頭株主に君臨していることが明らかになった。時価総額が国内最大のトヨタ自動車についても発行済み株式数の5.5%を保有する第2位の大株主となっている。市場規模が509兆円を超える日本株の6%弱を保有している計算だ。

  GPIFの積立金全体の額は昨年3月末時点で144兆円。うち国内株は約31.7兆円を占めた。通常だと、多数の運用会社に分散して委託しているため、大株主リストには登場しにくいが、今回の開示で全保有銘柄が判明したことで、TOPIX 500を構成する大型・中型株のうち、約99%に当たる495社で10位以内の大株主であることも分かった。

  JPモルガン・アセット・マネジメントの重見吉徳グローバル・マーケット・ストラテジストは「GPIFは資産構成の見直しに伴う大規模な株買いは終わったが、保有規模から来る存在感はやはり大きい」と指摘。「今後は優良企業への選別投資により、収益力や組織統治の改善を通じた企業価値の向上を促すのが重要な使命になる。国内最大の株主として日本経済の活性化に貢献することが政府、海外投資家などにとっても望ましい」とみる。

GPIF
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Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  昨年3月末時点で保有していた2037銘柄のうち、時価総額が最も大きかったのはトヨタの1兆円超。次いで、MUFG、日本電信電話(NTT)、ソフトバンク、KDDI、米アップル、ホンダ、三井住友FGなど日本を代表する企業がほとんどを占める。GPIFは市場への影響に配慮し、今回は前年度末の情報にとどめ、今年3月末については11月25日に公表するとしている。来年7月の年次報告からは同年3月末の保有銘柄を開示する方針だ。

GPIFが保有する時価総額上位8銘柄

トヨタ1.1兆円
MUFG5838億円
NTT5177億円
ソフトバンク4464億円
KDDI4448億円
米アップル4425億円
ホンダ4015億円
三井住友FG3821億円

  
  GPIFが2014年10月に設定した新たな目標値に向けた資産構成は昨年央までにほぼ一巡。その後、世界的な市場の混乱などに直面したものの、おおむね目標値に近い水準で推移している。運用委託先が代表的な指標の銘柄構成に従うパッシブ運用は日本株30.6兆円の8割超を占め、独自の戦略で市場平均を上回る収益を狙うアクティブ運用は18.48%にとどまる。

  シティグループのストラテジスト、ケン・ペン氏(香港在勤)は、GPIFは「どの銘柄でも分け隔てなく買う方針を止め、資本効率の高い企業のみを選んで他の企業に奮起を促せば、運用収益が向上して年金受給者の利益になる」と指摘。「運用資産の規模を考えれば、潜在力は大きい。アクティブ運用の重視に対する政治的な抵抗はあるだろうが、やるべきだ」と続けた。

GPIFの14年10月末の資産構成見直しや昨年3月末の構成比率に関する記事はこちらをクリックしてください

  日本の株式市場では公的部門の存在感が高まっている。GPIFなど公的年金の積極参入に加え、日本銀行の動きも目立ってきた。7月末の金融政策決定会合で黒田東彦総裁は、指数連動型上場投資信託(ETF)の残高増ペースを年3.3兆円から6兆円にほぼ倍増させた。日銀は今年末までに日経平均株価を構成する銘柄225中55で筆頭株主となる勢いだ。

  安倍晋三首相は13年9月にニューヨーク証券取引所で「アベノミクスは買いだ」と主張。14年に入ると、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)やロンドンで外国人投資家に好感されやすいGPIFの運用改革を訴えた。4月には運用委員のほとんどを入れ替え、6月にまとめた日本再興戦略の改訂版ではGPIFの資産構成見直しを出来るだけ速やかに実施すると明記した。

GPIFの資産入れ替え動向に関する14年秋ごろの記事はこちらをクリックしてください

スマートベータは3倍に    

  GPIFは資産構成の見直しに先立ち、14年4月に国内株の運用委託先を7年ぶりに変更。アクティブ運用で14ファンドを採用し、15ファンドを解約した。「スマートベータ型」のアクティブ運用やJ-REIT(不動産投資信託)投資にも着手し、TOPIXのみだったパッシブ運用では株主資本利益率(ROE)などを重視するJPX日経インデックス400など3指数を新たに採用。昨年2月には内外株のアクティブ運用委託先を補充した。

  SMBC日興キャピタル・マーケッツのストラテジスト、ジョナサン・アラム氏(ロンドン在勤)は、GPIFがパッシブ比率を大幅に引き下げるかは興味深い焦点だと指摘。「アクティブ比率を高めれば、リスクとボラティリティ(相場変動率)も高まる。これ以上リスクを取ることへの政治的な許容度は限られているのではないか」と語る。

  スマートベータ戦略は、TOPIXのように時価総額に比例した指標ではなく、収益力を測る財務指標や株価の変動率など特定の基準で構成した指数に基づき、中長期的に効率的な超過収益の獲得やリスク抑制を目指す手法だ。自家運用で投資先企業を直接選ばなくても、委託先を運用指標で選ぶことで間接的にGPIFの投資哲学を示すこともできる。

  同戦略の委託先は3社で、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントは運用指標に「S&P GIVI Japan」、野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジーは「MSCI Japan Small」、野村アセットマネジメントは「野村RAFI基準インデックス」を採用している。3ファンドへの委託資産は14年3月末には合計1兆84億円だったが、1年後には1兆5177億円と約5割増え、今年3月末には2兆9452億円とさらに倍増した。

そーせいGなどマザーズ銘柄も

  三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは、GPIFは運用資産が巨額なので「国内株のアクティブでバタバタと運用すると、市場への影響が問題になる。リスク分散を考え、スマートベータや業種別など相関性が低い戦略を組んでいくべきだ」と指摘。「こうすべきだという正解はないが、ニューフロンティアを探していくしかない」と語った。

  GPIFは東証マザーズ上場のそーせいグループサイバーダインミクシィなど新興企業にも投資対象を拡大している。14年には機関投資家の行動規範や倫理を定めた「スチュワードシップ・コード」を受け入れ、投資先との対話で企業価値の向上や持続的成長を促すエンゲージメント活動を委託先に求めてきた。

  環境・社会・ガバナンス(ESG)考慮の観点からは、昨年9月に国際連合が定めた責任投資原則に署名。先月には国内株を対象としたESG指数の公募を始めた。国内企業10社程度や海外の主要な公的年金基金と定期的に意見交換する場を設ける方針も明らかにしている。今週26日には4ー6月期の運用状況を公表する。

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