政府は専業主婦家庭を優遇してきた「配偶者控除」を見直し、共働き家庭にも利益が及ぶ「夫婦控除」の導入を検討している。複数の政府関係者が明らかにした。9月にも政府税制調査会で具体化に向けた議論が始まる。

  1961年に創設された配偶者控除は、夫がフルタイムで働き、妻が専業主婦の家庭を主な受益者としてきた。妻がパートタイムで働いていても給与収入が年間103万円以下であれば、夫の所得から38万円の控除が受けられるため、妻は勤務時間の調整を行うことがあった。財務省によると、2015年度の適用人数は約1500万人で、年間約6000億円の税収減につながっている。

  導入を検討している「夫婦控除」は、夫婦の合計所得に税制上の優遇を設ける制度だ。妻の収入を低く抑えずとも控除が受けられるため、共働き世帯にも恩恵が及ぶ。控除対象は夫婦の合計収入が一定以下の世帯に限定される見通しで、今後線引きについて議論する。

安倍首相(前列中央)と麻生財務相(同右)
安倍首相(前列中央)と麻生財務相(同右)
Photographer: Akio Kon/Bloomberg

  いち早くウーマノミクスの概念を掲げたゴールドマン・サックス証券のキャシー・松井チーフストラテジストは、同制度を見直し「中立的な税制・社会保障制度」を目指すことで「多くの既婚女性にパートタイムではなく、フルタイムで働くきっかけをつくり、それぞれの家庭により高い所得と利益をもたらす」と評価する。

  厚生労働省の「パートタイム労働者総合実態調査(11年)」によると、配偶者がいる女性パートタイム労働者のうち21%が就業調整をしており、うち37.7%が配偶者控除を理由として挙げた。15年の総務省の「労働力調査」によると、非正規職員・従業員として働く男性21.9%に対し、女性は56.3%だった。

  大和総研の是枝俊吾研究員は、仮に夫婦控除が導入された場合、個人ではなく世帯単位の税制となるため、「かなり共働きに有利な税制に舵(かじ)を切ることになる」とみる。さらに、夫婦であることにメリットを与えることになることから、「結婚して世帯を形成することを促進する税制だ」と説明した。

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「伝統的家族観」

  安倍晋三首相は女性の就労拡大を抑制しているとして2014年3月の経済財政諮問会議で配偶者控除の見直しを指示した。麻生太郎財務相は「伝統的家族観から見直しには慎重な意見も根強い」として、「中長期的な視点」からの議論の必要性を指摘。政府税調でも議論を進めてきたが、その後、約2年半が経過した。

  佐々木文雄さん(70)は、女性には「家庭を守り、子供の世話をしてほしい」と話す。IT企業に勤める東江弘矢さん(35)も、「自分の育ってきた家もそうだったから」として、子供がいたら片方の親が家庭に入る方が良いと語る。

   内閣府の「女性の活躍推進に関する世論調査(14年)」よると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という考え方について、44.6%が賛成、49.4%が反対と回答。同7月の日本経済新聞電子版の意識調査によると、配偶者控除の見直しについて、女性の80.4%が「賛成」と答えた一方、男性の56.3%が「反対」と答えた。

  人材会社勤務の篠原真由美さん(50)は、過重労働などから仕事がつらくなり、一度は専業主婦になった。専業主婦だった時期は誰とも口をきかずに1日が終わることもあり、その後半年で再就職した。仕事を再開してからは自分の自由になるお金もできたといい、「今は仕事をしていることに満足している」と話す。

人手不足が後押し

  配偶者控除の見直し議論を後押ししたのは高齢化による生産年齢人口の減少だ。政府が6月に策定した「一億総活躍プラン」では女性や高齢者の就労促進を目指す。配偶者控除の見直しは同プラン実現に向けた起爆剤の1つとして期待される。

  帝国データバンクが今年1月に実施した「人手不足に対する企業の動向調査」によると、企業の39.5%が正社員が不足していると回答。「旅館・ホテル」と「自動車・部品小売」では15年7月の前回調査から10ポイント以上増加した。非正規では、企業の26.2%が人手が不足という。大手企業ほど人手不足を実感している。

  日本経済団体連合会の榊原定征会長ら諮問会議の民間議員は今月8日、今後取り組むべき重点課題として、「女性が働きやすい税制・社会保障制度の実現に向け、配偶者手当、配偶者控除について今年中に道筋を明らかにする」と方針を示した。

  第一生命経済研究所の柵山順子主任エコノミストは、配偶者控除の見直しについて、「人手が少なくなるなかで、女性の活躍を進める必要性が出てきており、そのための障壁を取り除くという意味で評価できる」との見方を示した。

配偶者手当への波及も

  専業主婦がいる従業員世帯に企業が支給する配偶者手当の見直しに向けた波及効果にも期待がかかる。かつて配偶者控除は妻の収入が103万円を超えると手取り額が逆に減少するという逆転現象が生じていた。その後、控除の減額を段階的に実施することで税制上のいわゆる「壁」は解消された。しかし、依然として103万円以下の配偶者を手当の支給対象にする事例は少なくない。

  人事院の「職種別民間給与実態調査(15年)」によると、配偶者手当に収入制限額を設けている企業のうち70.3%が配偶者控除を考慮して額を設定している。

  柵山氏は配偶者控除が配偶者手当の支給基準になっていることから、控除の見直しを進めるなかで手当の仕組みも変わっていかなければならないとし、政府の取り組みが「配偶者手当の変革にもつながるようにしてほしい」と期待を寄せた。

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