追加の金融緩和策として上場投資信託(ETF)の買い入れ額を増やした日本銀行が、日本株市場への影響力を強めている。ETFの保有額から試算した結果、既に主要企業の実質的な大株主となっており、7月会合の方針に沿って今後買い進めば、筆頭株主・日銀の銘柄が急増する。

日本銀行本店
日本銀行本店
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  ブルームバーグの集計によると、8月初旬時点で日経平均株価を構成する225銘柄のうち、75%で日銀が大株主上位10位以内に入っており、楽器・音響のヤマハに至っては既に事実上の筆頭株主状態にある。日銀が今回、ETF購入枠を従来の約2倍へ拡大したことで、年内にはセコムやカシオ計算機でも筆頭株主化し、2017年末には55銘柄まで増加する見通しだ。

  1980年代以降、日本では行財政改革や競争原理の導入による産業育成の観点から、電電公社がNTT、国鉄がJR、専売公社がJT、日本郵政公社が日本郵政グループへと民営化し、社会全体として官から民への流れで進んできた。しかし、競争原理を体現する株式市場では最近、中央銀行がETFを通じて日本株を保有、公的年金資金が国内株式の保有比率を上げるなど「官製」の色合いが濃くなっている。

  三井住友アセットマネジメントの市川雅浩シニアストラテジストは、「相場が下がったところで日銀が買い支え、投資家に安心感を与える点では評価できる」とした半面、「長期間にわたって金額を増やし続けることが緩和になるのか。増やしてからは悪い面もあるのではないか、という見方も出てきている」と指摘した。

  日銀は7月29日の会合で、ETFの保有残高を年間約3兆3000億円から約6兆円増やすペースで買い入れることを決定。従来枠のETF買い入れは、会合直前の1回当たり336億円から8月に入り707億円へ倍増した。10年に年間4500億円でETFの買い入れがスタートして以降、足元では過去最高ペースで購入が進み、日経平均やTOPIXなど買い入れ対象指数の構成銘柄に対する存在感も増している。

  日銀はヤマハ株を実質5.91%保有、保有率5.49%で筆頭株主のブラックロックを上回った。日銀以外の株主の比率が現状のままと仮定すれば、現時点で実質保有率が5.31%のセコムや4.55%のカシオは年内、来年3月までにはエーザイや電通、安川電機、ニチレイなどでも日銀が筆頭株主化する。17年末にファナックや京セラ、テルモ、ダイキン工業、TDK、住友不動産、オリンパス、アドバンテスト、三越伊勢丹ホールディングスも加わると、日経平均構成銘柄の4分の1を占め、18年末には82銘柄と全体の3分の1を上回る見込みだ。

  

  日本コムジェストのポートフォリオ・アドバイザー、リチャード・ケイ氏は「株式市場への資金流入という点でポジティブだが、あまり歓迎しない」と言う。個別企業の選別や監視が行き届かない一律的な保有率の増加は、「ガバナンスを良くし、日本企業を抜本的に改善する動きではない。バリュエーション全体を狂わせる動きになるかもしれない」と懸念を示す。

  ブルームバーグの試算では、日銀は6月末時点で日本のETF全体の59.5%、8兆9000億円を保有する。買い入れは指数の時価総額に比例して行っており、日経平均型がTOPIX型を上回る。日経平均型に資金がより流入する構図で、15日午前は日経平均が小高くなった半面、TOPIXは軟調でNT倍率は一時12.8倍台と17年ぶりの高水準となった。日経平均の指数寄与度が大きいファーストリテイリングの浮動株比率は25%だが、野村証券の試算ではそのうち半分を日銀が保有し、年末までには63%まで上昇する見込みという。

  SMBC日興証券の伊藤桂一チーフクオンツアナリストは、「浮動株を吸収し尽くしていくことが今後問題になる可能性はある」と指摘。流動性が低下すれば、売買がしにくくなり、「どうしても買いたい投資家は価格をつり上げ、売りたい投資家は下値を大きく下げる。浮動株比率が低い銘柄は値動きが荒くなり、その銘柄のウエートが高いと、インデックスへの影響も大きくなる」と話す。

  また、日銀がETFの買い入れを増やせば増やすほど、出口政策のタイミングもますます難
しくなっていく。SMBC日興の伊藤氏は、「日銀もいつまでも持ち続けるわけにはいかない。どこかで出口戦略を考える時、指数ウエートの高い銘柄や保有比率の高い銘柄に思った以上に売り圧力がかかる可能性は考えなければならない」としている。

  もっとも、日銀が多くの主要企業で実質筆頭株主になっても、弊害は少ないとの声も聞かれる。みずほ投信投資顧問の青木隆株式運用部長は、「日本企業の稼ぐ力を回復させることと物価上昇率2%という政策の目標があり、うまく相乗効果をもたらすことが期待されている」と指摘。現在のETFの購入規模は、「政策目標に合致した動きを期待できる範囲」と認識だ。日銀が買っても、ファンダメンタルズが悪ければ株価は下がるとし、「経営判断への影響はない」とみている。

  日銀は、4日と10日に既存のETFを707億円購入した。これまでの1日当たりの買い入れ額の最高は2012年5月の397億円で、これを大幅に更新するペースとなっている。購入枠増額を決める直前の7月28日の買い付け額は336億円だった。一方、設備・人材投資に積極的な企業支援のためのETFは日々12億円の購入を継続している。

  日銀が筆頭株主となる見通しについて、ファナックでは一般の株主と同様に捉えているとブルームバーグに回答。他の企業はノーコメントか、15日時点でまだ回答が得られていない。

  日銀の保有株推計に際しては、日銀が公表しているETF購入額を6月末の時点でいったん時価評価し、投資信託協会のETFの60%を保有していると試算。投信協会のETFが個別銘柄をどれだけ保有しているかをそれぞれ1銘柄ずつ算出し、その60%を日銀が保有していると推定した。その上で8月初旬時点で再度時価評価し、日銀が年間6兆円のペースでETFを購入すればその比率がどう変化するかを予想した。

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