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100円突破で「すーっと」円高加速も、90円前後で介入GOとミスター円

更新日時
  • 日米合意なき介入は全く効かない-榊原氏
  • ドルに対する主要10通貨の騰落率で、円は年初来の上昇率がトップ

円相場は今月にも1ドル=100円を再び突破するー。ミスター円の異名を取る榊原英資元財務官は、円高・ドル安に弾みが付く可能性があり、90円に迫れば為替介入もあり得るとみている。

  青山学院大学教授の榊原氏(75)は1日のインタビューで、為替相場は緩やかな円高・ドル安基調がしばらく続くが、「ファンダメンタルズだけではなく、勢いが付くと一気に転がり始めることがある」と指摘。100円を突破すると「すーっと行く可能性がある。90-100円のレンジになる可能性がかなり高い。最初は95-100円だが、95円を切る局面もあり得ないことではない」と述べた。

  急激な円高が進むたびに市場関係者の間で話題となるのは為替介入観測。榊原氏はその可否について、「米財務省次第だ。介入は両国当局の合意が必要だからだ。仮に合意なしで実施しても、市場に見透かされて全く効果が出ない」と指摘し、「私も溝口善兵衛氏の時も、米国と完全に手を握っていた」と語った。「米国は今は介入に反対だが、90円を突破するような気配が出てくれば危機感を持つだろう。極端で急速なドル安は米経済にも、ウオール街にも好ましくない。90円を割れれば、日米で合意の可能性もある」と言う。

Eisuke Sakakibara

Eisuke Sakakibara, former Japanese vice finance minister.

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  円の対ドル相場は、英国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利してリスク回避の動きが強まった6月24日に99円02銭と2013年11月以来の高値を付けた。その後、日本政府の経済対策や日本銀行の追加緩和への期待などから107円台半ばまで戻す場面もあったが、7月29日には日銀の発表した追加金融緩和が予想を下回る内容だったことや米景気の減速を受け、105円台半ばから101円97銭まで急騰した。ドルに対する主要10通貨の騰落率で、円は年初来の上昇率が17%超と最も高くなっている。 

薄れる異次元緩和の効果

  榊原氏は、1995年5月に大蔵省(現財務省)の国際金融局長に就任。円相場は、同氏が就任前の4月に当時の戦後最高値79円75銭を記録した後も80円台で推移していたが、米欧との協調介入や米国の利上げ、日銀の利下げなどを背景に、同年9月に100円の大台を回復した。アジア経済危機が発生した97年7月からは財務官を務め、日本経済が金融危機に直面する中で巨額の円買い介入も手掛けた。

  財務省の為替介入実績によると、政府・日銀は円相場が75円35銭と戦後最高値を更新した2011年10月31日に過去最大となる8兆722億円の円売り・ドル買い介入を実施。翌月4日まで続けた後、足元まで介入していない。

米利上げ

  米国では昨年12月に利上げが実施されたものの、再利上げについては世界経済の減速とともに不透明感が強まっている。4-6月期の米実質国内総生産(GDP)は前期比年率1.2%増と市場予想の半分未満にとどまった。ブルームバーグがフェデラルファンド金利先物を基に算出した年内利上げの予想確率は4割を割っている。ドル指数は先週末に約2カ月間で最大の下げを演じ、ほぼ1カ月ぶりの安値を付けた。

  一方、主な貿易相手国の通貨に対する円の総合的な強弱を示す名目実効為替レートは、昨年6月に約8年ぶりの安値を付けた後、約3割の上昇となっている。先月11日には第2次安倍晋三内閣の発足直後に当たる13年1月以来の高水準を付け、日銀の追加金融緩和を受けた週明け1日の上昇率は英EU離脱選択の直後以来の大きさとなった。

  榊原氏は「日米双方からの要因で円高・ドル安基調は緩やかだが、まだしばらく続く」とした上で、「米経済動向の影響は大きい。米利上げは年内に1回か、全くないとの見方になってきた。期待ほど成長しなければドル高は続かず、円高になる」と指摘。日銀の黒田東彦総裁が進めてきた前例のない金融緩和の効果は「そろそろ最終局面に入ってきた」との見方を示した。

「金融緩和疲れ」

  日銀が異次元金融緩和を導入してから3年以上が過ぎた。その間、年間に買い増す国債の額は80兆円に拡大、対象となる国債の平均残存期間は7-12年程度にまで長期化。金融機関の日銀当座預金の一部にはマイナス0.1%の金利を適用し、指数連動型上場投資信託(ETF)の買い入れやドル資金の貸出枠も増やしている

  榊原氏は、日銀は9月に実施する黒田緩和の「総括的な検証」の結果、「さらなる緩和が必要だと判断すれば、かなりアグレッシブな追加緩和に踏み切るだろう」と予想。対象候補には量的な拡大や一段のETF増額などを挙げた。「追加緩和自体は円安要因だが、9月に実施しても、あまり円安にはならず、110-120円に戻る展開にはならない。株価も大して上がらない可能性が高い」と分析。金利はもう十分に低く、市場が「金融緩和疲れ」しているからだと説明した。

  日銀の企業短期経済観測調査(短観、6月調査)では、大企業・製造業が事業計画の前提とする今年度の想定レートは111円41銭だった。昨年度より8円46銭円高を見込んでいたが、足元の相場は102円前後とさらに円高に進んでいる。円高は輸出企業の収益減や株安、物価の押し下げ要因となる。内閣府経済社会総合研究所の調査では、輸出企業の採算レートは103円20銭だ。

  榊原氏は「100円はそれほど危機的な状況ではない。輸出には逆風だが企業の海外進出が進んでいるし、そもそも輸出にマイナスだから経済全体にもマイナスだという考え方は時代遅れだ」と言う。

  ブルームバーグが与党関係者から入手した経済対策案の資料によると、この日閣議決定する経済対策の財政措置13.5兆円のうち、財政支出は7.5兆円程度、残り6兆円程度は財政投融資で対応する予定だ。一方、国債等の発行残高は3月末に1075兆円と過去最大を更新している。国際通貨基金(IMF)は日本の政府債務残高が今年は名目GDPの249.3%、19年には251.9%に膨らむと予測する。

  榊原氏は「大規模な財政出動は一時的にはともかく、累積債務を考慮すれば、継続的にやるのは難しい」と指摘。「高成長で財政再建を図ろうとしてもバブル化の恐れがあるため、1%成長を前提に考えなくてはならない」と言う。「高齢化で社会保障関連費などの歳出削減は難しいので、消費増税しかない。「予定通り10%に引き上げ、10-15年かけて欧州並みの20%程度まで上げていく必要がある」と語った。

   安倍内閣は14年4月に消費税率を5%から8%に引き上げた。ただ、景気減速懸念を理由に、同年11月には10%への再増税を15年10月から17年4月に延期。今年6月には19年10月に再び先送りしている。

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