日銀:「総括的検証」で枠組み修正か-今回はETF増の「小粒」回答

  • できるだけ早期に2%達成の約束「変えるつもりない」と黒田総裁
  • 「結論ありきではなく、公平な視点で検証を」とドイツ証券・小山氏

市場の圧倒的多数が追加緩和を見込む中、日本銀行が出した答えは指数連動型上場投資信託(ETF)の買い増しという「質」の緩和だった。3次元の残り2つである「量」と「金利」の緩和を見送ったことで、緩和手段の限界説は一段と高まっている。黒田東彦総裁が予告した「総括的な検証」により、マイナス金利付き量的・質的金融緩和の枠組みが見直されるとの見方が広がった。

  エコノミスト41人を対象に15-22日にブルームバーグが実施した調査で、追加緩和予想が32人(78%)を占め、直前予想としては量的・質的金融緩和が導入された2013年4月会合以降で最も高かった。手段はETF買い増しを予想する回答が最も多かった。安倍晋三首相が直前に28兆円の経済対策を打ち上げ、麻生太郎財務相が「最大限の努力」を求める中、日銀はETFの年間買い入れ額を3.3兆円から6兆円に引き上げることを決めた。

  政府は直ちに歓迎のコメントを発表、日銀との協調ぶりを演出した。麻生財務相はフランス出張中にもかからず、黒田総裁が記者会見で詳細を説明する前に文書で談話を発表し、デフレ脱却や持続的な成長に向け日銀と一体となって取り組むとコメントした。財務相が日銀決定について文書でコメントを出すのは初めてだ。

「苦しい台所」

  みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは29日のリポートで、日銀は「政府との間合いを優先」したものの、メニューは「小粒」だったと指摘。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストも同日付のリポートで、政府の経済対策や円高圧力の板挟みになって、「動ける限界に直面した苦しい日銀の姿が浮き彫りとなっている」と記した。

  日銀の発表前から上下2円と大幅な値幅で神経質に推移していた円ドル相場は発表後に急伸し、一時1ドル=102円台を付けた。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは同日付のリポートで、長期国債の買い入れ増額が見送られたことで、「あらためて国債購入が限界に達しつつあることが確認された」と指摘。マイナス金利についても「わずか半年で限界が明らかになった」とみている。

  東海東京調査センターの武藤弘明チーフエコノミストも同日付のリポートで、「市場で評判の悪い『マイナス金利の深掘り』や、市場では期待されていても技術的には継続困難な『長期国債の買い入れ増額』を回避したのは、日銀の苦しい台所事情を反映したものと言えるだろう」と指摘する。

「総括的な検証」指示

  日銀の発表文で、具体的な緩和の内容よりも注目を浴びたのは、マイナス金利や量的・質的金融緩和の下での経済・物価動向や政策効果について、次回9月20、21日の決定会合で「総括的な検証」を行うよう議長である黒田総裁が「執行部に指示した」という一文だ。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは同日付のリポートで、日銀の国債保有比率が年末に4割に達する見込みで、「国債市場の流動性低下は市場のインフラ面で副作用が大きくなっている」と指摘。マイナス金利導入以降の国債利回りのマイナス化についても「金融機関・家計の運用利回りの圧縮とともに、日銀の国債買い入れオペのコスト増にもつながっている」という。

  その上で、黒田総裁が自身の任期終了(18年4月)をにらみ、「マイナス金利政策の運用の仕組み、あるいは国債買い入れの在り方について、将来の出口を意識した見直しを行うかもしれない」とみる。

日銀の無謬性からすると現状肯定か

  しかし、会合後に行われた黒田総裁の会見は、こうした見方とは一線を画した発言に終始した。2%の物価目標をできるだけ早期に実現するとのコミットメントは「変更する考えはない」と強調。マイナス金利については「まだまだ深掘りしていく余地はあり得る」、量的な緩和も「非常に重要」で、「軽視するようになるとは思わない」、ETFも「必要があれば買い入れ増額等も検討する」と語った。

  日銀は経済・物価情勢の展望(展望リポート)を公表した4月会合で、4回連続で2%の達成期間を先送りした。原油価格下落を理由としてきた過去3回と異なり、国内需要や賃金の低迷が理由だったにもかかわらず追加緩和を見送ったことで、為替相場が乱高下した。6月会合でも同じような混乱が起きたが、黒田総裁はこの日の会見で、市場との対話に「問題があるとは全く思っていない」と言い切った。

  SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは同日付のリポートで、次回会合での「総括的な検証」を打ち出した点は「極めて重要」としながらも、これまでの政策運営に誤りはないという「日銀の無謬(むびゅう)性を前提とすれば、検証結果に関しては『従来の緩和措置は十分な効果を発揮してきた』という内容がメーンシナリオとなるだろう」とみる。

結論ありきでなく公平な検証を

  日銀企画局は2015年5月に「量的・質的金融緩和-2年間の効果の検証」という報告書を公表した。ドイツ証券の小山賢太郎エコノミストは29日付のリポートで、そこでの結論は「おおむねポジティブなもの」だったと指摘。今回、金融政策決定会合でその効果を検証すると宣言したことには「大きな意味がある」とした上で、「ぜひ結論ありきではなく、公平な視点で検証を行っていただきたい」という。

  シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは同日付のリポートで、黒田総裁の市場との対話はこれまで「すべてはうまく行っている」と強調する傾向が強かったが、今回の総括的な検証は「黒田総裁にとって転機となる」可能性があると指摘。短期決戦から長期戦に移行する中、日銀の市場との対話も転換を求められており、総括的な検証は「その端緒となるだろう」とみている。

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