GPIF:収益率マイナス3.81%、金融危機以降で最悪-15年度

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  • 収益額はマイナス5兆3098億円、1-3月期はマイナス4兆7990億円
  • 自主運用を始めた01年度からの累積収益、45兆4239億円に目減り

世界最大の年金基金、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2015年度運用成績はリーマンショックが起きた08年度以降で最悪となった。国内外の株式や外国債券を増やす抜本的な資産構成の変更があだとなり、世界的な株安や円高による逆風をまともに受けた。

  GPIFが29日午後に公表した昨年度の運用状況によると、収益率はマイナス3.81%、収益額はマイナス5兆3098億円。いずれも過去最高だった前年度から一変した。3月末の運用資産は134兆7475億円。年度末として最高だった1年前の137兆4769億円から2兆7000億円超減った。前身の年金資金運用基金として自主運用を始めた01年度からの累積収益は45兆4239億円に目減りした。

GPIFの運用状況

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  高橋則広理事長は会見で、「昨年度の運用では3リスク資産の分散効果があまり働かなかった。 しっかりと謙虚に受け止めたい」と述べ、運用方針については、「今のポートフォリオ、対応能力は相当ある、十分やれると考えてい る。今後は資産構成の目標値の許容乖離(かいり)幅を活用したい」と語った。

  資産別の収益率は国内株式がマイナス10.80%、外国株式はマイナス9.63%と、ともに08年度以来の低水準となった。外債はマイナス3.32%。円高による目減りを、価格の上昇で補い切れなかった。収益が唯一増えた国内債券は4.07%と02年度以来の高水準。世界経済の減速や市場の混乱に加え、日本銀行が1月末に導入を決めたマイナス金利政策が追い風となった。

  高橋理事長は、「日本国債でインカムを得るのは非常に難しい局面に入ってきている」と指摘。資産構成の変更はせずに、国内債の中で少しでも金利が残っている物を多めにする意向だ。「資産構成見直しでインカム収入の多様化を図ってきたのは非常に大 きなアドバンテージだ。今後もリスク資産も含めて安定した収入を得られるよう、落ち着い た運用を考えていきたい」と述べた。

  年金特別会計が管理する資金を含めた積立金全体に占める国内債の割合は37.55%と、資産構成見直しに伴う残高圧縮が一巡する前の昨年3月末から1.84%ポイント低下した。国内株は21.75%と0.25ポイント後退する一方、外株は22.09%と1.2ポイント上昇。外債は13.47%に上昇し、短期資産は5.14%だった。全体の5%を上限とするインフラ投資やプライベートエクイティ(PE、未公開株)、不動産などのオルタナティブ(代替)投資は0.06%に増えた。

  GPIFは今回初めて、保有する全ての個別銘柄(15年3月末時点)を公表した。債券は発行体名と時価総額を、株式は銘柄名や株式数、時価総額などを開示。業務概況書では内外債券・株式の4資産ごとに時価総額が10位までの発行体・銘柄を明らかにした。

  GPIFは14年10月末の資産構成見直しで、経済活性化による将来の金利上昇を視野に国内債の目標値を60%から35%に下げる一方、内外株式はそれぞれ12%から25%へ、外債は11%から15%へ引き上げた。5%だった短期資産は各資産に分散して管理。国内債への偏重から、株式と債券が半分ずつで国内資産6割・外貨建て資産4割という分散型に変えた。

  新たな目標値に向けた資産構成の変更は昨年央までにほぼ一服している。ただ、その直後にギリシャの債務危機や中国の人民元切り下げを受けた世界的な市場の混乱が相次ぎ発生し、リスク回避の円高局面で内外株式と外債を増やしたことが評価損の拡大に拍車を掛けた。年明け以降に再燃した株安・円高も追い打ちをかけた。

  長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは3月末時点でマイナス0.05%と、1年間で45ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下した。TOPIXは12.7%安い1347.20。米国債の10年物利回りは1.7687%と15bp下げた。MSCIコクサイ・インデックスは円換算で10.9%下落。円の対ドル相場は1ドル=112円57銭と7円56銭上昇した。

  昨年度分と同時に発表した1-3月期の収益率はマイナス3.52%、収益額はマイナス4兆7990億円。四半期としては08年度以降で3番目の悪さだった。資産別では国内債2.78%、国内株マイナス12.14%、外債マイナス1.64%、外株マイナス5.83%だった。

  世界中の投資家が経済の減速や株安、為替相場の不安定さなどに苦しむのを尻目に、好成績を上げた事例もある。カナダの年金運用最大手、カナダ年金制度投資委員会(CPPIB)は昨年度の収益率が3.4%だった。3月末時点の運用資産2789億ドルのうち、52.9%を上場または非上場の株式が占め、債券は26.9%、インフラ投資と不動産からなる実物資産は20.8%だった。

  GPIFの評価損は政争の具にされやすい面がある。今回の運用成績公表は例年より3週間前後も遅く、10日の参院選より後となった。GPIFは5月末に、基本ポートフォリオの変更は必要ないと結論付けた定期検証結果を公表。しかし、民進党は先月27日に「年金損失『5兆円』追求チーム」の初会合を開き、年金積立金の運用損に関する公開質問状を塩崎恭久厚生労働相宛てに提出した。

  アムンディ・ジャパンの吉野晶雄チーフエコノミストは、GPIFの評価損が「政治的にどのように利用されていくのか気になる」と指摘。「ここで運用方針を変えてしまっては駄目だ。荒ぶる周りの反株式投資派に対し、どこまで説得力のある説明ができるか」が重要になってくると読む。

  高橋理事長は、政府との政策協調に関しては、「直接言われたことないし、間接的に思ったこと も一度もない」と述べた。

  GPIFは保有銘柄の初公表に伴う市場への影響に配慮し、今回は3月末ではなく昨年3月末時点の情報を開示した。今年3月末の状況は11月25日に公表。来年7月の年次報告時からは同年3月末の保有銘柄を明らかにする方針だ。

  昨年3月末に保有していた時価総額が国内株で最も大きかったのはトヨタ自動車、次いで三菱UFJフィナンシャル・グループ、3位が三井住友フィナンシャルグループ。外株では米アップルが最大で、米エクソン・モービル、マイクロソフトが続いた。国内債の発行体は政府、日本高速道路保有・債務返済機構、地方公共団体金融機構の順。外債は米国、イタリア、フランスの時価総額が大きかった。

(高橋理事長のコメントを第3段落などに追加して更新します.)
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