ヘリマネより米利上げが「本筋」、みずほ銀、ドイツ証など円強気維持

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  • 今回ドラスティックなことやるインセンティブない-JPモルガン
  • ヘリマネはQEという形で多くの先進国ですでに実施との指摘も

ヘリコプターマネー観測など日本の政策期待で円高修正が進んだ為替相場。ストラテジストらは、期待先行の感が否めず、米国の利上げ再開が見通せない限り、円高見通しは変わらないと指摘している。

FRBのイエレン議長

Photographer: Andrew Harrer/Bloomberg

  円相場は今週、6月初旬以来となる1ドル=107円台まで円安が進んだ。政府による大型経済対策や日本銀行の追加緩和期待、日銀が財政支出をファイナンスするというヘリコプターマネー政策への思惑が、英国の欧州連合(EU)離脱ショックで一時99円ちょうど付近まで進んだ相場を円安方向に押し戻した。一方、21日の海外市場では日銀の黒田東彦総裁のヘリマネ否定発言を受けて円が急反発し、対ドルでは105円台に戻した。

  みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは、「結局、ヘリマネということの定義を誰も明確化しないまま議論が進み、勝手に盛り上がったのが実態」と指摘。ヘリマネが円買いポジションの巻き戻しの材料に使われただけだったと言い、「これで本筋のファンダメンタルズ、金融政策に焦点が回帰し、円高基調が確認されることになる」と語った。

  日銀の黒田東彦総裁は21日放送の英BBCラジオ4の番組で、現在の制度的枠組みを考えると、現段階で「ヘリコプターマネーは必要性も可能性もない」と語った。このインタビューは6月17日に収録された。

  日銀は2%の物価目標を達成するため、金融市場で年間80兆円の日本国債を積み増す資金供給を行っている。1月にはマイナス金利政策の導入も決めたが、デフレ脱却には至っていない。むしろ、世界経済成長の鈍化や英EU離脱決定、為替の円高傾向などにより、日本の経済・物価の下振れリスクは高まっている。

  こうした中、黒田総裁と安倍晋三首相が先週、ヘリコプターマネー政策の信奉者として知られるバーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長と会談。その直後に、同氏が今春に訪米中の安倍首相の政策ブレーンとの会談で、政府が市場性のない永久国債を発行し、これを日銀が直接全額引き受ける手法に言及していたとブルームバーグが報じ、市場ではヘリマネの思惑が一気に広がった。日銀は28、29日に金融政策決定会合を開く。 

「根本的に危ない政策」

  中央銀行による究極の資金ばらまきとされるヘリマネは、ノーベル経済学賞受賞者のミルトン・フリードマン氏が1969年に提唱した景気対策をバーナンキ氏が何度となく比喩表現したことで世間に知れ渡った経緯がある。バーナンキ氏は2003年5月の日本での講演でも、世界恐慌発生後の1930年代、当時の蔵相、高橋是清が国債の日銀引き受けによる財政拡張というリフレ政策などでデフレを乗り越えたことを紹介している。

  JPモルガン・チェース銀の佐々木融市場調査本部長は、ヘリマネはいったん始めれば歯止めが効かなくなる「根本的に危ない政策」で、「1回やるなら、長年にわたって効果が続くような使い方をしようということを決めてやるべき。お金をいくら使うかといった議論より、何に使うかを考えなければ、切りがない」と指摘。「ドル・円が100円を上回る水準にある今の状況で、今回そんなドラスティックなことをやるインセンティブはない」と語る。 

  日本では、財政法の第5条が公債の日銀引き受けを禁じているものの、「特別の事由がある場合に、国会の議決を経た金額の範囲内」なら行えるただし書きがある。日銀法第34条にも同じ旨の規定がある。

  三井住友銀行市場営業統括部副部長でヘッド・オブ・リサーチの山口曜一郎氏は、「曲がりなりにもセカンダリー市場で買うという形でワンクッション入っていたものを完全に直接財政ファイナンスという形にしてしまった場合、経済的効果は同じでも財政規律に対する部分のアンカーが外れてしまうという不安がある。通貨の価値に対する信認が低下する可能性がある」と話す。  

円高リスク

  主要通貨の年初来騰落率を対ドルで見ると、円は14%高と最も強い。シカゴマーカンタイル取引所(CME)国際通貨市場(IMM)の先物取引非商業部門の円の買い越しは直近縮小したとはいえ高水準。オプションの需給を示すドル・円のリスク・リバーサルも、円が戦後最高値を記録した2011年以来の水準付近にあり、円高リスクに対する警戒の強さを示唆している。

  「ヘリコプターマネーは、多くの先進国で程度の差はあれ、QE(量的緩和)という形ですでに実施している」。そう指摘するドイツ証券の田中泰輔チーフ為替ストラテジストは、「従来のQEで2%インフレ目標が未達になっている構造的な逆風を勘案すれば、日銀がさらに急進的なヘリコプターマネー政策を導入しても、同目標の実現に至る可能性は小さい」と読む。

  田中氏は、米景気が堅調で年後半の利上げ観測が再浮上している場面で日銀が事実上のヘリマネ政策を強化すれば、「円安へもう一段弾みが着く可能性」はあるが、米景気不振で利上げ観測も後退する場合は「日銀がどのような追加策を講じても、ドル安が優勢となり、円安は持続し得ない」とみている。「向こう数カ月、ドル・円が110円を超えて上伸する可能性より100円を割り込むリスクを引き続き警戒しており、9月末97円、年末94円をメーンシナリオに採用している」と言う。
  
  ブルームバーグが金利先物相場動向を基に算出した年内の米利上げ実施の確率は4割強と、年初の9割超から低下している。日銀会合に先立ち、26、27日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利は据え置かれる見通しだ。昨年12月にゼロ金利を解除した後、金融引き締めに慎重な姿勢を維持しており、今回で5会合連続の利上げ見送りになるとみられている。

  みずほ銀の唐鎌氏は、米国の利上げプロセスが疑わしいという論点は1年前から変わっておらず、ドル高に加えて英国のEU離脱やテロなど「日増しに利上げができない理由がたくさん出てきているのが実態」と指摘。「歴史的に米国が連続的に利上げできないときに円安基調になったことは一度もないはずだ」とし、「ドル・円が90円台に定着するのは至極あり得る展開」と語った。

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