永久国債こそが黒田緩和からの撤収策、円と国債の暴落防ぐ-岩村教授

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  • 実質的にヘリコプターマネーの領域に入っている
  • 変動金利化が決定的に重要、出口時の巨額損失を防げる

かつて国内金融システムの危機と闘った日本銀行OBが、異次元緩和からの撤収策を提言している。円や日本国債の信認失墜による暴落がもたらす大惨事を未然に防ぐ秘策は、日銀保有国債の永久債化だと言う。

  「実質的にヘリコプターマネーの領域に入っている」。山一証券など国内有数の金融機関の破綻が相次いだ1990年代後半に、日銀企画局・信用機構局の幹部として対応に追われた早稲田大学大学院の岩村充教授(66)は、政府の財政支出を中央銀行が紙幣増刷で賄う状況が国内で事実上進行し、金融政策は国債管理政策の一環になっていると指摘する。

  岩村教授は18日までのインタビューで、将来的に財政の持続可能性や債務借り換え能力への疑念から「急速な円安と長期金利の急上昇はあり得る」と言い、日銀の保有国債が「固定金利のままだと巨額の評価損が生じ、円や財政の信認がガタガタと崩壊する非常に不連続なショックが起こる可能性が高い」と懸念を示した。

岩村充教授

Source: Nowcast Inc.

  日銀が抱える全ての国債を変動金利型・繰り上げ償還条項付きの永久国債に換えることで、金利の上昇局面や政府の債務削減問題に備え、異次元緩和の継続に伴って増えていく分にも同様の措置を講じるべきだと指摘。岩村教授はまた、日銀の資産である永久国債と負債に当たる金融機関からの準備預金を円滑に管理・運用するため、二つの階層からなる新たな準備預金の枠組みも提案している。

  異次元緩和の導入から3年余りたつが、日銀が掲げる2%の物価目標を達成できるめどは立っていない。10兆円規模の経済対策を表明した安倍晋三首相は先週、ヘリコプターマネー政策の支持者で、「ヘリコプター・ベン」の異名を取る前米連邦準備理事会(FRB)議長のベン・バーナンキ氏と会談した。バーナンキ氏が前内閣官房参与の本田悦朗氏と4月に永久国債について議論していたことが報じられると、市場は円安と金利上昇で反応した。

  永久国債は無利子の日銀引き受けで財政資金を安易に調達する手立てとしての提案が散見され、財政規律喪失の表れと危険視されがちだ。しかし、岩村教授の提言はこうした永久国債の議論を逆手に取る形で、将来の長期金利上昇時にも日銀の財務健全性や円の信認、財政の持続可能性を確保できる枠組み作りを目的としている。

  岩村教授は、日銀の保有国債を「変動金利型に換えることが決定的に重要だ。金利急変には固定利付債より圧倒的に強く、出口時の巨額損失を防ぐことができる」と説明。永久国債化については「変動金利にするなら期限を切る必要はない。いつ出口に至るのか正確には見通せない中で、日本経済の資金循環上は国債を消化する資金は十分あるのに、意味不明な借り換えリスクによる猛烈なショックを防ぐ意図もある」と述べた。

  国債等の発行残高は3月末に過去最大の1075兆円に達した。巨額の買い入れを続ける日銀の保有割合は3分の1を超え、今月10日時点では382.7兆円。国際通貨基金(IMF)は日本の政府債務残高が今年は名目GDPの249%、19年には252%に膨らむと予測する。しかし、市場では円は投資家のリスク回避時に買われる安全通貨とされ、国債利回りは発行残高の8割超がゼロ%を下回っている。

  岩村教授は1974年に東大経済学部卒業後、日銀に入行。96年から企画局兼信用機構局の参事を務めた。98年に早稲田大学大学院教授に就任し、2016年4月から経営管理研究科教授。「中央銀行が終わる日」(新潮社)や「貨幣の経済学」(集英社)などの著作がある。

  今回のインタビューでは、「愚かなヘリマネ論議は『流動性のわな』から出た後のことを全く考えていない。金利がわずかに上がっただけでも大変だ」と指摘。国債残高が1000兆円超で平均残存期間が10年の場合、金利が1%上がったら評価損は100兆円を超えるが、仮に現実のものとなったら「1997年の国内金融システム危機を上回るショックだ。評価損益系のショックは実体経済に影響を及ぼすはずがないと考えたいが、経験から学んだのは関係があるということだ」と語った。

インパール作戦、回避を

  世界恐慌発生後の31年に発足した犬養毅内閣時代。高橋是清蔵相は金本位制からの離脱と円の切り下げ、国債の日銀引き受けによる財政拡張というリフレ政策を断行した。他の主要国に先駆けて景気回復とデフレ脱却を果たしたものの、高橋蔵相はインフレを抑えるため軍事予算などの膨張抑制に転じ、36年の2・26事件で命を落とす。財政面でも軍部の暴走を抑えきれなくなった日本政府は、対中全面戦争を経て45年の無条件降伏に至った。

  岩村教授は、異次元緩和を当時の日本の状況になぞらえて、「44年の夏ごろの状態だ。今さら戦争を始めた是非を言っても仕方ない。どうやって終戦に持ち込むかが大事だ」と指摘。「ここまで来たんだから突き進んだ方が良いという『インパール作戦』的な思考から日本を、何より日銀を自由にしたい。日銀がヤケクソにならないためには出口時にやるべきことを明確にしておく必要がある。今のままでは、とても厳しい」と言う。

  インパール作戦は第2次世界大戦でビルマ(現・ミャンマー)まで進出した日本陸軍が44年春から初夏にかけて、インド北東部にあった英印軍の拠点攻略を目指した軍事作戦。弾薬や食料といった補給面の不備と雨期における疫病のまん延、数万人規模の餓死・病死者を出した、歴史的な愚策とされる。

  中銀による財政ファイナンスは日米欧とも法律で原則禁止。日本では、財政法の第5条が公債の日銀引き受けを禁じている。ただ、「特別の事由がある場合に、国会の議決を経た金額の範囲内」なら行えるただし書きが、日銀法第34条と並列的に記されている。岩村教授は、「日銀保有分に限った永久国債化なら財政法第5条をめぐる議論は必要だが、技術的には難しくはない」と指摘。「日銀が大量に持っている今こそがチャンスだ」と言う。

  岩村教授によれば、日本のヘリコプターマネーはゼロ金利政策を採用した速水優総裁の時代から気配を漂わせていた。日本は「異次元緩和依存症だ。この薬を飲んでも病気は治らないが、飲むのを止めるのが怖いから飲み続けている」と指摘。来週29日の日銀金融政策決定会合でも「何かはしないといけないだろうが、もう何をやっても効かない」と言う。今回の提言は「政府・日銀や日本経済を依存症から救い出すための処方箋だ。緩やかに抜け出せる道を用意することが圧倒的に重要だ」と述べた。

「突然死」に群がる虫

  岩村教授が提唱する日銀保有国債の永久債化と不可分の新たな準備預金の枠組みは、銀行券での払い出しが可能な第1階層預金と、払い出しはできないが第1階層対比の上乗せ金利が得られ、最低保証利率もある第2階層預金からなる。第2階層は金融機関同士で譲渡でき、第1階層への振り替えも可能だが、第1から第2への振り替えは日銀の募集に対する応募以外にはできない仕組みだ。

  岩村教授の説明によれば、日銀は金融機関に対し、第2階層預金への振り替えを入札方式で募集し、落札額の範囲内で保有国債を追加的に永久債に転換。永久債の利回りはこの入札で決まった金利上乗せ幅に準じ、最低保証利率を下回らない範囲で翌日物金利と連動とする。政府は永久債を額面で繰り上げ償還する権利を持つ。

  日銀が主体的に出口に向かうにせよ、市場がもたらすショックで強制的に放り出されるにせよ、変動金利型にしておけば、いざとなったら供給した巨額の資金を回収することができると、岩村教授は指摘する。日銀が翌日物金利を上げられないうちは資金が寝ているだけだが、金利を引き上げていけば、借り手である政府が永久債を繰り上げ償還して固定利付債に切り替えていくため、余剰資金は自然と消えていくと言う。

  長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは8日にマイナス0.30%と過去最低を更新。20年債利回りも初めてマイナス圏に突入する場面があったが、バーナンキ氏と本田氏による永久国債の議論が報じられた14日以降は上昇基調を強めており、この日は0.20%と英国が欧州連合(EU)離脱を選択する前の水準まで戻している。円相場も1ドル=107円49銭と約1カ月半ぶりの安値を付けた。

  三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美シニアマーケットエコノミストは、通常の永久国債は基本的に無利子と考えられると指摘。ヘリコプターマネーによる返済義務のない通貨発行との見合いで日銀の資産として計上されるが、実態は紙切れに等しく通貨の信認を損なうため、円安・インフレを適度なところでとどめる退路はないとみる。

  BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは、政府は金融緩和の効果が限界に達したと認識しており、10兆円規模の財政出動を17、18年度も出してくると分析。「市場はそんな状況を織り込みつつある。すでにヘリコプターマネーの領域に片足を突っ込んでいるが、やめると痛みを感じるのでやめられないモルヒネ中毒状態だ」と話した。

  岩村教授は「突然死しそうな経済・財政には『虫』が寄ってくる。こうした虫を倫理的に批判しても意味がない。勝機があると思わせては絶対に駄目だ。市場にアタックされるシナリオだけは避けなくてはならない。こんな構想があると示すだけでも、市場が円や日本国債を見る目が変わってくるはずだ。大もうけをもくろむ向きをがっかりさせてやりたい」と語った。

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