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日本の投資家に兵糧攻め、為替ヘッジ付き米国債も初のマイナス利回り

更新日時
  • 為替ヘッジ後の米国債利回りが初のマイナス圏に
  • 日本の20年債も初めてゼロ%を割り込んだ

安全性と引き替えに、わずかな利回りにも甘んじてきた日本人投資家は、いよいよ国内外のどこを見渡しても、行き場を失うことになりそうだ。

  米国の10年物国債利回りは6日、1.318%と過去最低を付けた。3カ月物フォワード金利で為替差損を回避(ヘッジ)した後の利回りは8日にマイナス0.08%と初めてゼロ%を割り込んだ。日本の国債利回りも、10年物がマイナス0.30%、20年物がマイナス0.005%と、ともに最低を更新している。

兵糧攻め状態

  日本銀行による巨額の国債買い入れを伴う異次元緩和とマイナス金利政策の導入を背景に、日本国債は発行残高の9割近くで利回りがゼロ%を下回っている。残存年数10年以下の利回りはマイナス幅を深める中、生命保険会社や年金基金の運用資金が集中する超長期物もゼロ%近くまで低下している。世界経済の不透明感を背景に、米欧でも債券回りの低下基調は鮮明だ。

  マスミューチュアル生命保険運用戦略部の嶋村哲金利統括グループ長は「円金利で収益を確保するのはもうきつい。代替投資先などの打開策も見えない。私も含め、兵糧攻めに遭っている状態だ」と指摘。日銀が「ほぼ無制限に買い入れる中で、日本国債はモラルや経済理論、純粋期待仮説などが通用しない世界に入りつつある」と言う。

  国債利回りは先週、新発の10年物と20年物に加え、30年物が0.015%、残存期間が最も長い40年債も0.045%と、全ての年限で0.1%を下回った。新発2年物はマイナス0.365%、5年物もマイナス0.375%と最低を更新した。

  財務省の統計によれば、国内勢は6月に海外の中長期債を1兆9452億円買い越した。1年前は約4.1兆円の売り越し。上半期の買越額は約13.2兆円と半年間としては過去最大となった。しかし、ヘッジ付きの米10年債利回りが先週、ついにマイナス圏に突入。国内でも米欧でも安全資産による利回り確保が難しい状況に追い込まれている。

  米バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの指数によれば、米国債の収益率は1-3月期に3.3%と2011年7-9月期以来の高さだった。英国の欧州連合(EU)離脱選択を受けて英ポンドの急落や世界的な株安・金利低下が進んだ先月には2.3%と、単月では昨年1月以来の好成績を記録した。ただ、今月に入ってからは0.5%と息切れしつつある。

  年初から足元までの収益率は6.2%。内訳は、価格上昇から約5%、金利収入から1.2%強だ。米国債は価格の上昇が続かない限り、収益率は鈍化せざるを得ない状況だ。利回りは10年物に続き、30年物も11日に2.088%と過去最低を更新し、直近10年間の平均値3.7%台を大きく下回っている。しかも、安定収益を求める日本勢にとっては為替ヘッジのコストが重荷になる。

利回りはなくてリスクだけ

  メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ債券ストラテジストは、世界経済をめぐる「不透明感が晴れない中では、海外金利も基調として低下せざるを得ない」と指摘。「米国債の10年物は為替ヘッジすると、利回りがほとんど残らない。日本人は海外に出ても、利回りはなくてリスクだけになりつつある」と語る。海外の社債などで信用リスクを取るか、為替ヘッジしないかといった選択を迫られる環境だと言う。

  国内勢が円を元手に外債を購入する際、将来的に円高が進行した場合の為替差損をヘッジするコストは、円と外貨のロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の差に加え、クロス通貨ベーシススワップが映す両通貨の需要格差に基づく上乗せ金利が目安となる。

  ドルと円の金利差は3カ月物で70ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)程度と1年前の約3.7倍。その背景には、利上げ期待が根強く残る米国と追加緩和観測がくすぶる日本のそれぞれの通貨に対する需要の違いがある。ドルと円の資金を一定期間交換することを条件に、それぞれの通貨金利に対する上乗せ幅を決めるベーシススワップ取引の3カ月物は11日に70bpと11年11月以来の水準に拡大した。その後も60bp台と高水準で推移している。

  米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和の縮小や米欧での金融規制強化に加え、日銀による異次元緩和下で運用収益の確保に苦しむ日本勢の外債投資などに伴うドル需給の逼迫(ひっぱく)。世界経済の減速懸念を背景に、米利上げ観測は年内1回を3割弱しか織り込んでいないほどに後退しているものの、ドルと円の需給格差は米利上げ観測が盛んだった局面より広がっている。

  日米の短期金利差とドル・円のベーシススワップでの上乗せ金利分を合わせると130bp台になる。モルガン・スタンレーMUFG証券の杉崎弘一債券ストラテジストによると、為替ヘッジのコストは両者の合計で決まるが、為替のスポットとフォワードの差でもある。米10年債利回りは12日に1.51%程度。ヘッジ後の利回りは1月に1.2%を超えていたが、先週末にマイナス圏に突入した後は、足元でわずか0.1%前後にとどまっている。

英EU離脱で金融緩和競争

  一方、財務省が12日実施した30年利付国債の入札結果は、最低落札価格が市場予想を下回り、投資家需要の強弱を示す応札倍率は2.64倍と1年ぶりの水準に低下。小さければ好調とされるテール(平均・最高落札価格の差)も75銭と、黒田東彦総裁が異次元緩和を導入した13年4月以来の大きさとなった。わずかながらもプラスの利回りが得られる超長期ゾーンに対する投資家需要にも陰りが見え始めている。

  日銀の異次元緩和は、その後の国債保有増の拡大などの追加緩和やオペで買い入れる平均残存期間の長期化などを経て、今年の国債購入目標の達成に必要な額は約120兆円に膨らんでいる。1月末には金融機関の日銀当座預金の一部に0.1%のマイナス金利を適用すると決めた。

  黒田緩和の金利低下圧力に加え、EU離脱選択で景気が低迷する恐れがある英国の利下げや欧州中央銀行(ECB)による量的緩和拡大、米利上げの先送りなどの観測を背景に、債券利回りの低下基調は世界的に鮮明になっている。

  メリルリンチ日本証の大崎氏は、「主要中銀の過度な金融緩和による金利低下でリスクとリターンが見合った安全資産がなくなり、むしろ中銀発のリスクを高めている」と指摘。国内外とも「債券運用は成り立たなくなっていく。中銀間の世界的な取り決めがない限り、金融緩和競争は収まりそうにない」と言う。

  日銀の統計によると、3月末の国債等の発行残高は1075兆円。それに占める日銀の保有割合は3分の1を超えている。市場の流動性は枯渇し、民間金融機関同士の取引は低迷。日本証券業界協会の統計では、都市銀行や信託銀行、生命保険会社や損害保険会社などの国債売買高は5月に合計10兆885億円とデータでさかのぼれる04年以降で最低となり、異次元緩和が始まる直前の13年3月より7割も減った。

  マスミューチュアル生命の嶋村氏は、日本国債が「ある程度のマイナス利回りなら、償還分の再投資を全くしないわけにはいかない。運用資産全体の収益率低下を抑えるべく工夫しながら、耐えるしかない」と説明。「運用で食べている会社としてはつらい状況だ」と語った。

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