円を手放して買うのは金、利息なしでも「デメリットでなくなった」

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  • 利回りゼロの金が今やハイイールドとみられる異常な世の中-豊島氏
  • 株下落やマイナス金利の影響大-TANAKAホールディングス

「金は世界共通だし、記念にもなる。株は勉強しないといけないし損してしまう。銀行に預金していても仕方がない」-。銀座の貴金属店「GINZA TANAKA」で、初めての子である1歳の娘の誕生日祝いに金を購入した会社員の工藤哲志(50歳)さんはこう話した。

  個人投資家の金購入は、英国の欧州連合(EU)離脱問題やアベノミクス懸念などが広がる中で一段と加速している。金地金販売の国内最大手TANAKAホールディングスによると、6月初めからの金地金販売量は23日以降、1日平均ベースの比較で2倍から3倍のペースで増えている。金コインの販売量も同月下旬には8倍近くに膨らんだ。

  同社貴金属リテール部の加藤英一郎部長によると、国内では英国民投票前日の6月23日から金現物の店頭販売が急伸し、価格も大きく上昇。「株価が実際に大きく下げたことやマイナス金利の影響が大きい。資産保全の一つとして金を選びたいという人が多い。金はインフレには強いが金利が付かないことがデメリットだったが、マイナス金利時代になってデメリットではなくなった」と言う。

  英国民投票結果が明らかになった6月24日、東京株式相場は急落。外国為替市場でドル・円相場は2013年11月以来となる1ドル=100円割れの水準までドル安・円高が進んだ。国債市場では、長期金利の指標となる新発10年物利回りが過去最低を更新した。一方、金価格は1オンス=1358.54ドルまで急上昇し、14年3月以来の高値を付けた。その後も高値更新が続いている。

A one-kilogram gold bar

Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  スイス銀行で外国為替貴金属ディーラーを務めた経験を持つ豊島逸夫氏(68歳)はブルームバーグのインタビューで、「利回りゼロの金が今やハイイールドとみられる異常な世の中。金が輝くのに、マイナス金利も追い風」と指摘。「7-8年ぐらいの長期間でみると、いずれEUは分裂して、ユーロがなくなるだろう。移民の問題は欧州全体に拡大しており、ナショナリズム台頭や孤立主義が強まることは間違いない。大きなマグニチュードが市場を襲う」と語った。

  安倍晋三政権は、日本銀行による大胆な金融緩和政策などを通じて、デフレ脱却を目指してきた。しかし、マイナス金利政策の導入にもかかわらず、円相場は上昇基調に転じており、その効果に対する懐疑的な見方もくすぶっていると豊島氏は指摘。アベノミクスの失敗に備えて、資産防衛を模索する動きにもつながっているとみる。

  豊島氏は、「アベノミクスはヘリコプターマネーをやりかねない。消費増税も2度先送りした。負の遺産を残すので、国民が将来ツケを払わされる」と指摘。「中央銀行が発行する通貨に対する不信の対極に金がある。人間は紙幣を刷り過ぎる。刷れない金の見直しというのは、ユーロ圏や日本の量的緩和の延長線上にある。金は無国籍通貨で、国の信用によって毀損されない価値がある」と語った。

  TANAKAホールディングスの加藤氏は、「最近は20代の若い人でも年金など老後のことを考えて、自分で何とかしないといけないと金を買っている。男性だけでなく女性の比率も高まっている」と説明した。

  安倍首相は11日午後の記者会見で、参院選で訴えた経済対策の準備に入るよう石原伸晃経済再生担当相に指示する意向を表明した。規模についてはこれから検討する。首相は「ゼロ金利環境を生かし、財政投融資を積極的に活用する」と語った。

  三菱総合研究所の森重彰浩シニアエコノミストは、安倍首相は任期中に消費増税をやる気はないと分析し、「消費税率引き上げ延期により、財政健全化目標達成は極めて困難になった」との見方を示した。財務省によると、国および地方の長期債務残高は16年度末に1062兆円に達し、国内総生産(GDP)比で205%に上る見込みとなっている。

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